遺言書の種類と効力7つ—書き方と文例、依頼時の費用も解説

更新日:2023.11.28

遺言書の種類と効力7つ—書き方と文例、依頼時の費用も解説

相続準備をしようと考えた時、「まず遺言書を作成しなければならない」と思いつきはするものの、遺言書の機能や書き方についてはしっかりとは理解していないというケースが多々見られます。

そもそも遺言書は単に「どの財産を誰に譲るのか」を決められるだけではありません。

他にも様々な効力があり、適宜活用することで死後も生前のイメージに沿って家族の生活基盤を守れます。

本記事では、遺言書の機能・形式・作成ルールや注意点など、相続を意識し始めた人が必要とする基礎知識を紹介します。

目次

遺言書とは

遺言書とは、死後の財産処分について生前のうちに考えをまとめた文書のこと。

作成は任意であるものの、相続法の定め(法定相続人とその相続分)とは異なる配分を行いたいときは必須です。

遺書と遺言書の違い

一般に「遺書」と「遺言書」は混同されがちですが、その意味はまったく異なります。

「遺書」は単に死後に見られることを想定した私的な文書ですが、他方の「遺言書」は相続法指定の書式が守られることでその内容を実現する義務が生まれる、法的効力を有する書類です。

相続手続きにおいては、生前の意思をしたためた文書を「遺言書」(いごんしょ)、その作成者を「遺言者」(ごんしゃ)と呼びます。

遺言書の検認とは

遺言書の記載内容に法的効力が生じるのは死後ですが、正確には家庭裁判所で「遺言書の検認」(相続人立会のもと内容の真正を確かめる手続き)を経たあとです。

検認を申し立てる際は、家裁側で相続関係者の確認をとるため、戸籍謄本・住民票の一式を揃えなければなりません。

以上を踏まえ、遺言者が死亡してからの流れを示すと以下のようになります。

例外として「公正証書遺言」と呼ばれる形式で作成されたものについては、内容の真正がすでに確かであるため、上記手続きは省略できます(詳細は後述)。

また、検認当日は相続人が揃わずとも問題ありません。

手続きした人(遺言書を発見した人)さえ立ち会えばよいとされています。

遺言書の種類

遺言の仕方、つまり遺言書の作成方法には下記の3種類(形式)があります。

これらはまとめて「普通方式遺言」と呼び、遺言者の都合や重視したいことに合わせて自由に選択できます。

自筆証書遺言

普通方式遺言のうち「自筆証書遺言」は、全文手書きで作成して自宅で保管するだけの最も簡便な形式です。

書き方や訂正・変更のやり方は相続法(民法第968条)で指定があり、指定が明確かつ書式が正しくすることで法的効力を有します。

公正証書遺言

普通方式遺言のうち2つ目の「公正証書遺言」は、法律上の契約書面の作成・保管を行う「公証役場」に遺言内容を伝え、代筆してもらう形式です。 

作成済みの遺言書原本は公証役場で最長20年間保管され、遺言者自身でいつでも正本・謄本の請求が出来るほか、死亡後は全国どこの公証役場からでも「遺言書の検索」が可能になります。

秘密証書遺言

普通方式遺言のうち最後の「秘密証書遺言」は、遺言者自身で作成・封印した書面を公証役場に持ち込み、封印の証明と遺言書の存在について同役場で記録してもらう形式です。 

作成時の書式は自筆証書遺言に準じますが、全文手書きの縛りがなく、パソコンやワープロ等で執筆しても法的効力が生じます。

なお、公正証書遺言と同じく、死亡後は全国どこの公証役場からでも検索が可能になります。

特別方式遺言の4形式

上記3種類の「普通方式遺言」が生前の意思の遺し方の原則ではあるものの、緊急時には口述筆記(口授)が認められる「特別方式遺言」を用いることができます。 

  • 一般危急時遺言: 疾病等により死亡の危機に迫っているとき
  • 難船危急時遺言: 乗船中の船舶が遭難し死亡の可能性が迫っているとき
  • 伝染病隔絶地遺言(一般隔絶地遺言): 伝染病蔓延や戦闘・暴動などによる行政処分のため、外部との交通手段を遮断されているとき
  • 船舶隔絶地遺言: 遺言者が船舶等の隔離された場所にいるとき
遺言形式 証人の数 作成方法
危急時遺言 一般危急時遺言 3人 口授・証人が筆記
難船危急時遺言 2人 口授・証人が筆記
隔絶地遺言 伝染病隔絶地遺言(一般隔絶地遺言) 警察官1人+その他1人 口授または自筆
船舶隔絶地遺言 船長または事務員1人+その他2人 口授または自筆

