事業譲渡のメリット&デメリット、手続き法–株式譲渡や会社分割との違いも

更新日:2024.06.21

事業譲渡のメリット&デメリット、手続き法–株式譲渡や会社分割との違いも

事業譲渡とは、株式譲渡や会社分割などと並んでよく用いられるM&A手法の一つで、会社の事業のすべてもしくは一部を別の会社に譲渡することです。

会社譲渡や営業譲渡と混同されやすく、実際の手続きも非常に専門性の高いものとなります。ここでは、事業譲渡のメリットやデメリット、手続法や注意点を概略として解説していきます。

事業譲渡とはなにか

事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を他の会社に譲渡することをいいます。事業譲渡は、あとで説明する株式譲渡や会社分割などと並び、会社同士で行われるM&Aの手法の一つとしてよく用いられます。

事業譲渡で譲渡の対象となる「事業」の定義は、判例では以下のように解釈しています。

  • 一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部をいい、
  • 事業譲渡によって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うもの

ここでのポイントは、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡するという点です。

すなわち、単に不動産や事業用の設備などの有体物を譲渡するだけではなく、「のれん」や取引先関係など目に見えない資産をも譲渡するということに事業譲渡の本質があるのです。

なお、「のれん」とは、会計上の用語でありM&Aの際に買収された企業の時価評価純資産と実際の買収価額の間の差額をいいます。

わかりやすくいうと、事業のブランド価値や信用力という目にはみえない価値が「のれん」と呼ばれるものです。

会社譲渡との違い

事業譲渡と混同されやすいものとして「会社譲渡」や「営業譲渡」という用語があります。

「会社譲渡」は、法律上も実務上も正式な用語ではありませんが、あとで説明する株式譲渡を指すものとして慣習的に用いられることがあるようです。

また、「営業譲渡」は、日常用語としては事業譲渡と同じことを指しているように思えますが、法律上は区別されています。

「営業譲渡」というのは、会社法改正前の商法において現在の事業譲渡と同じ意味で用いられていました。

しかし、会社法の成立により、会社が営む事業の譲渡は「事業譲渡」とし、会社以外の商人(個人事業主など)同士で行われる事業の譲渡を「営業譲渡」として両者が区別されました。

事業譲渡と営業譲渡との違いは、単に当事者が会社か会社以外の商人かというだけではありません。

営業譲渡の場合には、商人がその事業に関して使用していた商号(屋号などを商号登記したもの)を譲渡することがあるのに対し、事業譲渡の場合には会社の商号が事業譲渡と同時に移転することは予定されていません。

株式譲渡との違い

「株式譲渡」も事業譲渡と同じく会社同士のM&Aの手法の一つです。もっとも、株式譲渡と事業譲渡とは、法的には全く異なるスキームです。

事業譲渡は、会社の営む事業の全部又は一部を他の会社に譲渡するものであるのに対し、株式譲渡で譲渡の対象となるのは会社の有する株式です。そして、株式が譲渡されるということは会社の支配権そのものが移転することを意味します。

また、事業譲渡では、譲渡の対象となる個々の取引ごとに債権者からの同意などといった譲渡のための手続を行う必要があります。

れに対し、株式譲渡の場合には必ずしも個別的な手続を要することなく会社そのものを一括で譲渡することができるため、事業の一部のみを取り出して譲渡したいという事情がない限り、中小企業のM&Aにおいては株式譲渡が選択されることが多いといえます。

ただし、株式譲渡であっても、売り手側の会社と既存取引先との間の契約によっては、取引先に通知等の手続を行うべきことや取引先の承諾を得られなければ契約が終了となることが定められていることがあります。

このため、株式譲渡契約の前に弁護士などが行う法務デューデリジェンスでは、重要な取引関係が株式譲渡後も継続できるかを精査します。

また、売り手側の会社が許認可を要する事業を行っている場合には、株式譲渡後に買い手側の会社において許認可を取得できるのかについても事前に検討を行います。

さらに、M&Aの手法として株式譲渡を選択するためには、売り手側の株主の氏名や所在がすべて把握できていることが前提となります。

一般的な感覚だと、会社が株主を把握していることは当然と思われるかもしれません。

しかしながら、株式公開(IPO)を予定していない中小企業の場合、オーナー社長が数十年も前に知人や親族に気軽に株式を渡していることがあります。

しかも、株式を誰に渡したか正確に記録していないということも実際にはよくあるのです。

このようにすべての株主を把握できない場合には株式譲渡を選択することはそもそも困難であり、事業譲渡とならざるを得ないといえます。

会社分割との違い

会社分割とは、会社法上定められた企業組織再編手法であり、既存の会社を他の会社に分割する手法をいいます。

承継する会社が既存の会社である場合を「吸収分割」、新たに設立する会社である場合を「新設分割」と呼びます。

会社分割では、新設分割であれば承継先となる他の会社を見つける必要もないため、会社が社内の事業部門の一部を別ブランドとして独立させる場合などに活用されることがあります。

