財産目録とは、不動産や預貯金に加え、借金なども含めた保有する資産・負債を一覧にまとめたもののことを言います。
相続において財産目録は非常に重要な意味があり、また理想的な状態で作成するためにはかなりの手間がかかります。
ここでは、財産目録の有用性や作成方法、専門家に依頼するメリットを解説します。
目次
1. 財産目録とは
財産目録とは、保有する資産や負債を一覧形式にしたものです。
財産目録に掲載されるのは、不動産や預貯金などプラスの資産に限られず、借金などマイナスの資産も含む点がポイントです。
財産目録を作成することにより、財産が漏れなく可視化されるメリットがあります。
財産目録が作成される場面は多岐に渡ります。相続に関連することだけでも、相続人が相続の限定承認を行う場合、遺言執行者が選任される場合などがあります。
また、被相続人の生前に成年後見人が選任されているのであればその手続きの際にも財産目録が作成されているはずです。
さらに、遺言を作成する際にも被相続人の財産を一覧化した財産目録が添付されることが多くあります。
2. 財産目録はスムーズな遺産分割に必要不可欠
生前に被相続人が保有する資産や負債について財産目録を作成しておくことは、相続人がスムーズな遺産分割を行う上で非常に重要なことです。財産目録は遺言に添付することができます。
ところが、実際には遺言を作成していない人も多いため、財産目録が存在しないことがよくあります。
財産目録が作成されていない場合、後から思わぬ資産や負債が出てくるのではないか相続人は不安を感じることになります。
また、遺産の全容が明らかにならないと遺産分割協議をすることが難しいため、結果として遺産分割の手続に時間や手間がかかることにもつながります。
3. 遺産相続で揉める家庭はかなり多い
遺産相続で揉める家庭はごく一部の資産家や富裕層だけであり自分は関係ないと考えがちですが、実際には遺産分割で揉める家庭はかなり多いといえます。
また、相続争いは多額の財産を有する資産家だけの問題ではなく、相続財産がそこまで多くない家庭でも遺産分割が争いの種となることがあります。
なぜ財産がそれほど多くなくても相続で揉め事が起きるのでしょうか。それは、相続によって親族間の長年の感情的なわだかまりが顕在化しやすいためです。
例えば、二人兄弟のうち次男が、「自分は兄に比べて親にお金をかけてもらえなかった」という気持ちを長年抱えてきた場合には相続分を少しでも多く取得したいと考えることがあります。
これは、単純にお金が欲しいというのではなく、亡き親の遺産を少しでも多く貰うことで自分の中の感情の穴埋めをしたいという動機があります。
したがって、相続人となるべき親族が存在している限りは、被相続人の財産の多い少ないにかかわらず遺産分割で揉める可能性があることは認識しておくべきです。
4. 財産目録作成しておくべき人とは
財産目録を作成しておくべき人は、例えば次のような方です。
- 遺言書を作成する方
- 親族が亡くなって相続放棄をすべきかわからない方
- 相続の限定承認をする予定の方
- 相続人の間で遺産分割協議を始める方
- 相続税の申告が必要となりそうな方
特に、被相続人となる方の保有する資産や負債が複数あり、全体像が掴めていない場合にはまず財産目録を作成しなければその後の方針決定や手続がスムーズに進まないことがあります。
5. 財産目録を作成しておく10のメリット
次に、財産目録を作成することのメリットを詳しく説明します。
① 無用なトラブルを避けることができる
遺産分割協議でトラブルの火種となりがちなのが、「本当はもっと遺産があるのに相続人の一人が隠しているのではないか」という疑いの気持ちです。
被相続人本人が財産目録を残していないと、相続人としては遺産の全体像を客観的に把握することが困難です。
相続人の一人が、相続財産の状況を調べて一覧にしたとしても、他の相続人からすると「財産目録を作った相続人が意図的に一部の財産を掲載していないのではないか」という疑いを抱いてしまうことがあります。
もし、生前に被相続人自身が財産目録を作成してくれていれば、相続人としても財産目録記載のものが財産のすべてであると納得せざるを得ません。
被相続人自身が財産を意図的に隠す可能性低いと考えられるためです。
したがって、生前に財産目録を作成しておけば、相続開始後に相続人の間で無用なトラブルが発生することを回避しやすくなります。
