遺言書の書き方–自筆証書遺言の作成法や文例、訂正法を詳解

更新日:2023.11.28

遺言書の書き方–自筆証書遺言の作成法や文例、訂正法を詳解

死後の財産処分を指示するための「遺言書」は、家族の生活を末永く支え、守るための重要な書面です。

遺言書の作成は筆記用具と印鑑があれば今すぐ始められますが、内容を実現する義務を生じさせるには「決められた作成手順」を守らなければなりません。

相続準備を意識し始めたばかりの人へ、遺言の必要性・遺言形式の種類とともに、実際に相続させたい内容を遺す際の「遺言書の書き方」について解説します。

遺言書について

そもそも遺言書とは、遺産について「誰が・どの資産を・どの割合で」相続するのか指定するための文書です。

遺言書の書き方は相続法で定められており、ルール通りに作成されたものは、相続人全員が同意する限りその内容を実現する義務(=法的効力)を生じさせます。

遺言書と遺言の違い

法律上、生前の最終意思そのものを”遺言”(いごん)と呼び、遺言を書面化したものを”遺言書”(いごんしょ)と呼びます。

現状の法制下での遺言は、映像音声記録等の手段が認められておらず、かならず書面を残さなければなりません。

また、遺言しようとする人は”遺言者”(いごんしゃ)と呼び、すなわち遺言書の作成者を意味します。

遺言書の種類

遺言書の書き方そのものには、複数の選択肢があります。

相続法では「普通方式遺言」に含まれる下記3種類の形式のうち、遺言しようとする人の状況に合わせてどれを選んでもよいとしています。

  • 自筆証書遺言: 手書きで書面を作成し、封印したのち自宅で保管する方式の遺言方式です。「気軽に作成したい」「必要な時にすぐ訂正したい」と考える人に適しています。
  • 公正証書遺言: 公証人(法律関係の証明を職務とする公務員)に相続させたい内容を手書きメモや口頭で伝え、遺言書作成と保管を任せる方法です。「遺言書の自宅保管に不安がある」「資産が多く相続トラブルの可能性がある」「確実に有効性のある遺言をしたい」と考える人に適しています。
  • 秘密証書遺言: 手書きあるいはワープロソフトで書面作成し、公証役場で封印したのち自宅で保管する方式の遺言方法です。「できるだけ自力で作成し、生前は内容を秘密にしたい」と考える人に適しています。

なお、遺言書が死後発見された時は、開封を家庭裁判所に任せる「検認」が原則必須です。

検認なく勝手に開封された場合、開封者が5万円以下の過料に処される上、改ざんの疑いが出てしまう点に注意しましょう。

例外的に、上記3種類の形式のうち「公正証書遺言」は検認不要です。

下記表では、遺言書の種類選択に役立つよう、3種類の遺言形式の特徴をまとめています。

遺言形式(遺言書の種類)の比較 ※普通方式遺言のみ
比較項目 自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成方法 手書き※ 公証人に依頼 手書きorワープロ
作成場所 どこでも可 公証役場 どこでも可
費用 ほぼ0円 1万6,000円~+諸手数料 定額1万1,000円+諸手数料
紛失リスク あり なし あり
無断開封リスク あり なし なし
改ざんリスク あり なし なし
死後の検索性 低い(遺品にまぎれやすい) 高い(全国の公証役場で探せる) 高い(封印の記録が公的に残る)
死後の検認 不要

