遺族年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の2種類があり、亡くなった方の年金保険料の納付状況などによって、いずれか、または両方の年金が支給されます(以前は「遺族共済年金」もありましたが、現在は「遺族厚生年金」に一元化)。
ここでは、遺族基礎年金を重点的に解説していきます。
目次
遺族基礎年金とは
遺族基礎年金とは、国民年金の加入者が死亡した際に、その加入者によって生計を維持されていた「18歳到達年度の年度末までの子(障害のある子の場合は20歳未満)がいる配偶者またはその子」に支給される年金のことをいいます。
遺族基礎年金は、国民年金の加入者はもちろん、厚生年金保険の加入者であっても受給要件を満たしていれば支給されますので、制度の概要について日本年金機構のホームページなどで確認しておきましょう。
支給額については、遺族基礎年金の支給額は一律で決まっており、子の人数によって加算があるほか、子が18歳到達年度末を過ぎると支給が打ち切られるという特徴があります。
遺族厚生年金とは、厚生年金保険の加入者が死亡した際に、その遺族に支給される年金のことをいいます。
支給額について遺族厚生年金が遺族基礎年金と大きく異なるのは、対象者が子(または子のある配偶者)に限られず、また、死亡した人(加入者だった人)の収入に応じて支給額が変わってくる点です。
遺族基礎年金の受給資格
ここからは、遺族基礎年金の受給要件、対象者、年金額について詳しく見ていきましょう。
受給のための要件
遺族基礎年金の支給要件は下記のようになっています(参考: 「日本年金機構」)。
- 被保険者または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき
- その際に、死亡した方の保険料免除期間を含めた保険料納付済期間が加入期間の3分の2以上あること
- ただし、令和8年4月1日前に死亡した場合には、死亡日に65歳未満であれば、死亡日の属する月の前々月までの1年間の保険料を納付しなければならない期間のうちに保険料の滞納がないこと
受給できるのはどんな人?
遺族基礎年金の受給対象となる人は、「18歳到達年度の年度末を超えていない子のある配偶者」または「子」に限られています。
このとき、障害年金の障害等級1級または2級の子(※ただし、故人の死亡時点で子が独身者である必要があります)がいる場合は、18歳を超えてもその子が20歳になるまでは受給することができます。
また、故人の死亡時点で妊娠中の胎児がいた場合には、この胎児は産まれたときから受給対象者になります。
優先される受給資格者
遺族基礎年金は、原則として死亡した者によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」のどちらかが受給することができますが、基本的には配偶者が受給することになります。
ただし、配偶者が「生計を維持されていた」といえない場合(生計が同一でなかったり、年収850万円または所得約655万円を超えたりする場合)には、配偶者の受給権は失われ、子が受給することになります。
受給できる額
遺族基礎年金の受給額は、一律で781,700円(令和2年4月以降)となっています。
これに加え、子どもが2人までは1人あたり224,900円、3人目以降は1人あたり75,000円の加算が行われることになっており、具体的な計算例は以下の通りです。
子の人数 | 配偶者が受給する場合の受給総額 | 子が受給する場合の受給総額 |
1人 | 781,700円+224,900円 | 781,700円 |
2人 | 781,700円+224,900円×2 | 781,700円+224,900円 |
3人 | 781,700円+224,900円×2+75,000円 | 781,700円+224,900円×2 |
4人 | 781,700円+224,900円×2+75,000円×2 | 781,700円+224,900円×2+75,000円 |
遺族基礎年金の手続き
遺族基礎年金は、自動的に年金が支給されるというわけではなく請求者が請求を行う必要があります。ここでは、その請求手続きについて見ていきましょう。
準備する書類
遺族基礎年金の請求には、所定の請求書のほか、下記のような書類の準備が必要です。
①年金請求書
年金請求書の様式や記入例は、市区町村役場、年金事務所や街角の年金相談センターの窓口などで入手することができます。
②必ず必要になる書類
- 亡くなった方の年金手帳
- 請求者の戸籍謄本など、死亡者との続柄および請求者の氏名
- 生年月日が確認できる書類・世帯全員の住民票の写し(*1)
- 死亡者の住民票の除票(*1)
- 請求者の収入が確認できる書類(*1)
- 子の収入が確認できる書類(*1)
- 市区町村長に提出した死亡診断書のコピーまたは死亡届の記載事項証明書
- 請求者名義の受取先金融機関の通帳やキャッシュカード
- 印鑑(認印も可)
③死亡の原因が第三者行為の場合に必要になる書類
- 第三者行為事故状況届
- 交通事故証明または事故が確認できる書類(事故の内容がわかる新聞の写しなど)
