例えば、とある被相続人の相続人となるべき者が被相続人よりも前に死亡していた時、このような場合に発生するのが「代襲相続」です。
ここでは、代襲相続人となるための要件を詳しく解説し、あわせて混同しがちな数次相続との違いについても説明します。
代襲相続人とは
「代襲相続」とは、被相続人による相続が開始された際、その被相続人の相続人となるべき者が、被相続人よりも前に死亡していたとき等に発生するものをいいます。
この「代襲相続」が発生すると、被相続人より前に死亡した者の子などが、死亡した者に代わって相続人となります。
少し分かりにくいので、具体例を示してみます。Aの子供がB、Bの子供がCだとします。つまり、CはAの孫です。
Aが死亡するより前にBが既に死亡していた場合、Bに代わってCがAの相続人となります。
つまり、CがBの相続権を「代襲」するのです。このような相続のことを「代襲相続」といいます。
そして、Cのことを「代襲相続人」といい、Bを「被代襲者」といいます。
相続人と被相続人
「相続人」とは、亡くなった人の財産を承継する人のことをいいます。
そして「被相続人」とは、亡くなったことで相続人に財産を承継される人のことをいいます。「被」とは、「~される」という意味です。
つまり、相続され、財産を承継される人なので「被相続人」というのです。
代襲者と被代襲者
「代襲者」とは、代襲相続をする人のことをいいます。
そして「被代襲者」とは、代襲相続をされる人のことをいいます。
Aが死亡した場合、Aの子供がB、Bの子供がCである場合で、BがAより先に死亡しているとき、Aの相続に関して相続権を代襲する者、すわなち「代襲者」はCであり、「被代襲者」はCに「代襲相続をされる人」ですからB、ということになります(そして、Aは「被相続人」ということになるわけです)。
代襲相続が発生する3つのケース
代襲相続が発生するのは、被相続人の「死亡以前」に、本来相続人となるべき子や兄弟姉妹が、以下の3つのうちのどれかに該当した場合に限られています。
- 死亡したとき
- 相続人としての欠格事由(民法891条)に該当したとき
- 廃除(民法892条)により相続権を失ったとき
これ以外の理由、例えば被相続人の子が相続放棄(民法938条)をした場合においては、代襲相続は発生しません。
つまり、Aが死亡した場合に、Aの子供がB、Bの子供がCである場合、被相続人Aの子であるBが相続放棄をしたときは、Bはもちろんのこと、CもAの相続人とはなりません。
代襲相続は発生せず、CはBの相続権を代襲できないのです。
代襲相続人となるための要件
代襲相続人となるためには、次の5つの要件を全て満たしている必要があります。
- 被代襲者が、被相続人の子または兄弟姉妹であること
- 被代襲者が、相続開始前の死亡・欠格事由・廃除により、被相続人についての相続権を失っていること
- 代襲者が、被相続人の相続に関して、相続欠格者・廃除者ではないこと
- 代襲者が、相続開始時に被代襲者の直系卑属であること
- 代襲者が、被相続人の直系卑属であること
以下、詳しく見ていきましょう。
被代襲者が被相続人の子、または兄弟姉妹である
被代襲者は、被相続人の「子」または「兄弟姉妹」でなければなりません。
つまり、被相続人の「直系尊属(:父母・祖父母等)」や「配偶者」は、被代襲者とはなれないのです。
たとえば、被相続人の死亡前に配偶者が死亡していた場合、その配偶者の兄弟姉妹などが、配偶者の相続権を代襲して相続人になる、ということはありません。
なお、被相続人に子がなく、被相続人の父母が死亡している場合で祖父母がいるときには、祖父母が相続人となります。
これは父母を被代襲者とする代襲相続ではなく、祖父母が被相続人に対して固有の相続権を有している、と考えることになります。
被代襲者が相続開始前の死亡・欠格・排除によって相続権を失っていること