会社分割も、事業譲渡と同様に会社の営む事業の一部を他社に承継させる手法です。もっとも、譲渡の対象となる取引関係等を個別に移転させる必要のある事業譲渡と異なり、会社分割の場合には譲渡の対象となる事業等を包括的に承継することができます。

この点だけ見れば、会社分割では個別に債権者から同意をとったりする必要がないことから仕組みとしてはシンプルです。

しかし、会社分割では個別の債権者の同意を要しない反面、会社法に定める債権者を保護するための手続等を行う必要があります。このため、会社分割は手続に必要となる手間やコストが大きいのが実情です。

したがって、中小企業のM&Aではあまり会社分割は利用されず、コストに見合う規模の大きなM&Aにおいて選択される傾向にあります。

M&Aとはどういう意味か

ここまでの説明でM&Aという用語を何度か使いましたが、そもそもM&Aが何を指しているのかについて整理しておきます。

M&Aとは、merger&acquisitionの頭文字をとった略称で、mergerは合併、acquisitionは買収を意味します。

合併とは、吸収合併などのように買収された会社が完全に消滅してしまうものをいい、買収は買収される会社の株式の過半数取得により会社の支配権が第三者に移転することを指すのが一般的です。

要するにM&Aとは、企業が他の企業の支配権を取得したり、企業ごと吸収したりすることを指しています。

M&Aの代表的な手法としては、会社法上定められた企業組織再編の手法である合併(吸収合併・新設合併)、会社分割(吸収分割・新設分割)が代表的ですが、既に説明したように中規模・小規模のM&Aでは、株式譲渡や事業譲渡が用いられることがよくあります。

事業譲渡のメリットとデメリット

M&Aの手法として合併や株式譲渡など複数の選択肢がありますが、中でも事業譲渡は、会社の事業の一部だけ切り離した譲渡ができること、会社の支配権自体は移転しないことなどの特徴があります。そこで以下では、事業譲渡のメリットとデメリットについて詳しく説明します。

売り手のメリット

事業譲渡の売り手側から見たメリットとしては、以下の3点が挙げられます。

  • 会社の支配権は移転しない

事業譲渡であれば、売り手の会社の支配権は移転しません。したがって、事業譲渡をしたこと自体が原因で会社の代表者や役員が退任しなければならないということはありません。

これに対し、株式譲渡の場合には、会社の株主が変更となります。株式譲渡の際の契約内容にもよりますが、譲渡と同時か一定期間経過後に、譲渡した会社の代表者や役員が退任する契約となっていることが一般的です。

  • 事業譲渡の対価として会社が資金を得られる

M&Aの手法として株式譲渡を選択した場合、譲渡の対価を取得するのは株主個人です。

株主が会社の代表者一人である場合であればともかく、株主の中に会社と無関係の知人や親族が存在する場合には株式譲渡をしても会社自体に資金が入らないことになります。

これに対し、事業譲渡であれば対価を受け取るのは会社となりますので、その資金を他の事業に投資するなど有効活用することができます。

  • 不採算部門のみを譲渡することによる経営の効率化

事業譲渡では、買い手との間の合意により譲渡の対象となる事業の範囲を自由に決めることができます。

このため、売り手側の会社において不採算となっている事業を切り出して譲渡することによって、必要な事業のみに集中的に投資することができるようになります。

買い手のメリット

事業譲渡の買い手側から見たメリットとしては、以下の3点が挙げられます。

  • 簿外債務などを承継してしまうリスクが低い

買い手側にとって事業譲渡の最大のメリットは、譲渡の範囲を自由に設定できることです。

事業譲渡においては買い手側の会社にとって必要な事業のみを指定して譲渡を受けることが可能であり、契約書で明確に除外すれば事業に付随する債務を引き継ぐ必要はありません。