- 確認書・被害者に被扶養者がいる場合、扶養していたことがわかる書類
- 損害賠償金の算定書(すでに決定済みの場合には示談書等の受領額がわかるもの)
④その他、状況によって必要になる書類
- 年金証書(他の公的年金から年金を受けているとき)
- 合算対象期間(*2)のある人が確認できる書類
(*1)マイナンバーを記入できる場合には添付が省略できます。
(*2)合算対象期間とは「国民年金に任意加入していなかった期間」または「任意加入を行っていて保険料を納付していなかった期間」のことで、それを確認できる書類として下記のようなものが必要です。
- 死亡者の配偶者が、国民年金以外の公的年金制度の被保険者または組合員だった期間のある人は、配偶者が組合員または被保険者だったことを証明する書類
- 死亡者の配偶者が、国民年金以外の公的年金制度または恩給法等による老齢(退職)年金を受けた期間のある人は、配偶者が年金を受けたことを証明する書類の写し
- 本人が国民年金以外の公的年金制度または恩給法等による遺族年金等をうけることができた期間のある人は、本人が当該年金等を受けたことを証明する書類の写し
- その他、海外在住の期間等があったときは、それを証明する書類
また、年金請求書の提出後、さらに添付書類の提出が求められる場合がありますので、求められたら準備を行いましょう。
提出先
年金請求書の提出先は、請求者の住所地の市区町村役場の窓口になります。基本的には年金事務所でなく市区町村役場で手続きを行います。
ただし、死亡した方がその死亡日に、配偶者が国民年金第3号被保険者期間中だった場合(20歳以上60歳未満で会社員等の家族に扶養されていた人であった場合)には、市区町村役場では手続きができません。
年金事務所または街角の年金相談センターで手続きを行うことになりますのでご注意ください。
子の年齢によって支給は打ち切られる
遺族基礎年金は、永久に受けられる年金ではなく、受給するための条件が消滅したときには支給が打ち切りになります。
ここでは、遺族基礎年金が打ち切りになる場合と、遺族基礎年金の他に受け取れる可能性のある年金制度をご紹介します。
まず、遺族基礎年金が打ち切りになる場合についてですが、遺族基礎年金は18歳までの子を持つ家庭への年金ですので、子どもが18歳に到達した年度の3月31日を過ぎると受給権自体が消滅し、支給は打ち切りになります。
このように、遺族基礎年金が打ち切られてしまった場合でも、状況によっては、老齢基礎年金を繰り上げ請求して受給するという選択肢があります。
ただし、老齢基礎年金の繰上げ受給の申請を行うと年金額が所定の割合で一生減額されるほか、下記のようなことにも注意しなければならないため、利用の際には充分な検討が必要になります。
- 繰り上げ請求した後は任意加入ができなくなるため、保険料を追納することもできなくなります。
- 繰り上げ請求して受給権が発生した後は、その繰り上げ請求の取り消しや変更はできません。
- 繰り上げ請求した後は、寡婦年金の請求はできません。
- 65歳になるまで遺族厚生年金を併給することができません。
遺族基礎年金がもらえない場合は死亡一時金を
これまで説明してきた遺族基礎年金は、死亡していた者によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が対象になりますが、その時に受給要件に該当する子がいなかった場合には遺族基礎年金の受給対象者にならないことになり、それまでに支払った保険料が掛け捨てになってしまいます。
これを防止するために「死亡一時金」という給付制度があります。
死亡一時金とは、死亡した人が国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた月数が36月以上ある方が、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けることなく亡くなった場合や寡婦年金と同様に遺族基礎年金を受け取ることができない場合に遺族に対して支払われる給付制度です。
支給されるのは妻に限らず、亡くなった方と生計を同一にしていた遺族で、配偶者、子、父母、孫、祖父、兄弟姉妹の順番に優先順位の高い方から受け取ることができます。
死亡一時金の額は、保険料を納めた月数に応じて変わってきますが、120,000円~320,000円です。
なお、死亡一時金を受ける権利は死亡日の翌日から2年を経過すると時効となり、請求することができなくなりますので注意してください。
まとめ
遺族年金の中でも特に遺族基礎年金について解説してきました。子の年齢によっては受給要件を満たせず、受給対象とはなりませんが、その際も、条件を満たしていれば死亡一時金が支払われるのをお忘れなく。

山本 務
特定社会保険労務士。理系大学卒業後、プログラマー・SEを経て上場企業人事部で人事労務管理業務を約10年経験し、2016年に独立。独立後も2020年3月まで労働局の総合労働相談員として200件以上のあっせん事案に関与。労働相談は労働局の電話相談も含めて1,000件以上の対応実績あり。これまでの知識と経験を活かし、各種サイトでの人事労務関係に関する記事の執筆や監修も積極的に行っている。