② 財産の全体像を明確に把握できる
財産目録を作成しておくと、財産の全体像が明確に把握できるメリットがあります。
相続の対象となる財産には、預貯金や土地・建物などプラスの財産のほか、借金などマイナスの財産もあります。これらを漏れなく財産目録に記載することが重要です。
例えば、遺言を作成する際に財産目録を先に作成することで、本人も忘れていた財産があることを思い出すことがあります。
このため、生前に相続対策をする際にもまず財産目録を先に作成するとよいでしょう。意外と忘れやすいのが、マイナスの財産の一つである連帯保証です。
知人や親族に依頼されて気軽に連帯保証をしたまま忘れていることがあります。もし思い当たるものがあるのであれば、財産目録に記載しておきましょう。
マイナスの財産の有無や規模は、次に説明する相続放棄の判断をする際に相続人にとっては非常に重要な情報となります。
本人からするとささいな負債と思われるものであっても、もれなく記載しておくことが後々のトラブルを避けるうえでは望ましいといえます。
③ 相続承認か放棄するかの判断材料になる
被相続人が亡くなった後、相続人は「相続の開始を知ったときから3ヶ月以内」に相続を承認するか放棄するかの判断を迫れられます。
この期間内に家庭裁判所に相続放棄や限定承認の申述をしなければ、原則として相続人は単純承認したこととなり、自動的に被相続人の資産や負債のすべてを引き継ぐことになるためです。
3ヶ月というのは長いようで短い期間であり、急に親族が亡くなったような場合には葬儀や埋葬、遺品の整理などに時間がかかりますのであっという間に過ぎてしまいます。
この短い期間に、被相続人の保有していた資産や負債を調査することは相続人にとっては大きな負担となります。
特に、マイナスの財産(借金や連帯保証など)は被相続人が書類などを残していなければ相続人が全容を把握することが難しく、相続放棄の判断を適切に行えないリスクがあります。
このとき、被相続人自身が生前に財産目録を作成しておけば、相続人らに遺産の全容を知らせることが可能です。これは、相続人としては相続を承認するのか放棄するのかの重要な判断材料となります。
相続人が負債の存在を知らずに相続放棄をせず、後になって相続人が多額の負債を負うことになり自己破産を余儀なくされるといった最悪の事態も避けることができるのです。
④ 公平な遺産分割協議を促すことができる
被相続人が亡くなった後に相続人が複数であれば遺産分割協議が行われます。遺産分割協議の席上で財産目録が提示されれば、財産目録が無い場合と比較して後から資産や負債が出てくるリスクは相対的に低くなります。
もし、相続人の一人が財産目録に記載のない資産や負債の存在を知っているのであれば、遺産分割協議で教えてもらえる可能性もあります。
いずれにしても遺産分割協議までに財産目録を用意しておけば、すべての相続人が納得した上で公平な遺産分割をしやすくなります。
⑤ 相続手続きの見通しがつけやすい
財産目録を作成しておくと相続手続きの計画が立てやすく、スケジュールの見通しがつけやすいというメリットがあります。
例えば、財産の中に不動産があることがわかれば相続登記が必要になると想定できるため、早めに司法書士を探しておくなどといった段取りも組みやすくなります。
⑥ 相続税申告の有無・正確な相続税対策を検討することができる
被相続人が生前に財産目録を作成しておくと、相続税の有無を判断しやすくなりますので確実に相続税対策を講じることができるメリットがあります。
ある程度の資産を有している場合には、相続税対策が必須です。
何ら対策をしていないと、亡くなった後に相続人が相続税を払うことができず、せっかく相続人に相続させようとした資産を含めて相続放棄を余儀なくされることがあるためです。
相続税対策が必要であるか判断するためには、まず財産目録を作成する必要があります。
その上で、相続税の対象となる可能性がある場合には税理士などの専門家に相談することとなります。
また、被相続人の死亡後は相続人による相続税の申告が必要です。相続税の対象となるのかを判断するためには財産目録が不可欠です。
相続税を支払う必要があるのに誤って申告をしなかったりすると、後から税務署により調査を受けることがありますので正確に財産を把握することは非常に重要です。
⑦ 遺産の存在を認識させることができる