※2020年8月現在、任意で添付する財産目録(遺産を一覧化した書面)はワープロソフトでの作成が認められています。

遺言書の書き方

どの遺言形式でも、書き方と作成手順は必ず押さえましょう。

ここからは、気軽に作成できるもののミスの多い自筆証書遺言から順に解説します。

自筆証書遺言の書き方

自筆証書遺言の基本ルールは「全文手書きし、作成年月日記入と署名捺印を忘れず行う」ことです。

遺言内容は一段落でまとめて書こうとせず、資産種類ごとに条文番号を設けて相続人情報・相続方法・分割割合を記入しましょう。

なお、縦書き・横書き・用紙・筆記インク等の指定はありません。

【手順ごとに解説】自筆証書遺言の書き方

  1. 表題を「遺言書」と書く
  2. 遺言者の氏名を書き、遺言する旨の一文を書く
  3. 条文番号を書く
  4. 資産種類・相続人の氏名と生年月日・分割する場合はその割合を書く
  5. 資産を特定できる情報(登記簿や預金通帳に書かれている情報)を書く
  6. ③~⑤を繰り返し、全資産の相続方法を指定する
  7. 作成年月日と遺言者の現住所を記入し、署名捺印する
  8. (ワープロで財産目録を作成した場合)財産目録の全ページに署名捺印する
  9. 封印し、表題・遺言者情報・検認前の開封を禁じる旨を封筒に書く

 自筆証書遺言の文例

表題と署名捺印部分を除く自筆証書遺言の内容は、相続のパターン別に次のように記述します。

※下記は一例です。相続ケースそのものの詳細や、遺言書作成の指導を行う専門家により、文面は異なります。

不動産を相続させる場合の文例

第×条.下記不動産は〇〇〇〇(×年×月×日生)に相続させる。

(1)土地

所在:東京都世田谷区××丁目××番地×号

地番:×番×

地目:宅地

地積:××.××㎡

 

(2)家屋

所在 東京都世田谷区××丁目××番地×号

家屋番号:×番×

種類:居宅

構造:鉄骨鉄筋コンクリート造

床面積:××.××㎡

預貯金を相続させる場合の文例

第×条.下記銀行預金は〇〇〇〇(×年×月×日生)に相続させる。

××銀行××支店

口座種別:普通預金

口座番号:×××××××

口座名義人:遺言者

相続権を持たない人に相続させる場合の文例

第〇条.下記不動産は〇〇〇〇(住所:〇県〇市〇町×丁目×番×号、生年月日:×年×月×日生)に遺贈する。

土地

所在:東京都世田谷区××丁目××番地×号

地番:×番×

地目:宅地

地積:××.××㎡

※遺贈とは…遺言による財産の贈与を指します。

複数の相続人で分割させたい場合の文例

第〇条.下記の財産は、次の割合で相続させる。妻 〇〇〇〇(生年月日:×年×月×日生) 3分の2

長男 〇〇〇〇(生年月日:×年×月×日生) 3分の1

 

××銀行××支店

口座種別:普通預金

口座番号:×××××××

口座名義人:遺言者

条件付きで相続させたい場合の文例

第×条.下記銀行預金は長男〇〇〇〇(×年×月×日生)に相続させる。

××銀行××支店

口座種別:普通預金

口座番号:×××××××

口座名義人:遺言者

 

第×条.前条の負担として、妻〇〇〇〇の生存中は毎月末日に15万円を支払うとともに、日常生活の支援をするものとする。

自筆証書遺言を書く時の注意点

自筆証書遺言は「作成年月日や署名捺印の記入漏れ」「指示している内容が曖昧」等、記載内容が原因で無効になるケースが多数あります。

手書き文書ならではのトラブルとして「判読できない」という事態も考えられます。

特に注意したいのは訂正時のルールです。

後から訂正事項が出た場合は、下記すべて実施するようにしましょう。

【自筆証書遺言の訂正ルール】

  • 訂正箇所に二重線を引く
  • 二重線の上に押印する
  • 二重線の横に訂正内容を記入する
  • 遺言書欄外で箇所を指示し、訂正前・訂正後の内容をそれぞれ書く
  • ④の記入部分に署名する

公正証書遺言の書き方

公正証書遺言を作成する場合、相続させたい内容さえ決まっていれば書き方のルールを覚える必要はありません。

最寄りの公証役場を予約し、当日は簡単なメモにまとめた遺言内容を持ち込んで文面作成を依頼します。

ただし公証役場を訪れる際は、遺言者の他に2名の証人(相続人以外の成人)の同伴が必要になる他、下記書類を提示しなければなりません。

【公正証書遺言の作成時に必要な持ち物】

  • 本人確認書類※1
  • 印鑑証明書+実印
  • 相続人との関係が分かる戸籍謄本一式
  • (相続権のない人に相続させる場合)相続させたい人の住民票※2
  • 預金通帳・証券口座の明細など、資産情報が分かる資料
  • (不動産がある場合)登記簿謄本+固定資産税評価証明書or課税明細書
  • 各証人の本人確認書類+印鑑

