遺産分割法の1つ「代償分割」–不動産相続時に特におすすめ

更新日:2023.11.28

遺産分割法の1つ「代償分割」–不動産相続時に特におすすめ

「不動産」や「自社株」などの高額資産を相続するケースでは特に、分割方法を巡ってトラブルに発展しがちです。

売却して分割するのが最も円満な解決策に思えますが、亡くなった人自身や家族が大切に思う財産を第三者に渡してしまうのは、決して良い方法とは言えません。

そこで活用できるのが、遺産をそのままの形で残せる「代償分割」という方法です。

とはいえ、分割の合意条件を十分検討しなければ、かえって複雑な意見対立を引き起こす結果になるでしょう。

本記事では、生前準備を考える人も遺産承継を予定している人も参考にできるよう、代償分割の方法・メリットやデメリット・課税面を含めた注意点を解説します。

代償分割とはなにか

代償分割とは、特定の相続人が現物のまま遺産を取得し、もらい受けた遺産の評価額のうち「他の相続人の取得分相当」を支払う方法です。支払いは現金で行うのが一般的で、実務上「代償金」あるいは「代償財産」と呼ばれます。

【例】評価額3千万円の土地建物を、A・B・Cの3人で公平に代償分割する場合

  • Aが土地建物を自分の名義で相続登記する
  • AからBとCへそれぞれ現金1千万円を支払う

→A・B・Cは1千万円ずつもらい受けられる

遺産分割の方法は4種類ある

代償分割は計4種類ある遺産分割方法のうちの1つです。他の分割方法と比較した時の特徴は「売却や共有状態にすることなく、現物のまま相続財産を受け取れる手段」である点です。

遺産分割の方法 内容
代償分割 特定の相続人が遺産を取得し、代わりに他の相続人へ金銭等を支払う
現物分割 特定の相続人が、遺産を現物のまま単独名義で取得する
換価分割 遺産を売却し、その代金を分割して取得する
共有 各人の持分を決め、共有物として取得する

どの方法で分割するのかは「証券口座の株式は換価分割で、不動産は代償分割で」とのように資産種類ごとに決めても構いません。事例は限られますが、遺産全体を代償分割する方法も取れます。

代償分割の方法

代償分割したい時は、生前のうちに遺言書で作成しておくのが理想的です。

遺言書を準備できなかったケースでは、相続人で話し合い、分割時の条件を細かく取り決める必要があります。

代償分割の流れ(遺言書がない場合)

  1. 相続開始
  2. 遺産分割協議:どの資産を代償分割の対象にするのか話し合い、その上で「対象資産を取得する人」「代償金の額」「代償金の支払い方法」「いつまでに支払うのか」といった細かい条件を取り決めます。
  3. 遺産の名義変更
  4. 代償金の支払い実行
  5. 相続税の申告手続き

代償分割のメリットとデメリット

他の遺産分割方法と比べた時の代償分割の利点は、何よりも「財産を生前の状態で相続できる」点です。

しかし他の相続人への提案の仕方が難しく、細かい分割条件を巡って意見対立が生じないとも限りません。

以下では代償分割のメリットとデメリットに触れ、デメリットを回避する方法についても簡単に紹介します。

代償分割のメリット

遺産分割の方法を巡って相続トラブルが起きるのは、決して珍しいことではありません。

特に不動産や株式などの高額資産では、明確に用途を決めている人とそうでない人との間で「換価分割するかしないか」を巡って意見対立しがちです。

争いが長引けば、せっかくの資産が管理不足で荒廃するでしょう。最終的に換価分割に賛同する人の主張が通れば、生前の苦労と工夫で築かれた財産が他人の手に渡ってしまうことになります。

