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献体登録とは–遺骨の返還時期等注意点も解説

更新日:2020.10.30

献体登録とは–遺骨の返還時期等注意点も解説

「献体登録」という言葉を聞いたことはありますか。献体とは、医学・歯学の教育・研究・進歩を目的として、故人のご遺体を無条件・無報酬で提供することをいいます(※1)。近年、「亡くなった後も、社会の役に立ちたい」「医療に貢献したい」という思いから、献体を考える方が増えています。ここでは、実際に献体はどのような役割を担うかについて述べます。

献体登録とはなにか

献体は、医学部生・歯学部生が人体の構造を理解するために行う解剖実習の際に用いられます。学生数名で数カ月間かけて一体のご遺体を解剖しながら、血管や神経の走行、臓器の成り立ちなどの人体の構造を学びます(※2)。解剖実習は、人体の構造について知ることはもちろん、人の尊厳や倫理について考えることができ、医療者としての責任感を養うことにも役立ちます。

医師や歯科医師になるためには、人体の解剖学的構造を十分に理解する必要があります。はじめは教科書などで学びますが、実際に自らの目で身体を観察しながら解剖していくことで、格段に深い理解を得られるようになります。

また、人体解剖を行うのは医学部と歯学部のみですが、例えば看護学生といった他の医療系学生も、人体の構造を理解するために解剖を見学する機会を設ける大学や専門学校もあります。

さらに、2012年には、「臨床医学の教育及び研究における死体解剖ガイドライン」が公表され、医師の外科手術手技研修(Cadaver surgical training: CST)として献体を使用することが、国に認められるようになりました(※2)。

医療技術の進歩は早く、日々治療技術は進化しています。高度な外科手技向上の研修のために、ご遺体で研修を積むことは、確実な医療技術を身に付けることにつながります。

献体制度の始まりとその目的

ここでは、献体制度の始まりについて説明します。

解剖学は医学・歯学における重要な学問ですが、昔は献体に対する世間の認知度が低く、献体に意欲的な人は少ない状態でした。また、ご本人が献体の意思表示をしても、死後ご遺族が献体を拒否するこケースも多くありました。

そのため、解剖学の実習が十分に行えるご遺体数がなく、解剖教育における環境が整っていない時代もありました。特に、1955年から1965年は医学教育の危機と言われており、献体数が通常の5分の1に満たない大学もありました(※1)。この事態に危機感を覚え、始まったのが「献体運動」です。

日本学術会議が国に献体の法整備を促進した結果、1983年に「医学および歯学教育のための献体に関する法律」が成立しました。法律の成立により、国が医学の教育と発展にとって献体が重要な役割を担うことを認めたことを表し、国民にも周知されることとなりました(※1)。

また、1982年から文部大臣(2001年より文部科学大臣)による献体者や献体者のご遺族に感謝状の贈呈が行われるようになりました。これらの成果から、献体登録数は1985年から2015年の30年で、約5倍近くに増加しています。

献体のメリットとデメリット

次に献体のメリットとデメリットについて述べます(※3)。

 

【メリット】

  • 死後に医学の教育や発展に貢献できる
  • 亡くなった方の死生観を最期まで尊重できる

 

【デメリット】

  • 遺骨返還の時期が明確でない(通常は1~2年、長くて3年程)
  • 死後24時間から48時間経過すると献体できない(時間は登録先によって異なる)
  • 登録先に引き渡すのに時間の制限があるため、ご遺族の気持ちが整理しづらい場合がある
  • 火葬に立ち会えない
  • 献体登録をしている場合も、遺体の損傷が激しいなどの理由で実際に献体できないことがある(下に献体できない例を記述)

医学の教育や発展に貢献できることや、亡くなられた方の気持ちを尊重できることがメリットであるのに対し、デメリットは献体を行うために条件があることや、故人とご家族が別れるための十分な時間がとれないことです。

また、献体を行うことで葬儀の費用を安くできると考える方もいらっしゃいますが、献体は医学の勉強や進歩のために行われ、無条件と無報酬が原則です。決して葬儀代を安くすることが目的ではありません。献体後のご遺体は、解剖実習を行った登録先において火葬され、その後、遺骨はご遺族に返還されます。大学までのご遺体の搬送や火葬の費用は登録先が負担しますが、葬儀代はご遺族の負担になります。

献体登録の流れ

献体登録の流れは以下の通り(※3)です。

1: 家族との話し合い

献体はご家族の同意が必要となります。生前から献体についてご家族とよく話し合い、互いに納得していることが重要となってきます。

2: 献体の会や大学に問い合わせ・申込書を入手

献体篤志家団体(献体の会)や住まいの地域にある医科大学や歯科大学などに相談・問い合わせをしましょう。実際に献体を使うのは大学のため、申込み先は病院ではなく、大学となる点に注意が必要です。その後、申込書が自宅に到着します。

3: 申込書に記入

申込書に必要事項を記入。書類には、ご家族(配偶者・親・兄弟・子・孫など)の署名・捺印が必要となります。申請書に記入を終えたら、登録先に発送します。

4: 必要書類を返送

記入した申込書を登録先に返送します。

5: 献体登録証の到着

申込書をもとに審査が行われ、献体登録証が発行されます。献体登録証には、亡くなられた後の流れやその時に必要な書類について記載があります。必要書類は埋火葬許可証・死亡診断書のコピー・解剖に関する遺族の承諾書などです。いずれも亡くなった後に発行できる書類なので、これらの書類は生前に準備する必要はありません。

献体登録書は献体を証明するものなので、財布の中やパスケース等にいれ、一緒に持ち歩いてください。万が一、予期しない死の時に手元にあれば、献体登録をしていたことが分かり、献体がスムーズに行われます。

