最大3000万円、それに加えて贈与税の年間非課税枠110万円を活用すると3110万円まで贈与税がかからない「住宅資金贈与の特例」をご存じですか。
大きな非課税枠となるこの制度の基本条件や、活用する際の注意点を解説します。
目次
住宅資金贈与の特例とはなにか
住宅資金贈与の特例とは、子や孫が住宅を取得するための資金の贈与であれば、年間110万円に加えて最大3000万円まで贈与税がかからない制度のこと。
通常、1年間に110万円を超える贈与を受けた場合にはその超えた部分に対し贈与税がかかりますが、子もしくは孫の住宅取得を目的とした資金の贈与の場合はこの特例が適用されます。
具体的には平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間に、父母や祖父母といった直系尊属から、子や孫が居住するための住宅の新築や増築するための資金の贈与で、かつその住宅について一定の用件を満たす場合には最大3000万円までの非課税限度額までは贈与税を非課税とする制度です。
非課税限度額について
非課税限度額は最大3000万円とお伝えしましたが、この限度額は一律ではなく、住宅の新築や増築についての消費税率や契約日(新築工事の請負契約などの日)、さらにその住宅の性能によって限度額が異なります。
なお、贈与税には「基礎控除額」というものがあり、年間110万円までの贈与であればそもそも贈与税は非課税となります。
この住宅資金贈与の特例は基礎控除とは別枠で用意されていますので、下記のそれぞれの金額に110万円を加算した金額までが非課税となります。
家屋にかかる消費税が10%の場合の非課税枠
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
平成31年4月1日~令和2年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
令和3年4月1日~令和3年12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
上記以外の場合の非課税枠
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
~平成27年12月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成28年1月1日~令和2年3月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1,000万円 | 500万円 |
令和3年4月1日~令和3年12月31日 | 800万円 | 300万円 |
- 図表は国税庁ホームページより抜粋
- 「省エネ住宅等」とは次のいずれかを満たす住宅をいいます。
・断熱等性能等級4若しくは一次エネルギー消費量等級4以上
・耐震等級2以上若しくは免震建築物であること
・高齢者等配慮対策等級3以上であること
住宅資金贈与の特例を受けるための条件はなにか
住宅資金の贈与だからといって無条件で非課税制度が適用されるわけではありません。
大きく分けて2つの要件が細かく定められています。その2つの要件とは以下の要件です。
- 資金の贈与を受ける人の要件
- 新築や増築する家屋の要件
特例を受けられる人(資金の贈与を受ける人の要件)
まず、資金の贈与を受ける人の要件ですが、次の要件の全てを満たす人に限られます。全てを満たす必要がありますので注意してください。
- 直系尊属からの贈与であること。具体的には父母や祖父母からの資金贈与であること(配偶者の父母からの贈与は養子縁組をしていない限り直系尊属とならないのでこの制度の適用はありません)
- 贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上であること。
- 贈与を受けた年の合計所得金額が2000万円以下(給与でいうと年収2195万円以下)であること。
- 原則として、平成26年までの間にこの制度の適用を受けたことがない人。(一部例外はあり)
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与を受けた金額の全額を使って住宅用の家屋を新築等すること(住宅の取得に充てなかった金額は贈与税の対象となります)
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに新築等をした家屋に居住していること。間に合わない場合には、その後の近いうちに居住することが確実であること。その後、12月31日までに居住できなければ贈与税の修正申告・納税が必要となります。