一見すると公平な「共有による相続」も問題があります。

共有物になった資産は、管理処分が必要になるたび共有者全員の同意が必要です(民法第251条)。

共有者から新しい世代へと持分が受け継がれると、共有者の数は鼠算式に増え、同意を得るのに収拾がつかない事態になってしまいます。

代償分割なら、資産の価値に関わらず、売却せずそのままの形で手元に残せます。

代償金の支払いがあることで、遺産を取得できない立場の人の不公平感もありません。

代償分割のデメリット

一方、代償分割のデメリットとして「代償金の額」でもめやすい点が挙げられます。

遺産を取得する人は、当然「少しでも代償金を減らしたい」と考えるでしょう。

反対に代償金の支払いを受ける側としては、分割する財産の取得を諦めることになる以上「少しでも受け取れる額を多くしたい」と考えるのが常です。

上記のように代償金の額がなかなか決まらないケースでは、基本的に以下の順で対処します。

  1. 「分割する財産の評価額」を正確に把握する
  2. 「①に対する各人の取り分」を判例や相続法に照らし合わせて判断する

代償金の決め方はケースバイケースであり、分割したい財産と家庭の状況に応じて個別に判断しなければなりません。

この判断に関しては、法定相続に詳しい弁護士・司法書士の他、相続税申告の受任経験を通じて遺産評価に長けた税理士も頼りになります。

早い段階で上記のような専門家に相談し、代償金が決まるまでの手順を適宜サポートしてもらうと安心です。

こんなときは代償分割を

メリットとデメリットを踏まえると、代償分割が向いているのは以下のようなケースです。

  • 公平に分けたい
  • 手元に残したい高額資産がある
  • 遺産評価額の大半を「家」や「経営する会社の財産」が占める

特に代償分割が適しているのは、土地建物や自社株を必要とする相続人が存在するケースです。

各ケースで代償分割した時の効果を解説する前に、まずは特にメリットが大きいケースを紹介します。

メリットが大きいとき

特に以下のようなケースは、代償分割で得られるメリットが大きくなります。

  • 将来値上がりする財産を遺産分割する時: 典型的な例として「市街化が進んでいる地域の不動産」が挙げられます。周辺の開発が進んで居住用途での需要が増えれば、遺産分割する時よりも市場で取引される価格が上がるでしょう。この場合、代償分割で売らずに手元に残しておけば、需要が上がったタイミングで売却手続きや賃貸経営を始めることで利益が得られます。
  • 生前贈与による現金や保険金がある時: 遺産をもらい受ける人の現金資産にゆとりがあれば、代償金の支払能力も上がるので、もめる可能性も低くなることでしょう。生前贈与された現金や、非課税枠(500万円×法定相続人)がある死亡保険金が手元にあれば、代償分割による相続トラブル回避の効果が上がります。

不動産を相続したとき

不動産は「換金が難しい」「共有名義にすると管理処分で不便になる」という2つの性質が特に強い資産です。

そこで困るのが、亡くなった人名義の家に今後も住む人がいるケースや、事業を営むために不動産を必要とする人がいるケースです。

上記の2つのケースでは、次のように解決できます。

【ケース1】亡くなった人と同居する高齢の配偶者が「今後も住み続けたい」と希望している子どもや孫が自宅を相続すると、配偶者の意思に関わらず売却処分される可能性があります。

2020年4月からは所有者の名義に関わらず「配偶者居住権」が設定できるようになりましたが、所有者の同意がないとリフォームも賃貸経営もできないとの制約がついています(民法第1032条の4)

これまで通り配偶者が自由に住まいを管理処分できる状態にするには、配偶者自身が自宅の新所有者になる必要があります。

子どもや孫が十分な額を取得できない場合は、遺産に含まれる預貯金や配偶者自身の預金から代償金を支払うことで、円満かつ公平に遺産分割を終えられます。

【ケース2】個人商店を継ぐ長男が「自宅兼店舗を相続したい」と希望している個人事業主が使用する自宅兼店舗は、事業主個人の名義に属しているため遺産分割が必要です。

この際問題になるのが、子どもや孫が事業を継ぐケースです。

後継者が事業に使用する土地建物をもらい受けるのは当然のことのように思えますが、それぞれ自分の仕事を持っている他の相続人が不満を抱え、トラブルに発展する恐れがあります。

そこで、後継者が継ぐ土地建物を評価して、その価額に対する他の相続人の取り分を「代償金」として支払う方法が考えられます。

事業を受け継いだとき

中小企業の経営者は、同時に自社の大株主である場合がほとんどです。

1株ごとに存在する支配権を一定数確保することで、経営判断を自由に反映させられる立場を維持しているのです。

つまり、経営者の死亡に伴って事業承継しようとするなら、後継者が亡経営者の持ち株を全て取得しなければなりません。

問題は、株式が高額化しやすいという性質上、多くの場合「自社株が個人資産と比べ物にならないほど高くなっている」といった状況に陥っている点です。

もしも後継者が「〇株ずつ公平に取得する」との条件に応じてしまえば、今度は買い戻そうとする時の手続きが大変です。

株式の買い取りルールは会社法で細かく定められており、取締役会や株主総会による決議が必要になるケースがあるからです。

そこで解決策として、株式の相続方法を代償分割としておき、後継者から他の相続人へ代償金を支払う方法が使えます。

代償金の確保が難しい場合は、以下のような手段を駆使できるので一例を紹介します。

  • 生前のうちから役員報酬を多めに確保する
  • 生前から小規模企業共済制度を利用する(経営者が死亡すると共済金が支払われる)

代償分割の注意点

代償分割を実際に行う際は、対象の資産を相続しようとする側に3つの注意点があります。

提案する前に今後の計画を決め、話し合いの方向性はなるべく専門家に決めてもらうと良いでしょう。

遺産分割協議書に記載する

代償分割に合意が得られた時は、必ず「分割対象の財産」や「代償金の額」などの細かい条件まで遺産分割協議書に記載しておきましょう。

遺産分割協議書が必要になるのは、遺産の名義変更を行う際です。例えば不動産を代償分割しようとする場合、法務局で不動産を得た人の単独名義に変える「相続登記」の申請をしなければなりません。