遺言書の7つの効力+α

遺言書に記載することで法的効力を持つのは「相続分の指定」だけではありません。

これから説明するように、記載内容しだいで相続人の変更(身分行為)を含む8つの効力を有します。

1.各人の相続分と分割方法を指定する

先述の通り、遺言書の効力を代表するものは「法定相続分とは異なる相続割合」の指定です。

そのほかにも、個別の資産について具体的にどのように分割するのか、以下4種類の中から選んで指定できます。

遺産の分割方法

  • 現物分割: 資産を売却せずそのまま分割する
  • 換価分割: 資産の売却代金を分割する
  • 代償分割: 資産を特定の相続人に得させ、他の相続人に金銭等を支払わせる
  • 共有: 資産を相続人の共有物として名義変更(登記)させる

2.相続権のない人へ財産を与える(遺贈)

遺産を得られるのは、本来であれば相続権を持つ人物(法定相続人)のみです。

しかし遺言書なら「任意の人物に遺贈する」と指定することで、血縁関係も相続権もない人物に財産を譲れます。

3.遺産分割を禁止する

財産を分散させてはならない事情がある場合は、遺言書への記載で遺産分割を禁じることが出来ます。

なお、禁止できる期間は「死亡から5年を超えない範囲」と相続法で定めがあります。

4.遺留分侵害額請求権の順位を指定する

生前贈与や遺贈によって相続人が有する最低限の権利(遺留分)が不足する場合、不足分の補填をどの資産に(あるいは誰に)求めるべきか、その優先順位を遺言書で指定できます。

5.遺言執行者を指定する

死後遺言内容の実現に滞りがでる可能性がある場合は、遺言書内に信頼できる人物を指定し、権利義務を与えて遺産分割や名義変更手続きを実行させられます。

6. 婚外子を認知する

生前にだと何かとトラブルの元になりやすい婚外子の認知は、遺言書に記載することで死亡後に実施することが出来ます。

認知された子には、嫡出子と同じく相続権が付与されます。

7. 相続権をはく奪する

著しい素行不良や、被相続人に対する侮辱・虐待行為などが見られる相続人については、遺言で相続権をはく奪できます。

この行為を「相続人の廃除」と呼びます。

8. 死亡保険金の受取人を変更する

死亡保険金の受取人を変更する必要が出そうな場合は、遺言書にあらかじめ変更の旨を記載しておくことで、改正保険法(平成22年)に基づいて受理されます。

遺留分とは

遺言書作成での最重要事項として、遺留分問題があります。

遺留分とは、相続人のうち①配偶者・②子(あるいは代襲相続人)・③父母や祖父母などの直系尊属に法律上保障される最低限の相続分です。

具体的な遺留分割合も相続法で指定されており、相続人の血縁構成によって変化します。

法定相続人の組み合わせ\遺留分権者 配偶者 子(orその代襲相続人) 直系尊属 兄弟姉妹
配偶者のみ 2分の1
配偶者と子(代襲相続人) 4分の1 4分の1
配偶者と直系尊属 6分の2 6分の1
配偶者と兄弟姉妹 2分の1 なし
子(代襲相続人)のみ 2分の1
直系尊属のみ 3分の1
兄弟姉妹のみ なし

遺言書の効力と遺留分の関係

遺留分を無視した遺言書であっても、その内容の法的効力は保たれます。

ただし、相続トラブル化は避けられません。

無視された相続人が「遺留分侵害額請求権」が行使すると、その相手方となった相続人には金銭を支払う義務が生じ、当然両者のあいだで激しい意見対立が始まるからです。

このような状況に陥ることを避けるため、あらかじめ遺留分を尊重した内容を指定するか、先に紹介した請求の優先順位の指定を行っておく必要があります。

遺言書の書き方

いよいよ遺言書の作成に入ろうとするときは、選択する遺言形式別の「書き方のルール」を意識しなくてはなりません。以下では、普通遺言形式のそれぞれの書き方(記載項目)と作成のポイントについて紹介します。