代襲相続が開始されるためには、被代襲者が、相続開始前に死亡・欠格事由・廃除のいずれかにより、被相続人についての相続権を失っていることが必要となります。
なお、前述したとおり、死亡・欠格事由・廃除以外の理由で被代襲者が相続権を失ったとしても(例えば「相続放棄」)、代襲相続は開始されません。
代襲者が相続人からの排除者・欠格者ではないこと
代襲者が、被相続人の相続に関して、相続欠格者や廃除者ではないことが必要です。
代襲者が、被相続人の相続に関しての相続欠格者や廃除者であれば、当然のことながら、その者は被相続人の相続に関する相続人となることができないからです。
代襲者が相続開始時に被代襲者の直系卑属であること
代襲者が、相続開始時に被代襲者の「直系卑属」であることが必要です。「直系卑属」とは、子・孫・曾孫・玄孫などのことをいいます。
被代襲者Bが被相続人Aの「子」である場合、その被代襲者Bの子Cに代襲原因(被代襲者の死亡以前に、死亡・欠格事由・廃除)があるときには、代襲者は孫Dとなり、その孫Dに代襲原因があるときには、代襲者は曾孫E、と順次下っていくことになります。
このことを「再代襲」といいます。
しかし、被代襲者が「兄弟姉妹」の場合には、「再代襲」は認められません。
つまり、被代襲者Bが被相続人Aの「兄弟姉妹」の場合には、その「兄弟姉妹」の子Cのみが代襲者となれるのであり、被代襲者Bの孫Dや曾孫Eが代襲者となることはありません。
代襲者が被相続人の直系卑属であること
代襲者は、被相続人の「直系卑属」でなければなりません。
被相続人の配偶者や直系尊属、兄弟姉妹が代襲者となることはありません。その点、ご注意ください。
代襲相続人になるのは誰か
相続人である子が死亡しているとき
被相続人の相続人になるはずの子が、被相続人の死亡前に死亡していた場合、その子の子(被相続人の孫)が代襲者として相続人になります。
被相続人Aの相続人になるはずの子Bと、Bの子Cとが、共に被相続人の死亡前に死亡していた場合には、さらにCの子D(被相続人Aの曾孫)が代襲者として相続人になります。
これを「再代襲」といいますが、直系卑属が続く限り、どこまでも下へ降りていくことになります。
なお、被代襲者Bの「配偶者」や、被代襲者Bの「子Cの配偶者」、被代襲者Bの「孫Dの配偶者」が、代襲者となることはありません。ご注意ください。
また、被代襲者である子が「養子」である場合は、その養子の子(被相続人の孫)がいつ出生したのかにより、代襲者となるかどうかが決まります。
- 養子の子(被相続人の孫)が、養子縁組「後」に生まれた子であれば、代襲相続人になります。
- 養子の子(被相続人の孫)が、養子縁組「前」に生まれた子であれば、代襲相続人になりません。
養子縁組「前」に生まれていた子は、被相続人との間に親族関係が存在しません。
そのため、養子縁組「前」に生まれていた子は、代襲相続人にはなれないのです。
相続人である兄弟姉妹が死亡しているとき
被相続人の相続人になるはずの兄弟姉妹が、被相続人の死亡前に死亡していた場合、その兄弟姉妹の子(被相続人の甥姪)が代襲者として相続人になります。
なお、被代襲者が「兄弟姉妹」である場合には、前述のとおり「再代襲」は発生しません。
被相続人の相続人になるはずの兄弟姉妹と、更にその子とが共に被相続人の死亡前に死亡していた場合でも、兄弟姉妹の孫や曾孫が代襲者となることはありません。
また、被相続人の相続人になるはずの兄弟姉妹の「配偶者」や、兄弟姉妹の「子の配偶者」も、代襲者となることはありませんのでご注意ください。
代襲相続人が複数人いるとき
代襲相続人が複数人いるときには、代襲相続人は被代襲者の法定相続分を平等な割合で承継します。
たとえば、被相続人Aの相続人になるはずのBが既に死亡しており、Bの子がCとDとEである場合、Aの相続人は代襲相続人のCとDとEであり、その法定相続分は各3分の1となります。
