兄弟に遺留分が認められない理由と同等の保証を残すための方法とは

更新日:2023.11.28

兄弟に遺留分が認められない理由と同等の保証を残すための方法とは

遺留分とは残された相続人の生活を守る制度で、相続の際に法律上取得することができる遺産の一定割合のことを言います。しかし相続人の兄弟はこの遺留分が認められていません。

ここではその理由と、「兄弟に遺留分のような保証を残したい」という時のための方法を解説します。

遺留分とはなにか

遺留分とは、一定の相続人のために、相続に際して法律上取得することが保障されている遺産の一定の割合をいいます。

極端な例ですが、被相続人が「愛人に遺産のすべてを相続する」旨の遺言を残した場合であっても、妻子は遺産の一部を遺留分として取得できることになります。

遺留分は残された相続人の生活を保障するための制度であり、被相続人の遺言より優先されるものです。

遺留分に関する権利を行使することを、以前は「遺留分減殺請求」といいました。

しかし、2019年7月1日に施行された改正民法において、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」に変更されました。

権利の内容としても、遺留分減殺請求であれば遺産が不動産などの場合には遺産そのものの共有持分を取得することができました。

れに対し、民法改正後の遺留分侵害額請求では、遺産そのものに対する持分を取得することはできず、代わりに遺留分に相当する金銭を請求できるという仕組みに変わっています。

兄弟には遺留分が認められないのはなぜ?

遺留分が認められているのは、被相続人の配偶者、直系卑属(子や孫など)、直系尊属(両親や祖父母など)です。

法定相続人となる者のうち、被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていないことには注意が必要です。

弟姉妹に遺留分が認められない理由としては、次に説明する2つがあります。

相続関係を見てみるとわかる

兄弟姉妹に遺留分が認められない最大の理由は、被相続人とは親族関係が遠いためです。

民法上の相続順位は、次の表の通り、相続人と被相続人の親族関係の近さによって決まります。相続順位が後になるほど法定相続分も少なくなります。

なお、配偶者は表の中に現れていませんが、これは他の相続人にかかわらず常に相続人となるためです。

配偶者は被相続人と一番関係が近いため相続においても最優先となっています。

相続順位 法定相続人 法定相続分の割合
第1順位 直系卑属(子や孫など) 2分の1
第2順位 直系尊属(両親や祖父母など) 3分の1
第3順位 兄弟姉妹 4分の1

上の表の通り、兄弟姉妹は法定相続人の中では最も順位が低くなっています。兄弟姉妹はいわゆる「傍系」であり、「直系」の親族と比べるとそもそも相続における順位が低いのです。

代襲相続という制度がある

このほか、兄弟姉妹には代襲相続の制度があることも、遺留分が認められない理由の一つといわれています。

代襲相続というのは、相続人となるはずだった被相続人の子や兄弟姉妹が、相続開始前に死亡した場合や欠格・廃除の制度により相続権を失った場合に、相続人となるはずだった子や兄弟姉妹の直系卑属(子や孫)が相続を受けるという制度です。

この代襲相続の制度は兄弟姉妹にも適用されますので、兄弟姉妹が被相続人の死亡する前に亡くなったようなケースでは、被相続人の甥や姪が代襲相続により被相続人の遺産を取得することがあります。

