近年増加傾向にある「家族葬」。家族や親族中心の葬儀の名称です。
ここでは、家族葬のメリットやデメリット、費用感、当日の流れを専門家が解説します。
目次
家族葬とは
家族葬とは、家族や親族を中心に執り行う小規模葬儀の総称です。
家族葬そのものにはっきりとした定義があるわけではありません。
直系の家族(子や孫)だけで行う家族葬の場合、参列者が10人未満ということも少なくありませんし、傍系の親族(故人や遺族の兄弟姉妹などから広がる親戚全般)を広く招いて50人近くもの人が集まる家族葬もあります。
また、家族葬だからと言って、それ以外の人が参列してはならないわけでもありません。
家族や親族ではないものの、これからも付き合いの続く近所の人や、故人と生前親交の深かった人には参列してもらうなど、どこまでの人に声をかけるかべきは喪主や遺族の方針次第です。
家族葬の流れ
まずは、ご逝去から葬儀終了までをの流れを解説します。
家族葬は、あくまでもどこまでの範囲の人に声をかけたらよいかという、いわば「葬儀の規模」を指すものです。
家族葬だからと言って、特別に葬儀全体の流れが変わるわけではありません。
逝去
ご臨終を迎えると、速やかにお迎えの手配をします。あらかじめ、葬儀社を決めておくと安心です。
また、医師から死亡診断書(または死体検案書)が手渡されます。これは、遺体の搬送や死亡届の提出のために必要な書類です。
安置
安置の場所は自宅、あるいは葬儀社や火葬場などの安置施設のいずれかが選ばれます。
家族葬を希望する人の中には、近隣の人たちに知られたくないという人もいます。その場合は安置施設を利用しましょう。
打ち合わせ・葬儀の準備
葬儀社と打ち合わせを行い、葬儀の準備を進めていきます。日程と場所、寺院の手配、葬儀プランの決定、流れの確認など、もろもろのことを決めていきます。
訃報・連絡
葬儀日程と場所が決まると、参列を希望する人に速やかに連絡をしましょう。
また、会社や学校など、忌引き申請をしなければならない相手に対しては、家族葬で行うために参列を辞退する旨をきちんと伝えます。
納棺
通夜に先立ち、納棺を執り行います。ごく親しい家族や親族が集まり、故人の身体を清め、棺に納めます。場合によっては葬儀社に納棺を一任することもあります。
通夜
通夜は故人と過ごす最後の夜です。通夜式では寺院に読経してもらい、その後の通夜ぶるまいでは故人を偲びながら、参列者が飲食します。
故人と最後の夜をともに過ごしたい人は式場に宿泊します。場所によっては人数制限や、宿泊そのものができないところもあるので、事前に葬儀社に確認しておきましょう。
葬儀・告別式
出棺に先立ち、葬儀と告別式を執り行います。家族葬であっても、流れは特に構いません。
宗教儀礼としての葬儀では、寺院によって引導が渡され、仏弟子になった証として戒名を授かります(宗派によって異なります)。
その後の告別式では、家族や親族が故人と最期のお別れをし、火葬場への出棺を迎えます。
火葬
家族や親族は火葬場に同行し、故人の最期を見届けます。地域によっては、先に火葬をして葬儀を執り行うところもあります。
初七日法要・精進落とし
初七日法要とは、本来は死後7日目に行う法要のことですが、最近では親族が集まっている葬儀当日に行うのが慣例です。
その後、精進落としと呼ばれる会食をして故人を偲び、参列者をねぎらいます。
家族葬と密葬の違い
家族葬によく似た言葉に密葬があります。密葬は、その後に本葬やお別れ会の開催を前提としている点で、家族葬とは異なります。
密葬を行うケースとして、著名人や企業の社長など葬儀があります。
こうした社会的影響力の人の葬儀では、多くの参列者が見込まれ、訃報をきちんと行き届くようにし、受け入れの準備にも時間がかかります。
そのためまずは家族や親族だけで密葬を行い、1カ月や四十九日などを目安に、本葬やお別れ会など、対外的なお別れの場を設けるのです。
家族葬が行われている割合
家族葬は近年増加傾向
公正取引委員会が平成29年3月22日に発表した「葬儀の取引に関する実態調査報告書 」によると、一般葬や家族葬など、さまざまな葬儀スタイルの中で、家族葬が占める割合は28.4%でした。一般葬の63.0%に比べるとまだまだ少数のように思えます。
しかし、直近の5年間でもっとも増加傾向にある葬儀の種類の筆頭として家族葬が挙げられており(業者への調査で、1084件の回答数の中で51.1%が「家族葬」と回答)、今後家族葬はますます増えていくものと思われます。
また、一都三県を中心に葬儀の施行を請け負う葬儀社アーバンフューネスが運営するサイト「エンディングデータバンク」によると、2017年の家族葬の割合は全体の59.1%に及んでおり、2010年から2017年までの8年間の統計では62.8%です(「エンディングデータバンク 葬儀スタイル(規模)の割合」より)。
都市部ほど家族葬が多いことを示しているのではないでしょうか。
家族葬が増えている理由として、核家族化による地縁や血縁とのつながりの希薄化、高齢化社会による参列者の高齢化、宗教観の変化などがあげられます。