遺産のうち預貯金や不動産は比較的わかりやすい資産であるため、相続人が存在を知らないということは起こりにくいです。
これに対して、売掛金や貸金返還請求権などといった債権に関しては、目に見えない資産であるため相続人が存在を認識しにくく、相続人が存在に気付いた頃には時効によって消滅していることがあり得ます。
このように相続人が認識しにくい資産について、財産目録を作成しておけば存在を認識させることができます。
この結果、遺産の時効消滅などを防ぐことができるというメリットがあります。
⑧ 遺言内容を詳細に検討できる
生前に遺言を作成する際にも先に財産目録を作成しておくことをおすすめします。
財産目録を作成しておくと財産をきちんと把握できるので、遺言書を書く際に、どの財産を誰に相続させるか詳細な検討ができるというメリットがあります。
⑨ 相続税申告が楽になる
財産目録を作成しておくと課税対象がはっきりと分かるので、相続税申告が楽になるというメリットがあります。
相続税の課税対象となるか否かの判断を間違えると、後から税務署に指摘を受けることになります。
このため、財産目録を作成しておくことは相続税申告においては大切な作業です。
⑩ 生前に財産目録を作れば相続人の負担が軽減される
生前に財産目録を作成しておくと、相続人の負担が軽減されるというメリットがあります。
上でも説明しているように、相続放棄をするか否かの判断や遺産分割協議、相続税申告のために相続人は財産目録を作成する必要があります。
しかし、実際には親族が亡くなってから必要となる様々な手続をこなしつつ財産目録を相続人が作成することは非常に大きな負担となります。
このため、相続人の負担を軽減するためにも財産目録を生前に作成しておくことをおすすめします。
6. 財産目録にはどのような遺産を記載するのか
財産目録にはプラスの財産だけでなくマイナスの財産も記載する必要があります。被相続人自身が作成する場合も、相続人が作成する場合も、まずは思いつく限りの資産や負債をリストアップしていきましょう。
財産目録には、基本的にはすべての資産や負債を記載します。もっとも、争うおそれのないものは除外しても良いことがあります。
例えば、被相続人が友人からもらった手紙や被相続人の日記等です。これらは、相続人にとっては被相続人の形見となることはありますが、お金に換算できるものではないため相続財産に含める必要がないことが通常です。
一方で、生命保険金などは相続財産ではありませんが、相続税との関係ではみなし相続財産として課税対象となることがあります。
このような財産についても、財産目録に記載しておくことになります。
7. 財産目録の書式や作成方法
財産目録に決まった書式はありませんが、財産ごとに記載した方がよい項目があります。
また、パソコンが使える方はエクセルなどを使用して作成することもあります。財産目録を作成する際には雛型やテンプレートを参照して作成するとより効率的です。
「裁判所」オフィシャルサイト内ページに財産目録ひな形があるので参考にしてください。以下では、相続財産の種類ごとに、財産目録の記載例を説明します。
7-1 不動産の場合の書き方
財産目録における不動産の記載例は以下の通りです。
所在 | 地番、家屋番号 | 地積、面積 | 地目、種類、構造 | 共有者の有無 | 持分割合 | 評価額 |
東京都〇区〇町 | 〇丁目〇番〇号 | 〇㎡ | 宅地 | 有 | 60% | 〇〇万円 |
土地・建物などの不動産の財産目録に関しては、不動産登記の記載内容に従って正確に記載することが重要です。
また、評価額の算定に関しては相続税に影響しますので、税理士など専門家に相談すると安心です。
7-2 現金・預貯金の場合の書き方
財産目録における現預金の記載例は以下の通りです。
金融機関名 | 支店名 | 種類 | 口座名義人 | 口座番号 | 残高 |
〇〇銀行 | 〇〇支店 | 普通預金 | 甲野太郎 | 〇〇 | 〇〇円(〇年〇月〇日時点) |
上記は、銀行預金の場合の記載例です。余談ですが、銀行への預け入れを「預金」といい、ゆうちょ銀行に対する預け入れを「貯金」と呼びます。
なお、ゆうちょ銀行の場合には記載すべき項目の名称が銀行預金とは若干異なります。
例えば、貯金種別として「普通貯金」や「定期・定額貯金」があります。このほか、銀行預金の口座番号に相当するものが、ゆうちょ銀行だと「記号」と「番号」になります。