このとき、仮に兄弟姉妹に遺留分を与える制度を採用しているとすれば、被相続人の甥や姪が遺留分に関する権利を主張してくる可能性があります。

しかし、遺留分の制度はそもそも、被相続人が死亡した後に残された親族の生活を保障することにありました。

甥や姪は通常、自分たちの生活のために被相続人の遺産を期待するほど関係が近くないため、一律に遺留分を取得させる必要性が低いといえます。

このため、兄弟姉妹には遺留分を認めていないと説明されることがあります。

遺留分権利者とその割合

遺留分侵害額請求をすることのできる相続人を、遺留分権利者といいます。遺留分権利者は、法定相続人のうち以下の3つのいずれかにあたる者です。

  • 配偶者
  • 直系卑属
  • 直系尊属

直系卑属とは、被相続人からみて直系の子孫のことをいい、子供や孫などがこれにあたります。

直系尊属とは、被相続人からみて直系の先祖のことをいい、両親のほか祖父母などがこれにあたります。

反対に、遺留分権利者とならない法定相続人は、前述の通り被相続人の兄弟姉妹です。

また、遺留分権利者であっても、その立場によって実際に取得することのできる遺留分の割合が異なります。

遺留分割合の計算にあたっては、「総体的遺留分」と「個別的遺留分」の2段階にわけて計算されるという特徴があります。

総体的遺留分とは、遺産全体のうちどの程度が遺留分として認められるかの割合であり、相続人の組み合わせにより決まります。

個別的遺留分は、個々の遺留分権利者が実際に遺留分として受け取ることのできる割合です。

総体的遺留分は、以下の表の通りです。

相続人の組み合わせ 総体的遺留分
直系尊属(親など)のみが相続人 遺産全体の3分の1
配偶者や直系卑属(子どもなど)が相続人 遺産全体の2分の1

総体的遺留分を確認した上で、次に遺留分権利者が受け取ることのできる個別的遺留分を計算します。個別的遺留分は、総体的遺留分に、個々の遺留分権利者の法定相続分を掛けて算出します。

遺留分権利者ごとの法定相続割合は以下の表の通りです。

遺留分権利者 法定相続割合
配偶者直系卑属(子や孫など) 配偶者:2分の1、直系卑属:2分の1
配偶者直系尊属(両親や祖父母など) 配偶者:3分の2、直系尊属:3分の1

したがって、例えば、相続人が配偶者と子ども1人の場合、総体的遺留分は2分の1となります。

このとき、遺留分侵害額請求をする子どもに認められる遺留分は、総体的遺留分2分の1に法定相続分(個別的遺留分)2分の1を掛けた4分の1ということになります。

兄弟に遺留分のような保証を残したいときは

兄弟姉妹には遺留分がありませんが、被相続人が生前に兄弟姉妹の面倒を見ていたなどの事情がある場合には残された兄弟姉妹に対して最低限の遺産が渡るようにしたいというケースがあります。

このような場合には、生前に遺言書を書くことをおすすめします。このほかにも、兄弟姉妹に最低限の生活を補償したい場合の方策について以下解説します。

遺言書を書く

遺言があると、法定相続分に優先した相続が可能となります。

したがって、法定相続だと兄弟姉妹に相続権がないようなケースで兄弟姉妹に財産を残したいのであれば、必ず遺言を作成しておく必要があります。

遺産分割協議をする

遺言がなかったとしても、必ず法定相続通りに遺産が配分されるわけではありません。相続人同士の遺産分割協議によって法定相続分と異なる分割が可能とされています。

このため、親族の仲が良く相続争いになる可能性が低いというのであれば、相続人間の遺産分割協議の際に故人の意思を汲んで兄弟姉妹に遺産を残してもらえるよう期待できることがあります。

ただし、遺言に残していない以上は、故人の期待が必ず実現できる法的な保障はありません。

このため、兄弟姉妹に遺産を残したいという事情がある場合には、やはり遺言を作成しておいた方が安心といえます。

生命保険に加入しておく

遺言があったとしても、親族間の関係性によっては遺言の効力などを争われ相続争いに発展することはゼロではありません。

兄弟姉妹を相続争いに巻き込むことなく財産を残したいという場合には、契約者及び被保険者を被相続人とし、受取人を兄弟姉妹とする生命保険に入っておくことも有効です。

寄与分として主張できる場合も

兄弟姉妹は遺留分の請求はできないものの、寄与料の請求ができることがあります。

寄与料を請求できるのは、兄弟姉妹が相続人にあたる場合において、被相続人の生前に兄弟姉妹が相続財産の維持又は増加に特別に貢献したときです。

ただし、寄与料の要件を満たすことを証明するのは現実にはそう簡単なことではありません。また、寄与料の計算をめぐって相続争いに発展することはよくあります。

したがって、兄弟姉妹に遺産を残したければ、やはり被相続人が生前に対策しておくことが重要です。

執筆者プロフィール

弁護士 松浦 絢子


松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、男女問題など幅広い相談に対応している。

 

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