これに対し、他のM&Aの手法においては簿外債務を承継するリスクがあります。

簿外債務というのは、貸借対照表上に計上されていない債務です。売り手側の会社が意図的に粉飾決算をしていたような場合だけでなく、訴訟等により損害賠償義務を負うような場合も偶発債務として簿外債務となります。

また、中小企業においては残業代が未払い状態となっていることが比較的よくみられます。

このような債務は、M&Aの実行時点では顕在化していなくても、M&Aが実行された後に請求を受けて、会社が負担する債務として現実化する可能性があります。

契約締結前のデューデリジェンスにおいては、偶発債務を含む簿外債務の発生可能性がどの程度あるかを精査します。

しかし、完全に簿外債務を引き継ぐリスクを排除することが難しいのも事実です。

事業譲渡であれば、一切の債務を引き継がないよう契約で明示することによって、買い手が簿外債務など予期しない債務を負担するリスクを回避しやすくなります。

  • デューデリジェンスの負担が相対的に軽い

事業譲渡の場合には、他のM&Aの手法と比較して簿外債務を引き継ぐリスクが低いこともあり、契約前のデューデリジェンスの負担は相対的に軽いことが多いといえます。譲渡を受ける事業に関する範囲のみのデューデリジェンスで足りるためです。

  • 償却資産やのれんの償却による節税効果

事業譲渡において、買い手となる会社は譲り受けた償却資産やのれんを償却することによる節税効果が期待できます。

これらは、現実の資金の流出を伴わずに会計上損失として計上することで課税対象となる利益を圧縮することができます。

事業譲渡のデメリット

一方、他のM&Aの手法と比較した事業譲渡のデメリットとしては以下の3点が挙げられます。

  • 個別の移転手続が必要であり手間がかかる

事業譲渡は、包括承継がされる合併や会社分割などと異なり、個別に取引関係や資産の移転手続が必要となります。

具体的には、譲渡される事業に関係する主要な取引先ごとに譲渡の承諾を取得することや名義変更などの手続が必要となります。

万が一、主要な取引先から承諾を得られずに取引関係を引き継げないこととなれば、事業譲渡の目的を果たせない可能性もあるため注意が必要です。

また、雇用契約も当然に引き継がれるわけではありませんので、もし事業譲渡に伴い従業員を買い手の会社に移転させたい場合には従業員から個別に承諾を得て雇用契約の締結を新たに行う必要があります。

このほか、譲渡の対象となる事業に許認可が必要である場合には、買い手の会社で許認可を取り直す必要があります。

  • 法人税や消費税の課税対象となる

事業譲渡は、買い手側の会社にとって償却資産やのれんの償却による節税効果があると説明しました。もっとも、事業譲渡においては消費税の課税対象となります。

したがって、買い手側として消費税分の負担を求められる点は考慮しておく必要があります。

また、売り手側の会社にとっては、事業譲渡による譲渡益が発生した場合、当該利益に対して法人税が課税されます。

したがって、税金に関しては節税効果だけにとらわれずに全体的なシミュレーションが必要です。

  • 売り手側に競業避止義務が課されることも

会社法21条1項は、事業譲渡に関して次のような競業避止義務を売り手側の会社に課しています。

会社法21条1項

事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(東京都の特別区の存する区域及び地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市にあっては、区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならない。

要するに、事業譲渡から20年間は売り手側の会社は譲渡した事業と同じ事業を、同一市町村や隣接する市町村において行ってはならないということです。

もっとも、会社法21条1項に基づく競業避止義務は「当事者の別段の意思表示」があれば適用しないようにすることができます。

具体的には、事業譲渡契約において競業避止義務の対象としないことを定めることができます。

事業譲渡をした後に売り手側が同じ事業を新たに始めることとなり買い手と競合することになれば、買い手側の会社としてはせっかく事業譲渡を受けた意味がなくなります。

このため、事業譲渡の規模などにもよりますが、買い手側から売り手側に対して競業避止を求められることはよくあります。

譲渡金額の計算方法

事業譲渡の対価となる譲渡金額の計算式は以下の通りです。

譲渡金額 = 譲渡資産時価 + 営業権

事業譲渡では単に事業に用いる資産等を譲渡するというだけではなく、事業に付随するブランド力や信用力を目的として譲渡が行われることが通常です。

このため、事業のブランド力や信用力を評価した営業権(のれん)の対価を加算することで適正な譲渡の対価となるのです。

営業権は事業が生む利益の数年分として算定されることが通常です。ただし、何年分の利益とするかは、業界によって異なります。

例えば、競争が激しい業界においては短期間となりやすいですが、参入の難しい安定した業界においてはある程度長期間となることもあります。

譲渡手続きの流れ

事業譲渡を実際に行う場合の手続の流れについて、時系列を追って説明します。ただし、実際に手続きを進める際には専門的な知識を要することが多いため、税理士や会計士など専門家にも相談して進めることをおすすめします。