また、預貯金残高については直近の記帳日を併記しておくとよいでしょう。
7-3 証券の場合の書き方
財産目録において証券の記載例は以下の通りです。
銘柄 | 種別 | 数量 | 証券会社名 | 証券番号等 | 評価額 |
〇〇株式会社 | 上場株式 | 200株 | 〇〇証券 | 〇〇 | 〇〇円(〇年〇月〇日終値) |
上場株式の場合には、評価額が大きく変動しますのでいつの時点を基準にした評価額(時価)であるかを明記する必要があります。
上場株式以外にも、投資信託や非上場の投資ファンドに対する出資持分、FX取引がある場合も有価証券の扱いです。
また、被相続人自身が経営していた会社の株式を保有している場合には、当該株式も相続財産となります。
このほか、最近では仮想通貨投資をしているケースも増えています。
7-4 自動車やバイクの場合の書き方
財産目録において自動車やバイクの記載例は以下の通りです。
登録番号 | 車名 | 型式 | 車体番号 | 評価額 |
品川〇〇ね 〇-〇 | 日産・〇〇 | 〇〇 | 〇〇 | 〇〇円 |
自動車やバイクについては、不動産登記と類似した登録の制度があります。
したがって、財産目録を作成する際にも登録内容にしたがって記載することが重要です。
評価額は中古自動車などの買い取り業者に査定を依頼することが一般的です。
7-5 動産の場合の書き方
財産目録において動産の記載例は以下の通りです。
品物名 | 保管場所等 | 評価額 |
ダイヤモンド指輪 | 自宅金庫 | 〇〇円 |
このほか、法的には動産ではありませんが、貸付金や売掛金などの債権がある場合の記載例もここで挙げておきます。
内容 | 価額 | 債務者 | 連帯保証人 | 支払期日 |
商品〇〇の売買代金 | 〇〇円 | 〇〇株式会社 | 代表取締役 乙野花子 | 〇年〇月〇日 |
7-6 生命保険金等のみなし相続財産の場合の書き方
財産目録において生命保険金等のみなし相続財産の記載例は以下の通りです。
保険会社・種別 | 証券番号 | 受取人 | 価額 |
〇〇保険・生命保険 | 〇〇 | 丙野次郎 | 〇〇円 |
みなし相続財産とは、民法上の相続財産ではないものの、相続税との関係では相続財産とみなして課税対象となる財産をいいます。
みなし相続財産としては、生命保険金のほかに死亡退職金などがあります。
7-7 借金・負債の場合の書き方
財産目録において借金・負債の記載例は以下の通りです。
内容 | 価額 | 債権者 | 連帯保証人 | 支払期日 |
借入 | 〇〇円のうち、残高〇〇円(〇年〇月〇日時点) | 〇〇クレジット | 乙野花子 | 毎月〇日 |
借入残高について正確な金額がわからない場合には債権者にも確認した方がよいことがあります。
また、負債に関しては連帯保証人の有無を必ず確認するようにしましょう。
被相続人の資産より負債の方が上回る場合には、相続放棄を視野に入れる必要があります。
ところが、負債について連帯保証人がいる場合には、相続人が相続放棄をすると連帯保証人が残債全額を支払う義務を負うことになります。
そこで、トラブルを避けるためには相続放棄をする際に連帯保証人に対してその旨を伝えておいた方がよいことがあります。
また、連帯保証人に迷惑をかけたくない事情がある場合には、相続放棄という選択肢が取れない結果にもなりますので注意が必要です。
8. 財産目録を作成するうえで押さえておくべき3つのポイント
財産目録を実際に作成する際には、押さえておくべきポイントがあります。以下では3つのポイントにわけて説明します。
ポイント1. 相続財産の種類は正確にする
財産目録には、相続財産の種類を正確に記載することが何より重要です。
不動産であれば、不動産登記の内容に従い地番や地目・地積まで正確に記載します。
また、預貯金の場合には預金の種別を忘れがちです。普通預金か定期預金かといった点まで記載するようにしましょう。
被相続人が類似の財産を複数保有している場合、財産の誤認や混同が起きる可能性があるため、細部にわたるまで正確に把握しておく必要があります。
ポイント2. 相続財産の所在を明確にする
財産目録では、相続財産の所在を明確にすることも大切です。
貴金属などの動産であれば、自宅で保管しているのか貸金庫に預けているのか等を記載します。有価証券であれば、証券会社の名称や証券番号を記載しておく必要があります。