また、被相続人Aの相続人になる者がBとCで、Bが既に死亡しており、Bの子がDとEの場合、Aの相続人はCと代襲相続人のDとEであり、その法定相続分は、Cが2分の1、DとEは被代襲者Bの法定相続分2分の1を半分ずつ承継するので、それぞれ4分の1ずつとなります。
代襲相続の財産分割はどうするか
代襲相続人が孫の場合
被相続人の孫が代襲相続をする場合、孫は、被代襲者である親(被相続人の子)の法定相続分を引き継ぐことになります。
例えば、被相続人Aの相続人が、Aの配偶者Bと、Aの子である亡きCの子D(Aの孫)である場合、その法定相続分は、配偶者Bが2分の1、子Cの持分を承継する代襲相続人Dが2分の1となります。
代襲相続人が複数いる場合、たとえば、被相続人Aに配偶者Bと子の亡きCとDがあり、亡きCの子がEとFである場合、その法定相続分は、配偶者Bが2分の1、子Dは4分の1(:2分の1÷2)、亡きCの持分4分の1を平等に承継するEとFは、それぞれ8分の1ずつの法定相続分となります。
代襲相続人が甥や姪の場合
被相続人の甥姪が代襲相続する場合は、甥姪は、被代襲者である親(被相続人の兄弟姉妹)の法定相続分を引き継ぐことになります。
例えば、被相続人Aの相続人が、Aの配偶者Bと、Aの弟である亡きCの子D(Aの甥)である場合、その法定相続分は、配偶者Bが4分の3、弟Cの持分を承継する代襲相続人Dは4分の1となります。
代襲相続人が複数いる場合、例えば、被相続人Aに配偶者Bと弟の亡きCとDがあり、亡きCの子がEとFである場合、その法定相続分は、配偶者Bが4分の3、弟Dは8分の1(:4分の1÷2)、亡きCの持分8分の1を平等に承継するEとFは、それぞれ16分の1ずつの法定相続分となります。
養子の代襲相続はどうするか
被相続人に養子があり、その養子が被相続人の死亡前に死亡しており、養子に子がいる場合には、代襲相続が発生する可能性があります。
ただし、代襲相続が発生するのは、養子の子が養子縁組の「後」に生まれている場合に限られます。
養子の子が養子縁組「前」に生まれている場合には、代襲相続は発生しません。
被相続人の養子が被相続人の死亡前に死亡していて、その養子に、養子縁組「後」に生まれた子がいる場合には、その子が代襲相続人となります。
その代襲相続人は、自分の親(被相続人の養子)の法定相続分を承継することになります。
養子に複数の代襲相続人がいる場合は、自分の親(被相続人の養子)の法定相続分を平等の割合で承継することになります。
例えば、被相続人Aの相続人が配偶者Bと実子C、養子の亡きDで、DにAとの養子縁組前に生まれた子Eと、養子縁組後に生まれた子FとGがいる場合、Aの相続人はB・C・F・Gになります(養子縁組前に生まれたEは相続人になりません)。
その法定相続分は、配偶者Bが2分の1、実子Cは4分の1(:2分の1÷2)、養子の亡きDの持分4分の1を平等に承継するFとGは、それぞれ8分の1ずつの法定相続分となります。
それ以外の法定相続分は変わらない
代襲相続人は、あくまでも被代襲者の相続分を引き継ぐことになりますので、代襲相続人が何人いても、代襲相続人以外の相続人の法定相続分が変わることはありません。
例えば、被相続人Aに弟亡きBと弟Cがあり、亡きBの子供がDであるとき、相続人はCと代襲相続人のDですが、その法定相続分はCが2分の1、亡きBの持分を承継するDが2分の1となります。
また、被相続人Aに弟亡きBと弟Cがあり、亡きBの子供がDとEとFであるとき、相続人はCと代襲相続人のD・E・Fですが、その法定相続分はCが2分の1、亡きBの持分を承継するD・E・Fは各6分の1ずつの法定相続分となります。
代襲相続と数次相続
「代襲相続」と似て非なるものとして、「数次相続」というものがあります。