買い手を探す

事業譲渡を検討する会社がまず行うのは、買い手を探すことです。買い手の探し方としては、M&Aの仲介会社を利用することもあれば、金融機関や取引先などからの紹介によることも比較的多いようです。

買い手を選定する際には、自社が事業譲渡をする目的に合致した相手であるかが重要な基準となります。

仲介会社や紹介者がいる場合には、買い手側の良い面だけが説明されがちですが、必ず自社においても独自に買い手や契約条件等を精査することが重要です。

なお、事業譲渡に関する情報を提供する場合には必ず機密保持契約を締結してから行うべきです。

意向表明と基本合意

買い手を1社に決めた後は、売り手と買い手の会社がお互いに具体的な譲渡の手続に入る旨の意向表明を行います。意向表明を受けて、事業譲渡にかかる交渉を進めるための基本合意書を締結します。

もっとも、この段階における基本合意書は紳士協定であり、双方に法的な義務を課すものではないと解釈されることが一般的です。

デューデリジェンス

基本合意書を締結したら、事業譲渡に向けた具体的な手続きに進みます。まず、行われるのがデューデリジェンス(DD)と呼ばれる事業の精査です。

デューデリジェンスは、主に買い手の会社が売り手側に簿外債務がないか、事業譲渡により想定した利益を得ることができるかなどを判断するために、売り手側の保有する契約書や会計帳簿等の重要な書類を精査したり、売り手側の代表者や役員にインタビューをする手続です。

デューデリジェンスは、事業譲渡を成功に導くために極めて重要な手続です。主に、法務面と財務面からデューデリジェンスが行われます。

法務デューデリジェンスでは弁護士が、財務デューデリジェンスでは税理士や公認会計士が関与して入念に行われることが一般的です。

基本的には、外部の弁護士や税理士、公認会計士などの専門家に依頼することが必要となるでしょう。

事業譲渡契約をする

デューデリジェンスの結果、買い手側として事業譲渡を受ける意向が固まったら、事業譲渡契約を締結します。

このとき、売り手が競業避止義務を追わないこととしたい場合や、事業譲渡の範囲から除外したい債務等がある場合には、明確に契約に定めることが重要です。

事業譲渡契約は、基本合意と異なり法的拘束力のある最終的な合意です。

臨時報告書を提出する

有価証券報告書の提出会社の場合には、金融商品取引法に基づき臨時報告書の提出が必要となることがあります。臨時報告書とは、会社の重要事項が決定・発生した場合における外部への開示資料です。

公正取引委員会へ届出する

買い手の会社の国内売上高の合計が200億円を超えている場合、事業譲渡の規模等によっては公正取引委員会への届出が必要となることがあります。

株主への通知・公告・特別決議

売り手の会社において、事業の全部の譲渡および事業の重要な一部の譲渡の場合には、原則として株主総会の特別決議が必要となります。

売り手の会社の根幹をなすような事業を譲渡するとなれば株主にも影響があるためです。他方、影響の軽微な事業譲渡であれば、株主総会等の手続は不要です。

なお、事業の全部の譲渡および事業の重要な一部の譲渡にあたらない場合であっても、重要な財産の処分にあたるのであれば、事業譲渡に反対する株主に株式買取請求権が認められます。

この権利を行使させるために、効力発生日の20日前までに、株主に対して事業譲渡をする旨の通知・公告が必要となることがあります。

また、買い手の会社においても、他の会社の事業の全部の譲受けの場合には、原則として株主総会の特別決議が必要とされています。

これらの手続は会社法に定められていますが、場合分けが多いため適切に理解することは難しいと思われます。このため、弁護士などの専門家に必要な手続について事前に確認をしておいた方が安全です。