登録後の注意点

献体は死後24時間から48時間以内に登録先に移送する必要があるので、登録先はお住まいの都道府県にある医科か歯科の大学、または献体の会になります。引っ越しなどで、登録先より離れてしまった場合は、改めて手続きが必要となります。

本人に献体の意思があっても、死後に献体の手続きをするのは、ご遺族です。そのため、ご遺族の中に1人でも拒否する方がいれば、実行できなくなります。本人が亡くなった後に、ご遺族が献体を受け入れられず拒否するケースもあるため、事前に家族が納得するまで話し合うことが大切です。

献体登録とリビング・ウィル

また、意識がはっきりしている時に自分の希望を記載した「尊厳死の事前指示書(リビング・ウィル)」 を用意しておくことが重要です。尊厳死とは、人間が尊厳を保ったまま死を迎えられることで、リビング・ウィルとは、生前から自身の最期に行われる医療やケアについて記載した書類です。リビング・ウィルがあれば、自分に意思決定能力が低下した際も、ご家族や医療者が本人の意向を汲み取ることができます。

リビング・ウィルは一人で決めるのではなく、家族とじっくり話し合い、自身の意思を事前に伝えることで、本人も家族も最期まで悔いが残らないようにすることが大切です。また、献体登録後に献体を撤回することは可能です。登録後に自身の死生観が変わり、献体登録を解除したい時は登録先に連絡してください。

もし、ご遺族がいない時は、献体登録は、信頼している知人に依頼することも可能です。その場合は生前から依頼しておき、トラブルがないように注意します。

献体登録者が亡くなったら

実際に献体登録をしている方が亡くなったときは、ご家族や生前に依頼を受けた方が献体登録書に記載している連絡先に連絡します。その際に、葬儀やご遺体の引き取り日について話し合いが行われます。

ご遺体の引き取りは、死亡後24時間から48時間以内に行われます。献体登録をする時に、葬儀のタイミングについても家族と話しあっておくと、実際に亡くなられた時に、落ち着いた気持ちで献体へ見送ることができます。

気になる葬儀のタイミングですが、2通りあります。ご遺体を登録先に引き渡す前に葬儀を行う方法と、遺骨が返還されてから葬儀を行う方法です。本人とご家族の希望にあった方法を選択できます。

遺骨の返還時期とその方法

解剖が終了した後は、登録先が、一体ごとにご遺体を火葬します。火葬は原則、立ち会うことができません。ご遺族には遺骨をお返しします。遺骨が返却されるのは、ご遺体を登録先に引き渡してから1~2年後になります。解剖実習の進歩状況によっては、3年以上かかることもあります。

こんな場合は献体できる?

病気や障害がある場合

生前に病気や手術跡があっても、解剖学の講師による解説や他の方と比較することで、病気や治療について理解を深めることができます。しかし、損傷具合や状態によっては、献体を拒否されることもあるので、不安な方は一度登録先に相談してください。

臓器提供も希望している場合

臓器提供とは、脳死後や心臓停止の状態で亡くなられた方から、病気や事故によって臓器の機能が不全になってしまった方に、臓器の提供を行うことです。

解剖学は人体の構造を理解することを目的としているため、本来であれば臓器が揃った状態が理想ですが、献体と臓器提供を同時に受け入れている登録先もあるので、登録先に問い合わせください(※3)。

年齢が若い場合

年齢が一定年齢以上と制限を設けている登録先もあります。高齢者の方は、医学貢献における選択肢に限りがありますが、年齢の若い方は、臓器移植の提供など献体以外でも医学に貢献できる選択肢が多くあります(※4)。

しかし、献体は臓器移植と違い何歳であっても貢献できることから、医学貢献の選択肢が少ない高齢者の死生観を尊重するため、年齢制限を設けている登録先もあります。

その他、献体ができない例

  • 献体に反対するご遺族がいる場合
  • 遺骨を引き取る人がいない(ただし、登録先で納骨堂がある場合は、献体可能)
  • 自死の場合
  • 事故死で遺体損傷が激しい場合
  • 司法解剖(変死や事故死など警察の判断の下、死因の解明をする)を要する場合
  • 病理解剖(病院で亡くなった場合に病因の解明をする)を行う場合
  • 感染症に罹患している場合

ここまで、献体の始まりや実際の流れについて説明してきました。献体は、本人や家族にとって「最期に医学の役に立てた」という思いを尊重することができる、大切な役割を担っています。また、医学進歩の道にとっても必要不可欠です。

亡くなる直前に献体を希望しても、献体登録が間に合わない場合があります。

少しでも興味のある方は是非、献体篤志家団体(献体の会)やお住まいの地域にある医科大学や歯科大学に問い合わせてください。

参考文献
1.公益財団法人 日本篤志献体教会「1献体とは」(閲覧日2020年10月9日)
2.山梨大学 医学部・医学科/看護学科 大学院総合研究部 医学域「献体にご協力ください」(閲覧日2020年10月9日)
3.公益財団法人 日本篤志献体教会「2.献体登録と献体の実行」(閲覧日2020年10月9日)
4.札幌医科大学医学部 解剖学第二講座「献体に関する質疑応答」(閲覧日2020年10月9日)
執筆者プロフィール
大島 華
看護師 兼 医療ライター。
慶應義塾大学看護医療学部卒業後、大学病院の内科混合病棟に従事。学生時代に「国際医療」をテーマに勉強会を開催するなど、医療系イベントの主催を行う。実際に医療現場で働く中で、人生観、死生観について考えていくことが大切だと感じる。医療の現状について、多くの人に伝えていきたいと考え、医療ライターとしても活動中。

 

 

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