自筆証書遺言の書き方

自筆証書遺言の作成で必ず守らなくてはならないのは、①必ず手書きであること・②作成年月日記入と署名捺印を忘れないことの2点です。

レイアウトについては縦書き・横書きのいずれでも構いませんが、記載項目は大まかに次のように分けて詳細に指示します。

【自筆証書遺言の記載項目】

  • 表題(“遺言書”)
  • 遺言者の氏名+遺言する意思を示す一文
  • 遺言内容の指示(箇条書きにすると分かりやすい)
  • 遺言の作成年月日+遺言者の現住所+署名捺印

作成例は後章で紹介しますが、上記以外にも、私的な感謝のメッセージなどを「付言事項」として記入できます。

自筆証書遺言の書き方のポイント・注意点

自筆証書遺言はよく活用される形式ではあるものの「書式ルールを守れていない」「判読不能・指示が読み取れない」等の理由で無効になりやすいものです。

せっかく書いた遺言が無駄にならないよう、記述する際は下記の点に注意しましょう。

  • 財産は明確に指示する: 預貯金は「金融機関名・支店名・口座種類・口座番号」、土地の場合は「所在地・地番・地目・面積」とのように、何を相続させようとしているのか特定できるように記載します。
  • 訂正・変更にもルールがある: 自筆証書遺言の文面を訂正する際は、①書面の該当箇所に二重線を引いて押印し、②必要に応じてその横に訂正内容を書き加え、③欄外で訂正前後の内容を指示して署名します。
  • 丁寧に書く: 基本的なことではありますが、判読できるようにゆっくりと丁寧に楷書体で書くことが大切です。

公正証書遺言の書き方

公正証書遺言は口授(公証人に口頭で伝えて代筆してもらう方法)で作成するため、書き方について考慮する必要はありません。原案作成・証人の人生を含む下記の流れが重要です。

公正証書遺言の作成の流れ

  1. 事前準備として、公正証書遺言原案の作成(公証役場との打ち合わせ)
  2. 証人2名を選ぶ(役場に人選を依頼することも可)
  3. 作成当日は、証人の立会のもと公証人に口頭で原案内容を伝え、作成してもらう
  4. 遺言者・証人・公証人が作成した遺言書に署名捺印
  5. 正本・謄本の交付

なお、作成当日は持ち物として「実印+印鑑証明書」「相続関係が分かる戸籍謄本一式」「受遺者の住民票」「不動産の登記簿謄本+固定資産税納税通知書または証明書」「証人の本人確認書類」「遺言執行者の特定資料」の計6点が必須です。

その他所定の作成手数料(計1万6,000円~)がかかり、相続予定の財産の評価額に応じて増加します。

公正証書作成手数料

目的の価額(相続財産の評価額) 公証人手数料 遺言手数料
100万円以下 5,000円 1万1,000円
100万円超200万円以下 7,000円 1万1,000円
200万円超500万円以下 1万1,000円 1万1,000円
500万円超1000万円以下 1万7,000円 1万1,000円
1000万円超3000万円以下 2万3,000円 1万1,000円
3000万円超5000万円以下 2万9,000円 1万1,000円
5000万円超1億円以下 4万3,000円 1万1,000円
1億円超3億円以下 4万3,000円+超過額5000万円毎に1万3,000円
3億円超10億円以下 9万5,000円+超過額5000万円毎に1万1,000円
10億円超 24万9,000円+超過額5000万円毎に8,000円

その他手数料

  • 原本が4枚を超えるとき…5枚目以降は250円/1枚
  • 正本・謄本の用紙代…250円/1枚

公正証書遺言の作成のポイント

公正証書遺言の作成では、次の3つのポイントで疑問が生じがちです。

それぞれ理解を深めて対応しましょう。

  • 遺言内容について公証役場と相談できるのか: 遺言内容のコンサルタントは公証役場の業務範囲外となります。遺産の配分等に関しては弁護士または司法書士と打ち合わせが必須です。
  • 原案作成は誰に依頼できるのか: 原案作成については、その内容も含めて弁護士または司法書士と相談できます。
  • 証人は誰でもいいのか: 相続の利害関係者や、判断能力が低く自力で法律行為できない人は選べません。具体的には、推定相続人、受贈者とそれぞれの配偶者、直系親族やその婚姻関係者、未成年者、被後見人(認知症患者など)は証人になれません。