監督官庁による許認可

事業について許認可が必要となる場合には、監督官庁から改めて許認可を取得する必要があります。

名義変更をする

事業譲渡により引き継いだ権利義務などに関して、必要に応じて名義変更の手続きを行います。例えば、不動産の譲渡を受ける場合には所有権移転登記手続が必要です。

事業譲渡にかかる税金とは

事業譲渡については、上で説明したように法人税や消費税がかかることがあります。具体的には、売り手側は譲渡益が発生すれば法人税の課税対象となります。

他方、事業譲渡の対象となる資産の内容によっては消費税も課税されることになります。また、不動産の譲渡を伴う場合には、不動産取得税や登録免許税も発生します。

事業譲渡の際の会計処理はどうするか

事業譲渡の対象となる事業は会計上の資産として扱われます。このため、事業譲渡の際には会計処理にも注意が必要です。

売り手の仕訳

事業譲渡によって売り手側の会社が得た譲渡益は移転損益として会計処理されます。この結果、売り手側の会社にとって譲渡益が課税対象となります。

買い手の仕訳

買い手側の会社の会計処理のポイントは、譲渡対象となる事業の「のれん」を計上することにあります。のれんは、上で説明したように事業譲渡の取得原価と事業の純資産との差額です。

のれんは、買い手側の会社において無形固定資産として計上されることになります。

事業譲渡の際に気を付けること

最後に、事業譲渡を実際に行う際に気を付ける必要があるポイントをまとめておきます。事業譲渡において以下の事項がある場合には特に注意して手続きを進めることが求められます。

事業に関する動産の権利

事業譲渡に伴い、買い手側の会社に動産を移転させることがあります。例えば、事業に使用する設備や機械、ソフトウェアなどです。

気を付けなければならないのは、これらの動産の権利関係です。事業上の動産に関してはリース契約になっていることがよくあります。

この場合には、売り手と買い手の合意のみによって動産の所有権を移転させることができず、リース会社など権利者の承諾を得る必要があります。

事業に関する車両等

車両に関しては、リース契約となっていることがあるほか、購入代金についてローンを組んでいる場合には完済まで販売会社などに所有権が留保される旨の特約が付されていることがあります。

車両等が事業に必須の資産である場合には、残債を誰が支払うのかということや、どのような手続により買い手に移転させるのかを当事者間で十分に確認しておくことが必要です。

土地・建物などの不動産

土地や建物の譲渡をする場合には、所有権移転登記手続が必要となります。また、第三者による抵当権などが設定されている場合には、抹消が可能であるか等も確認しておく必要があります。

労働者との契約をどうするか

事業譲渡において、労働者との雇用契約は当然に買い手側に移転することはありません。このため、買い手に雇用契約を移転させたい場合には、労働者から個別に同意を得る必要があります。

また、労働者による残業代請求等の可能性がないか否かは簿外債務との関係でも重要です。

取引に関する契約をどうするか

事業に関連する主要な取引関係を買い手に引き継ぎたい場合には、その契約の相手方の承諾を得て契約上の地位を買い手に移転する必要があります。

取引関係が引き継げないと事業譲渡の目的を果たせないという場合には、取引相手から承諾を得られることを事業譲渡の実行の要件とするなどの工夫も必要となります。

事業ノウハウなどの知的財産

事業譲渡の際に、著作権や特許権などの知的財産権やノウハウなどの無形資産を買い手に引き継ぐことは比較的よくあります。

事業に不可欠の知的財産権に関しては、事業譲渡契約書に明確に事業譲渡の対象となることを定めておく必要があります。

債権・簿外債務・除外財産の確認

事業譲渡の場合には、売り手側の資産や負債のうち譲渡を受けるものと受けないものを指定することができます。

繰り返しになりますが、事業譲渡契約書を作成する際には、確実に譲渡を受けたい権利を明示するだけでなく、簿外債務など受け継ぎたくないものを明確に除外することも忘れないようにしましょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。本記事では、事業譲渡と他のM&A手法との違い、事業譲渡の実際の手続法を解説しました。

事業譲渡成功の1つのポイントであるデューデリジェンスにしても、弁護士や税理士、公認会計士といった専門家の力が必要不可欠となります。

またそれ以前にも、専門家に相談し、最適な方法を選ぶようにするのがよいでしょう。

執筆者プロフィール

弁護士 松浦 絢子


松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法学研究科法務専攻卒業。東京弁護士会所属(登録番号49705)。宅地建物取引士。法律事務所や大手不動産会社、大手不動産投資顧問会社を経て独立。IT、不動産、相続、男女問題など幅広い相談に対応している。

この記事の執筆者:つぐなび編集部

この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
2020年04月のオープン以降、専門家監修のコラムを提供しています。また、相続のどのような内容にも対応することができるようにご希望でエリアで司法書士・行政書士、税理士、弁護士を探すことができます。

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