- 贈与を受けたときに日本国内に住所を有していること
特例を受けられる建物
家屋(建物)についても用件が定められています。
新築の家屋だけでなく中古の家屋でも一定の要件を満たせば適用が可能です。また増築の場合にも要件が定められています。
- 新築または取得(中古)の場合
- 新築または取得した家屋の床面積が50㎡以上240㎡以下で、その半分以上が贈与を受けた人の居住用に使われるものであること。なお床面積とは登記簿に記載されている床面積をいいます。
- 取得した住宅が次のいずれかに該当すること
・新築の場合は建築後使用されたことのない住宅用の家屋であること
・中古家屋の場合には、建築後20年以内(構造が鉄筋コンクリート、鉄骨造の場合には25年以内)の物件であること
・中古家屋の場合には、地震の安全性基準に適合するものであることが書面で証明されているものであること
・中古家屋で上記の要件に当てはまらない場合には、一定の時期までに耐震改修を行い、証明書を取得する必要があります。
- 増築・改築の場合
- 増築後の家屋の床面積が50㎡以上240㎡以下で、その半分以上が贈与を受けた人の居住用に使われるものであること。なお床面積とは登記簿に記載されている床面積をいいます。
- 増築工事が資金贈与を受ける人自身の所有する家屋に対して行なわれること。さらに確認済証の写しや増改築等証明書によってこれに定める工事であることが証明されていること
- 増改築工事にかかる費用が100万円以上であること
特例を利用する際に気を付ける点
贈与税を必ず申告する
住宅資金贈与の特例は先にご紹介したように、時期などにより異なりますが基礎控除額もあわせて最大3110万円と非課税枠も大きく、また非課税限度額だけ贈与をして残りは住宅ローンを組んで取得されるケースが多く見られます。
したがってほとんどの場合は贈与税額がゼロとなります。贈与税額がゼロなのだから申告はしなくて良いのでしょうか。
答えはNo。申告が必要です。税額がゼロでも申告は必ず行わなければなりません。
申告して初めて「この制度を使います」と手を挙げることができるのです。
申告しなければこの特例が適用されず、数十万、数百万円の贈与税が課されてしまいますので必ず贈与税の申告書を提出しましょう。
また、申告の際に添付書類として多くの書類の提出が必要なのもこの制度の特徴です。
特例を受けるための要件それぞれを証明するために提出が求められています。
主に必要となる書類は以下となりますので早めに集めるようにしましょう。
- 贈与を受けた人の戸籍謄本
- 贈与を受けた人の戸籍の附票の写し
- 贈与をした人の住民票の写し
- 新築又は取得をした住宅用家屋に関する登記事項証明書
- 新築・取得・増築等にかかる売買契約書・請負契約書などの写し
- 省エネ住宅である場合にはその証明書
小規模宅地等の特例は受けられなくなる
住宅資金贈与のデメリットをあえて挙げるとすれば、資金援助をして子供に住宅を取得させることで相続税における「小規模宅地等の評価減の特例」というものが使えなくなります。
この特例は父母の代から子供の代に、その父母が住んでいた自宅の敷地を相続させると最大80%を評価額から減額してくれるというものです。
しかしこの特例には要件があって、子供が父母と同居している場合やマイホームを持たない子供が相続の後、そのまま居住する場合などに限られます。
したがって子供に資金援助してマイホームを持たせることでこの特例は使えなくなります。
相続させたい自宅が地価の高い都市部にある場合などは将来の相続税も視野に入れた上で、住宅資金贈与の特例を使うべきかどうかを考えたほうが良さそうです。
相続時精算課税制度もあるので使い方を考える
住宅資金贈与については通常の贈与のほかに「相続時精算課税」による贈与と組み合わせて使うことも可能です。
この相続時精算課税による贈与は2500万円までが贈与税がかかりません。
したがって住宅資金贈与の特例の非課税枠と合わせて最大5500万円まで贈与税が非課税となります。
ただし、贈与した金額は相続時に相続財産として加算され、相続税の対象となるなど使い方には注意は必要です。
住宅資金贈与を考える際の1つの選択肢としてよい使い方があれば検討してみるのも良いかもしれません。
安井貴生
税理士。税理士法人に所属して活動しており、法人税決算から税務申告・税務調査立会、経営相談まで幅広く業務を行っている。最近は、相続や事業承継案件、M&Aなどの取扱いが増加中。土地や非上場株式などの財産評価を得意とするが、節税ありきではなく相続人全員が納得する相続業務を何よりも重視している。