秘密証書遺言の書き方

秘密証書遺言書の書き方は、先述の通り自筆証書遺言に準じます。

パソコンやワープロで作成できますが、作成年月日と署名捺印は手書きで挿入しましょう。

秘密証書遺言の作成のポイント

秘密証書遺言の作成では、公証役場での流れが重要です。

秘密証書遺言作成の流れ

  1. 遺言書の本文を作成する(PC・ワープロでの作成可)
  2. できあがったものに署名捺印
  3. 遺言書を本文に使ったものと同じ印鑑で封印
  4. 証人を選ぶ
  5. 公証役場の予約
  6. 当日、証人立会のもと遺言書が入っていることを公証人に伝える
  7. 遺言者・証人・公証人が封筒に必要事項記入と署名捺印を行う

公証役場で手続きする際は、公正証書遺言を作成する場合と同じ必要物があります。

ただし手数料については、相続財産の評価額に関わらず定額1万6,000円でかまいません。

特別方式遺言書の書き方

緊急時に行う特別方式遺言書は、書式こそ自筆証書遺言に準じるものの「遺言書形式に応じた証人の立会」を条件に、内容を口述し証人に代筆させる方法を用います。

ただし、緊急性の低い「隔絶地遺言」の場合は、自筆か口授かは遺言者の任意で選択できます。

特別方式遺言書の作成のポイント

特別方式遺言の作成では、形式、つまり作成する状況毎の「証人の肩書と数」と「作成方法」に留意する必要があります。

 各遺言形式の作成条件

遺言形式 証人の数 作成方法
危急時遺言
(緊急性大)
一般危急時遺言 3人 口授・証人が筆記
難船危急時遺言 2人 口授・証人が筆記
隔絶地遺言
(緊急性中~大)
伝染病隔絶地遺言(一般隔絶地遺言) 警察官1人+その他1人 口授または自筆
船舶隔絶地遺言 船長または事務員1人+その他2人 口授または自筆

遺言書の文例

ここでは、自筆証書遺言もしくは秘密証書遺言の作成を想定し、文例を紹介します。

【例】相続人は妻と長男の計2人。居住用不動産と夫婦の生活費用口座に入っている預金は妻に相続させ、貯蓄用口座にある預金は長男に相続させたい。

 遺言書

遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。

第1条.下記不動産は妻△△(昭和××年×月×日生)に相続させる

(1)土地

所在 東京都世田谷区××丁目××番地×号

地番 ×番×

地目 宅地

地積 500.00㎡ 

(2)家屋

所在 東京都世田谷区××丁目××番地×号

家屋番号 ×番×

種類 居宅

構造 木造瓦葺平屋建

床面積 300㎡

第2条.遺言者〇〇〇〇名義の下記銀行預金は妻〇〇△△に相続させる。

××銀行 ××支店 口座番号1234567

第3条.遺言者〇〇〇〇名義の下記銀行預金は長男〇〇□□(平成××年×月×日生)に相続させる。 

第4条.前期妻〇〇△△が遺言者よりも先又は遺言者と同時に死亡したときは、第1条にかかる土地・建物および第2条にかかる銀行預金を長男〇〇□□が相続するものとする。 

第5条. 葬儀費用及び遺言者が負担する一切の債務は、長男〇〇□□が相続するものとする。

第6条. この遺言の遺言執行者として、長男〇〇□□を指定する。

(付言事項) 

令和×年×月×日 

遺言者の住所 東京都世田谷区××丁目××番地×号

遺言者の氏名 〇〇〇〇

遺言書の注意点とトラブル例

遺言書作成で最も注意したいのは「遺言者のミスが原因で内容が無効になった」「相続人が手を尽くしても発見できなかった」等のトラブルです。

実際にありがちな遺言書が無効になる例として、下記の状況が挙げられます。

遺言書が無効になるケース(1)遺言書の紛失・滅失・未発見

  • 遺言書を保管している貸金庫の情報を一切伝えずに死亡した
  • 遺言書が家具のスキマ等の取り出せない場所に入ってしまった
  • 自宅が火事になり、遺言書ごと焼失した 

遺言書が無効になるケース(2)自筆証書遺言の不備

  • 作成年月日がない
  • 署名捺印がない
  • パソコンやワープロで作成されている
  • 文書ではなく映像音声記録で作成されている
  • 訂正ルールが守られていない

遺言書が無効になるケース(3)改ざんや本人の意志でない可能性

  • (自筆証書遺言または秘密証書遺言の場合)検認前に開封されている
  • 作成年月日の時点で認知症等の診断を受け、判断能力が低下している
  • 共同執筆もしくは一部代筆部分がある