「数次相続」とは、相続が発生した場合に、その相続に関する遺産分割などの手続きが完了する前に、新たな相続が発生することをいいます。
例えば、被相続人がAでその相続人がBとCである場合に、BとCとの間で遺産分割協議を行う前に、Bが死亡してしまったときなどがこれに該当します。
被相続人Aについての第一次相続が解決する前に、Bについての第二次相続が発生しているため、これを「数次相続」というのです。
この場合、被相続人Aの相続に関する手続は、Cと「亡きBの相続人」との間で、遺産分割協議等を行うことになります。
この「数次相続」が「代襲相続」と異なる点は、上記の例でいうと、亡きBの「配偶者」が相続人になるか否かです。
「代襲相続」の場合には、被代襲者の「配偶者」が代襲相続人になることはありませんでした。
ところが「数次相続」の場合は、第二次相続の被相続人Bの配偶者は、Bの相続人として、Aの相続に関する権利を承継します。
数次相続の場合には、亡きBの配偶者は、Bの相続人として第一次相続である被相続人Aの遺産分割協議に参加することになるのです。
「数次相続」と「代襲相続」との見分け方は、上記の例でいうと、BがAより「後」に死亡している場合は「数次相続」、BがAより「先」に死亡している場合は「代襲相続」です。
「数次相続」と「代襲相続」とでは、誰が相続人になるかが全く異なってきますので、その判断は慎重に行う必要があります。くれぐれもご注意ください。
代襲相続するときの基礎控除について
相続税における基礎控除の算定は、
で計算します。この基礎控除を考える際、代襲相続人はそのまま「法定相続人」としてカウントし、計算します。
例えば、被相続人Aの相続に関して、配偶者B、子の亡きC、子のD、亡きCの子がEとFであった場合、被相続人Aの相続人はBとDと代襲相続人EとFとなりますが、この場合、相続税の基礎控除算定のための「法定相続人」の人数は、B・D・E・Fの4名となります。
よってこの例の場合、
となり、基礎控除額は5400万円となります。
なお、基礎控除の算定に関する詳細等については、税理士等にご確認ください。
代襲相続と相続放棄
被相続人の相続人になるはずの子が、相続放棄により相続権を喪失していた場合、その子の子(被相続人の孫)は代襲者とはなれません。
代襲相続が発生するのは、被代襲者が被相続人の死亡前に、①死亡していた場合、②欠格事由に該当したとき③廃除により相続権を失ったときの3つに限られ、被相続人の子や兄弟姉妹が相続放棄をした場合には、代襲相続は発生しません。
ご注意ください。
代襲相続に必要な書類は?
相続が発生し相続財産を承継するための相続手続きを行うときには、被相続人に関する戸籍謄本等の相続証明書が必要となります。
さらに、代襲相続が発生している場合には、通常の相続証明書に加え、代襲相続が発生したことを証する戸籍等謄本、その者が代襲相続人であることを証する戸籍謄本等が必要となります。
例えば、被相続人Aの子BがAより先に死亡しており、Bの子CがAの相続人となる場合には、次のような戸籍等謄本が必要となります。
- 被相続人Aの死亡から出生まで遡る戸籍等謄本
- 被代襲者Bの死亡から出生まで遡る戸籍等謄本
- 代襲相続人Cの戸籍謄本
被相続人Aの死亡から出生まで遡る戸籍等謄本により、Aの相続人が誰であるかを確認することになります。
そして、被代襲者Bの死亡から出生まで遡る戸籍等謄本により、Bの代襲者が誰であるかを確認することになります。
最後に代襲相続人Cの戸籍謄本により、CがBの直系卑属であることを確認します。
なお、法務局で代襲相続による不動産登記申請手続を行う場合には、上記に加え、被相続人Aの住民票、代襲者Cの住民票、対象物件の固定資産評価証明書なども必要となります。
また、遺産分割協議をしている場合には、当該遺産分割協議書および相続人、代襲相続人の印鑑証明書等も必要となります。
詳しくは司法書士等にご確認ください。