保管場所を明らかにすることによって、他の相続人から財産隠しなどあらぬ疑いをかけられるリスクを低減できます。
ポイント3. 数量・割合も正確に記載する
財産目録では、それぞれの財産の数量・割合も正確に記載することが大切です。数量や割合によって、財産としての価値が変動するためです。
有価証券の場合には、株式数などを記載します。不動産の場合には、共有となっているのであれば持分割合を、不動産登記の記載内容に従って財産目録に正確に転記します。
また、貴金属を複数所有している場合には、それぞれの種類や名称だけでなく、個数や本数などの数量も正確に記載しておきましょう。
9. 相続財産の調べ方
財産目録を作成するにはどんな財産があるのか把握しなければなりません。
相続財産を把握するためには、どのような財産が相続財産にあたるかを理解した上で、相続財産の項目ごとに一つ一つ被相続人が保有しているか否かを検証していくと漏れなく記載できます。
そこで、以下ではプラスの財産とマイナスの財産にわけて相続財産の項目を挙げておきます。
9-1 遺産相続の対象となるプラスの財産
遺産相続の対象となるプラスの財産としては次のようなものがあります。
種別 | 項目 |
不動産 | 土地、建物、別荘 など |
動産 | 貴金属、設備、現金(※預貯金は債権)、宝石、骨とう品、車両 など |
債権 | 預貯金、売掛金、損害賠償請求権、養育費 など |
その他 | 生命保険金、株式、仮想通貨 など |
土地・建物などの不動産や、紙の通帳がある預貯金は比較的発見が容易です。
これに対し、ネットバンクの預金やネット証券で売買していた有価証券や仮想通貨のような財産は、被相続人が財産目録に明示していない限り相続人が探索することが難しいという問題があります。
このため、被相続人が生前に財産目録を作成する場合には、インターネット上の財産については忘れずに記載しておく必要があります。
被相続人が生前に財産目録を作成せず亡くなった場合、相続人は被相続人が使用していたパソコン内に、関連するデータが残っていないか調べることも必要となります。
インターネット上の資産に関してはメールで案内が来ることが多いため、残っているメールの確認も有効です。
また、債権に関しても相続人が発見することは容易でなく、被相続人自身が財産目録に記載することが望まれます。
被相続人が財産目録を残していない場合には、被相続人の遺品整理の際にあらゆる書類を調べ、契約書や支払明細書などが残っていないか確認する必要があります。
9-2 遺産相続の対象となるマイナスの財産
遺産相続の対象となるマイナスの財産としては次のようなものがあります。
種別 | 項目 |
債務 | 借入、買掛金、損害賠償義務、滞納している養育費 など |
税金 | 所得税、住民税、固定資産税 など |
その他 | 賃料、水光熱費、医療費、社会保険料 など |
マイナスの財産については被相続人が財産目録に記載していない可能性が比較的高いといえます。
このため、被相続人が財産目録を用意している場合であっても相続人自身で改めて調査することが求められます。
マイナスの財産の規模によっては相続放棄を検討した方がよいことがありますので、相続人にとっては重要な事項です。
特に、被相続人が事業を営んでいた場合には、マイナスの財産を抱えている可能性は非常に高いといえます。借入れに関しては、遺品の中から契約書などがないか確認する必要があります。
また、信用情報機関に情報開示をしてもらうことも一つの方法です。このほか、被相続人が事業をしていたのであれば会計帳簿などを確認することで債務の存在が判明することもあります。
また、被相続人が前妻との間に生まれた子に養育費の支払い義務を負っていたようなケースもあります。養育費は支払義務者のみに専属しますので、本来は相続の対象ではありません。
ただし、被相続人の生前に支払期日が到来して未払いのままになっていた養育費に関しては、被相続人の戸籍を調査することで支払いの対象となる子が存在するかは確認できます。
親族が子の存在を知らないということもあり得ますので、戸籍調査を慎重に行うことは財産目録を作成するためにも重要です。
10. 財産目録の漏れに要注意!作成が難しい場合は弁護士へ