自筆証書遺言の書き方にルールがあり、守られていない書面は無効になる点は先述の通りです。

ここからは、それ以外の保管のトラブルに関して解説します。

遺言の保管場所

遺言書を貸金庫に保管する場合は、少なくとも契約先の金融機関を家族に知らせておきましょう。

自宅保管の場合は「侵入者に狙われにくい場所」を無意識に選びがちですが、相続関係者すら取り出せなくなっては困りものです。

紛失・滅失の恐れがどうしてもぬぐえないのなら、原本が役場で保管される「公正証書遺言」を作成するか、安全な保管方法・場所を選びましょう

安全な保管方法・場所の一例として、自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合は「弁護士または司法書士に預ける」「法務局の遺言書保管所(自筆証書遺言書保管制度の活用)」が挙げられます。

遺言書を書く時期

結論として、遺言書を作成する時期に早すぎるということはありません。

一方で、遅すぎるのは考えものです。

加齢により判断能力が低下すると、回復したと医師に診断されるまで、有効な遺言書を作ることが不可能になるからです。

生前準備の必要があると思い立ったときに作成し、更新を加える形で変化する状況に対応すると良いでしょう。

一度書いた遺言書の撤回や変更

作成した遺言書を撤回または変更したいときは、次のように処理を行います。

  • 撤回: 新しく作成する遺言書で「前回作成の遺言書の全部もしくは一部を撤回する」旨を記載します。
  • 変更: 自筆証書遺言の場合は「自筆証書遺言の書き方」の章の方法で、紙面に直接書き込むことで訂正できます。変更内容が多岐にわたる場合や、公正証書遺言を変更しようとする場合は、無効化を防ぐため一度撤回してから再作成しましょう。

なお、変更や撤回をしないまま遺言書を複数通作成してしまった場合でも、作成年月日の最も新しいものが有効になります。

入院中に遺言書を用意したい

遺言者が入院中であっても、作成は本人が行わなければなりません。

そこで考えられる手段として、下記2つが挙げられます。

  • 病室で「自筆証書遺言」を作成する: ひとりで落ち着いて内容を考えられるのは利点ですが、調べ物がしづらい環境であるため不備が生じやすく、死後になってから「作成当時の健康状態」を理由に内容の信頼性について争われる恐れがあります。
  • 公証人に出張依頼して「公正証書遺言」を作成する: 公正証書遺言の作成手数料に交通費+日当を上乗せすることで、公証人を病室に招けます。ただし、遺言内容について相談できるわけではないため、原案がはっきりとイメージ出来ている状況でないと対応できません。

以上のいずれの方法でも、不備チェックや遺言内容のアドバイスを得るため、やはり弁護士や司法書士の存在が必要です。

事務所により入院先への出張に対応してくれる可能性があるため、家族や本人から相談してみましょう。

夫婦共同で1通の遺言書を作成したい

結論を述べると、たとえ気心しれたパートナーであっても共同遺言は禁止されています(民法第975条)。

どうしても共同で考えた内容を死後の財産処分に反映させたいときは、次の2つの方法が考えられます。

夫婦共同で遺言したいときの方法

  • どちらか一方の遺言書に「死亡時期が前後した場合」の条項を設ける: 配偶者が先に死亡した場合の相続方法を指定したいのであれば、その旨の条項を遺言書内に設け、資産の相続先を変更する旨を記載することで解決する可能性があります。
  • 家族信託を利用する: 相続財産の管理処分権を生前から家族に委ね、生前の給付条件・夫婦それぞれの死亡時の財産処分を「家族信託」で契約しておけば、イメージ通りの相続が叶う可能性があります。

遺言書を子や孫に勝手に開封された

勝手に開封する行為は、遺言書の改ざん・隠ぺい・破棄の疑いを持たれてもやむを得ないものです。

疑いではなく真実であった場合、法律上相続権を失う理由(欠格事由/民法第891条)になり得ます。

事を荒立てるつもりはなくとも、改めて公正証書遺言などの機密性の高い方法で作成し、家族の目につかない場所で保管しましょう。

遺言書を自分で作成するメリット&デメリット

どの家庭にも「財産のことは自分たちで決めたい」という考えがあるのは当然で、遺言書をできるだけ自力で作成したいと願うのは自然なことです。

では、専門家に頼らず自分だけで遺言書を仕上げる場合、どのような点がメリット・デメリットになるのでしょうか。

メリット

自力作成の最大のメリットは、遺言者のペースでいつでも・どこでも作成でき、変更や撤回も必要なときにすぐ実施できる点です。

遺言書の場所ごと秘匿することも可能で、機密性を重視する人にも向いています。

デメリット

一方で、自力での作成には度々触れた「書式不備・保管方法のミス」が生じやすい短所があります。

デメリットはそればかりではありません。そもそも相続分の取り決める際は、遺留分など民法を踏まえた配慮とともに、各種控除(小規模宅地等特例・配偶者の税額軽減など)で税額を最適化できる分割方法を考える必要があります。