この際、登記しようとする不動産の新所有者だと証明するため、代償分割の内容が分かる遺産分割協議書を添付します。

また、遺産分割協議書を作成しなかった場合、代償金に「贈与税」が賦課されてしまいます

現金の受け渡し目的を証明できず、税務署から調査された際に「単なる贈与」とみなされてしまうからです。

お互いの合意が必要

代償分割するかどうかは一方的に決めず、遺産を得る側と代償金を受け取る側の「相続財産に対する考え方」に配慮しながら合意を目指しましょう。

例えば、亡くなった人名義の家に住む配偶者は「思い入れのある家でこれからも過ごしたい」と希望していても、将来に渡って住む予定のない子ども達にとっては「価値が下がらないうちに買い手を見つけて売る」のがいい方法だと考える場合があります。

同じように、中小企業や個人事業主の資産も「事業のものであって経営者名義ではない」と考える後継者側と、「経営者個人の名義だから家族の資産だ」と考える共同相続人との間で、意見対立が生じるでしょう。

以上のように、代償分割で財産を手元に残しておきたいと考える相続人と、別の方法で遺産分割したい相続人との間で意見が分かれた場合、協議の落としどころを見つけるのに苦労します。

代償分割のデメリットの章で解説した「代償金の決め方」と並んで、相続トラブルを扱う弁護士等により合意条件を見極めてもらいながら「橋渡し役」になってもらうのがベストです。

分納は要相談

代償金をすぐ用意できそうにない時は、相手の合意さえあれば分割で支払っても構いません。

ただし、分割払いする際の注意点が2つあります。

第1の注意点は、そもそも相手方の合意を得られるかどうかです。

代償金をまとまった支出に使う予定があるケースなど、やむを得ない事情で「なるべくまとめて払ってほしい」と相手方が希望する場合も考えられます。

第2の注意点は、無理なく完納できるだけの収入を維持できるかどうかです。

分割回数が増えるほど、支払い中の収入減が理由で約束を守れなくなるリスクが大きくなります。

以上の2点を踏まえると、自分達の判断で分割払いを決めてしまうのは考えものです。

なるべく第三者を挟んで話し合い、お互いの事情に沿う分割計画を立てるべきでしょう。

代償分割の税金はどうなるか

代償分割する財産に贈与税はかかりません。

たとえ代償分割する財産を得た人自身の収入から支払われる場合であっても、代償金は「亡くなった人名義の財産の一部」と考えられるからです。

税務上は「代償分割する財産」が相続税の賦課対象になり、各相続人が負担する課税額を計算する際は「代償金の支払い状況」を踏まえます。

相続税の課税評価額

相続税を計算する際は、その人の受け取った財産の価額である「課税評価額」に控除と税率を適用します。

代償分割では、その当事者になった人につき、それぞれ以下のように課税評価額を算出します。

  • 代償金を負担した人: 相続or遺贈で取得した財産-代償金

例: 家を相続する代わり、他の相続人に取得分相当の現金を支払った配偶者

  • 代償金を受け取った人: 相続or遺贈で取得した財産+代償金

例: 配偶者の自宅相続に同意し、現金を受け取った子

代償金の支払いが金銭でないときは

代償金の支払い手段は現金でなくとも問題ありません。

ただし、現金以外の資産(代償を負担する人が自己名義で持つ不動産など)で支払った場合、代償金を支払った人に譲渡所得税がかかります所得税基本通達33-1の5)。

【例】事業用不動産(時価2,000万円)を長男が相続し、その代償として、長男名義で購入した夫婦の自宅(時価1,000万円)が妻に譲る場合

→子は譲渡所得税(課税評価額1,000万円)を負担します。

上記の例で分かるように、譲渡所得税は「時価」でかかります(所得税基本通達33-1の5)。

また、譲渡所得税の計算の際は、代償分割にかかった経費は控除されません(所得税基本通達38-7)。

相続登記の費用や弁護士報酬を負担しても、代償財産の課税評価額から差し引くことは出来ないのです。

まとめ

代償分割のメリットは、財産をそのままの状態で公平に分割できる点です。

亡くなった人名義の家を必要とする人が存在するケースや、中小企業で事業承継を予定しているケースなど「高額資産を特定の人がそのまま相続しなければならない」事情がある時は、特に代償分割が向いています。

ただし、細かい合意条件については十分検討しなければなりません。

代償分割がかえってトラブルの火種になるポイントとして、以下3点が挙げられます。

代償分割の要注意ポイント

  • 代償金の額をどう決めるか
  • そもそも相続人全員が代償分割に合意できるか
  • 代償金を支払うための資金や収入を十分確保できるか
  • 必要な手続きを理解しているか(遺産分割協議書の作成など)

上記の他、課税面にも要注意です。代償金が支払われれば、その分だけお互いのどちらかが課税額を多く負担します。

どのポイントに関しても、相続人が自己判断するのは危険です。

同様の事例を手がける弁護士・司法書士・税理士に相談し、方向性を決めてもらいながら遺産分割を進めると安心できます。

執筆者プロフィール
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

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