※1:印鑑登録証明書・運転免許所・その他顔写真入りの証明書(マイナンバーカードなど)のうちいずれか1点が必要です。

※2:福祉施設など法人に相続させる場合、住民票の代わりに「資格証明書」が必要です。

公正証書遺言を作成する時の注意点

記載内容が原因で遺言が無効になるケースは、公正証書遺言ではほとんどありません。

しかしごく稀に「相続人を証人にしてしまった」「証人が席を外したまま作成した遺言書の最終確認を実施してしまった」等の理由で無効になることがあります。

秘密証書遺言の書き方

秘密証書遺言の内容の書き方は、先述の「自筆証書遺言」とほとんど同じです。自筆証書遺言と異なるのは、遺言者本人の署名押印さえあれば内容はワープロソフト等で作成できる点です。

公証役場へ封印を依頼する際は、公正証書遺言と同じく証人2名の同伴が必要になる他、下記書類を提示しなければなりません。

【秘密証書遺言の封印時に必要なもの】

  • 作成済の遺言書
  • 印鑑(遺言書に押印したもの)
  • 本人確認書類(自筆証書遺言と同様)
  • 各証人の本人確認書類+印鑑

秘密証書遺言を書く時の注意点

秘密証書遺言は、その性質上第三者に確認をしてもらわずに作成されることが多く、自筆証書遺言に見られる「記載漏れや曖昧な記述が原因の無効化」に一層注意が必要です。

自力で文面作成できる自信があっても、できるだけ弁護士や司法書士の最終チェックを受けましょう。

これらの専門家には守秘義務があり、たとえ近親者であっても遺言者以外の人物に内容を明かすことはありません。

単に「検認前の開封による無効化を防ぎたい」という理由で遺言形式を選ぶなら、無効化リスクが低く保管体制の万全な公正証書遺言を選びましょう。

特別方式遺言の書き方

特殊状況下で例外的に認められる「特別方式遺言」は、状況別に下記の方法で作成します。

  • 一般危急時遺言…病気や怪我で死亡の危機が迫った時: 証人3人以上の立会のもと、遺言内容を口述して証人の1人に筆記させ、正確に書き留めたことを確認したのち証人全員で署名捺印します。
  • 難船危急時遺言…事故を起こした船舶や飛行機に乗っている時: 証人2人以上の立会のもと、遺言内容を口述して証人の1人に筆記させ、正確に書き留めたことを確認したのち証人全員で署名捺印します。
  • 一般隔絶地遺言…伝染病による隔離中や服役中に遺言したい時: 警察官1人と証人1人の立会のもと遺言書を作成し、遺言者含む全員で署名捺印します。
  • 船舶隔絶地遺言…船舶乗船中に遺言したい時: 船長または事務員1人と証人2人以上の立会のもと遺言書を作成し、遺言者含む全員で署名捺印します。

死亡の危機が迫った時に行う2種類の「危急時遺言」は、作成した書面について家庭裁判所に請求して確認してもらう必要があります。

他2種類の「隔絶地遺言」は、隔離状況下であれば死亡の危機がなくとも作成でき、家裁での確認手続きは不要です。

まとめ

遺言書の書き方にはいくつかの種類があり、自宅で費用負担なく作成できる「自筆証書遺言」の他、より確実かつ機密性を保てる「公正証書遺言」と「秘密証書遺言」があります。

どの種類を選んでも、記載の不備・作成フローに対する不注意等による無効化リスクはつきものです。

作成時はなるべく専門家に事前指導を受け、遺言書を自力で完成させられそうな場合でも、念のためレビューしてもらうことをおすすめします。

執筆者プロフィール
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

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