財産目録に漏れがあると相続財産が確定できないため、遺産分割協議が進められなかったり、相続税の申告漏れによる延滞税や加算税を課されたりするリスクがあります。
もっとも、被相続人の保有する財産が複数ある場合には、財産の調査にも手間がかかるため、本人や相続人が作成することが難しいことも多いでしょう。
財産目録を自分で作成することが難しいと感じたときは弁護士に相談した方がスムーズです。以下では、弁護士に財産目録の作成を依頼するメリットを説明します。
10-1 相続の調べ方で悩まなくて済む
相続財産の調べる際には複雑な手続きを要することがあります。
例えば、相続財産を調べる前提として被相続人の親族関係を調査する必要があります。この調査にあたっては、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本等、相続人の戸籍謄本等を取得する必要があります。
なお、戸籍謄本等は、被相続人名義の預貯金口座の清算手続の際にも必要となることがあります。
また、相続財産に不動産がある場合には、不動産登記簿の記載内容を調べる必要があります。
このように、相続財産を調べるには非常に手間がかかります。被相続人本人や相続人が仕事などの片手間に調査することは意外と大変です。
弁護士に依頼すれば必要書類の取得も含めて依頼できますので、書類収集の手続に悩む必要がなくなります。
10-2 書類作成の手間がない
上で説明したように、財産目録を作成する際には財産の種別ごとに記載すべき事項があります。
また、保管場所等の事実関係についても逐一確認して正確に記載する必要があります。
財産目録のひな型は簡単に入手できますが、実際に個々の相続財産について内容を調査した上で正確に財産目録に記載していく作業は案外骨の折れる作業です。
弁護士に依頼すれば、財産目録の作成における面倒な手間を避けることができます。
10-3 財産目録の失敗を防ぎ余計なトラブルを防ぐことができる
財産目録を正確に作成することは、遺産分割において相続人同士のトラブルを避けるためにも重要です。
万が一、財産目録に記載漏れがあるとか不正確な記載が見つかると、他の相続人は「他にも間違いがあるのではないか」などと疑心暗鬼に陥りやすくなります。
そうなると、せっかく財産目録を作成したのに、遺産分割協議がスムーズに進まなくなる可能性があります。
弁護士が財産目録を作成すれば、相続財産について丁寧に調査した上で正確に記載しますので、記載漏れや記載ミスによる相続人間のトラブルの発生を回避することができます。
また、相続人の一人が財産目録を作成すると、他の相続人としては財産を隠しているのではないかと疑う余地を与えてしまいます。
しかし、利害関係を有しない第三者である弁護士が財産目録を作成したのであれば、意図的な財産隠しの可能性を排除できますので、無用なトラブルを生むリスクは低くなります。
11. 弁護士に依頼した方が良いと思われる基準
最後に、弁護士に財産目録の作成を依頼した方が良いと思われるケースを説明します。次のような事情がある場合には弁護士に相談することをおすすめします。
- 相続人同士の仲が悪い
- 財産管理をしている人の信用が低い
- 公平性と客観性を重視したい
- 完全に揉めるのを避けたい
相続人同士の仲が悪いとか、財産管理をしている親族などが他の相続人からあまり信用されていない場合には、遺産分割協議が難航することが予想されます。
このような場合には、できるだけ他の相続人から疑いの目で見られないように、専門家である弁護士が財産目録を作成した方が安心です。
また、遺産分割協議で必ずしも揉めるとはいえない場合であっても、その後の親族関係を考えれば、相続人全員が納得できるように円満な解決を目指すべきです。
弁護士が財産目録を作成することで、公平性や客観性を担保することができますし、万が一のトラブルの種もあらかじめ摘むことができます。
12. まとめ
財産目録は、自筆証書遺言同様「自分で簡単に作れる」と考え、深く考えずに作成してしまうと、かえって後々のトラブルを生みかねません。
漏れなくプラスもマイナスも財産を書きだし、完全な形で作成するためには弁護士といった専門家のサポートを得ることも検討しましょう。
弁護士 松浦 絢子
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、男女問題など幅広い相談に対応している。