独力で遺言を作成しようとすると、上記の民法・税法の各専門分野の観点がない内容になってしまい、かえって相続人に負担をかけてしまう可能性があります。

遺言書を専門家に依頼するメリット&デメリット

遺言書作成は行政書士・司法書士・税理士・弁護士などの専門家に依頼することで、自力で作成した場合に生じる失敗をなくせます。

最後に、各専門家の得意分野を踏まえ、それぞれの長所と短所を紹介します。

行政書士に依頼するメリット&デメリット

行政書士に依頼するメリットは、報酬が比較的安価である点・登録者数が多いため自宅周辺で依頼先を簡単に見つけられる点の2つです。

一方で、行政書士の業務範囲は「書類作成・起案・指導」「各種調査」「遺言執行」の3点と限定的で、遺言内容のアドバイスについては不安があります。

司法書士に依頼するメリット&デメリット

司法書士に依頼する場合、行政書士の業務範囲に加えて遺言内容のアドバイスを得られるのがメリットです。

高い専門性を要する「不動産の分割方法」は、平時は登記業務がメインである司法書士の得意分野でもあります。

一方で、遺留分問題などの相続トラブル回避に関する知識にはやや不安があり、税務に関しては業務分野外です。

該当する悩みを解決したい場合は、他の専門職に依頼する必要があります。

税理士に依頼するメリット&デメリット

税理士に依頼するメリットは、遺言内容のなかでも「節税を意識した遺産分割の方法」と必要性が高く特化した相談ができる点です。

遺言書の内容そのもの以外にも、生前贈与への相続時精算課税の適用など、相続税対策について一括でアドバイスが得られます。

一方で、税理士に対応できるのは「遺言書による相続分の取り決め方」だけであり、肝心の書面作成サポートは得られません

得た提案を遺言に落とし込む方法で悩むときは、他の専門職に相談する必要があります。

弁護士に依頼するメリット&デメリット

弁護士は相続法のプロフェッショナルであり、内容提案から作成代行・指導・不備チェックまで、遺言書作成に必要なことを一括で支援してもらえるのがメリットです。

一方で「節税に関すること」「将来の活用しやすさを意識した不動産の分割方法」は業務上あまり経験がなく、十分なサポートを得られない可能性があります。

前者に関しては税理士、後者に関しては司法書士が良いでしょう。

専門家に依頼した際の費用感

遺言書作成の知識がある専門家(行政書士・司法書士・弁護士)に依頼した場合、費用総額の目安は以下のようになります。

遺言書作成を専門家に依頼した場合の報酬総額(※目安)

  • 行政書士: 約6万円~10万円
  • 司法書士: 約7万円~10万円
  • 弁護士: 約20万円~30万円

(参考)遺言信託した場合: 約90万円~約150万円

報酬は業務範囲の広い専門職ほど高額になるほか、相続財産に不動産等の扱いの難しい高額資産が多い場合には追加報酬がかかる場合があります。

まとめ

遺言書は生前の想いを叶える様々な機能を有する一方で、形式の選択や作成方法は複雑です。

選択されることの多い自筆証書遺言を中心に、紛失・滅失・不備による無効化が多い点も否めません。

肝心の「節税したい」「家族の居住環境を守れる不動産の分割方法を指定したい」といった願いを叶えられる内容にするには、専門知識に基づく的確な判断も必要です

。自力でできるところまで作成したい場合でも、なるべく専門家に原案作成や内容チェックを依頼すると良いでしょう。

執筆者プロフィール
遠藤秋乃
大学卒業後、メガバンクの融資部門での勤務2年を経て不動産会社へ転職。転職後、2015年に司法書士資格・2016年に行政書士資格を取得。知識を活かして相続準備に悩む顧客の相談に200件以上対応し、2017年に退社後フリーライターへ転身。

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