家族葬に向いているケースとは
それでは、どのようなケースが家族葬に向いているのでしょうか。
親戚づきあいや周囲とのつながりが少ない
もともと親戚づきあいや周囲とのつながりが少ない世帯では、家族やごく近しい身内だけで葬儀行う傾向にあります。
声をかける相手も高齢であることが多い
高齢者の葬儀では、声をかける相手も高齢になりがちで、すでにお亡くなりの場合や、参列が困難な状況であることも少なくありません。
声をかけることが逆に相手に迷惑をかけてしまうことにもなるとの配慮から、家族葬が選ばれています。
故人との最期の時間をゆっくりと過ごしたい
参列者を招くとその対応に追われて、慌ただしい思いをしてしまいます。故人との最期をゆっくりと過ごすために家族葬が選ばれています。
家族葬のバリエーション
家族やごく近しい身内だけで行う家族葬。だからこそ、慣習や周りの目を気にせず自分たちらしい葬儀にする人が増えています。
故人らしく、家族の思いの詰まったさまざまなスタイルの一例をご紹介します。
参列者が少ないから、通夜を省略する「一日葬」
家族葬とともに選ばれているのが、通夜を省略する一日葬で、いわば家族葬をさらに簡略化した葬儀スタイルです。
家族葬ではそもそも家族や親族だけで行うので、対外的な参列の場とされていた通夜そのものの必要性が薄れてきて、一日葬が選ばれるようになったのです。
僧侶を呼ばずに自分たちでプロデュースする「無宗教葬」
葬儀には供養の専門家である僧侶の読経がつきものですが、宗教観の多様化により、僧侶のいない無宗教葬を行うケースも見られます。
故人へのお手紙が読まれ、焼香の代わりに献花が行われます。
その他、スライドショーの上映や棺を囲む食事会など、葬儀の内容を自由に作り上げることができます。
故人への弔意を音楽に乗せて奏でる「音楽葬」
葬儀の中で故人の好きだった音楽を流して、生前を偲びます。
BGMとして式場内に流すだけでなく、音楽家を招いて生演奏をしてもらうことも可能です。
家族葬の費用について
家族葬の費用相場は100万円~130万円程度です(東京都を中心にエリア展開している葬儀社5社の掲載情報を参考にして算出)。
なお、一般葬の費用相場は150万円~200万円程度。同じく都内の葬儀社がインターネットで公開している費用の実例をもとにしています。
ただし、どの葬儀社も宗教者への謝礼には触れていません。
実際の負担額は、ここにあげた金額に20万円~50万円程度を加算した金額が想定されます。
家族葬の注意点
家族葬もだいぶ社会に普及し、いまでは葬儀のスタンダードになりつつあると言っても過言ではないでしょう。
とはいえ、参列者を制限する家族葬だからこその注意点があります。家族葬を執り行う際は次の点に気を付けましょう。
何親等まで呼べばよい?
親戚の人をどこまで呼ぶべきかの決まりはありません。呼ぼうかどうかと迷われる方はお呼びしておいた方がよいでしょう。
事後報告にしてしまったことで苦言を受けてしまった
相手によっては事後報告にしてしまったことで苦言を受けることもあります。
大切な親族や関係者には、なぜ家族葬にするのか、どのような想いや事情があるのか、事前にお伝えてしておくのが望ましいでしょう。
家族以外から参列したいという申し出があった場合
家族葬の方針を伝えたうえで、参列したいと申し出があった場合、かたくなに固辞する、あるいは希望する方は受け入れるなど、このあたりは家族の考え方によって対応が異なります。
大切なのは家族間でどのように対応するべきかは統一しておくことです。
香典が少ない
参列者が少ない家族葬では、必然的に香典収入が減少します。
結果的に費用が高くつくこともありうるので、経済的な理由だけで家族葬を考えている人は、一度葬儀社に相談してみましょう。
家族葬のメリットとデメリット
先の章でまとめた家族葬の注意点を踏まえて、それぞれ次のようなメリットとデメリットが挙げられます。
家族葬のメリット1: 参列者のおもてなしが不要で、ゆっくりと故人との最後の時間を過ごせる
家族葬では参列者への対応に追われることがないため、故人との最後の時間をゆっくりと過ごせます。
家族葬のメリット2: 予算計画が立てやすい
葬儀費用は、参列者の人数によって大きく増減します。家族葬の場合は参列者数をあらかじめ推測できるため、予算計画が立てやすいでしょう。
家族葬のデメリットその1: 葬儀後の弔問の対応に追われる
通夜や葬儀への参列を制限してしまうため、葬儀後に自宅に弔問にやってくる人への対応に追われます。
家族葬のデメリットその2: 苦言を呈され、トラブルに発展することも
故人のことを大切に思っている人ほど、きちんと見送りたいと思うものです。
葬儀に参列できなかったことで、苦言を呈されたり、ひどい時にはトラブルに発展することもあるかもしれません。
家族葬のデメリットその3: 費用負担がかかることもある
香典収入がないため、喪主が負担する費用が余計にかかることもあります。
家族葬を行う葬儀社の選び方
家族葬を行うには、複数の葬儀社に相談して比較検討することをおすすめします。
お住いの地域の葬儀社の中にも、昔ながらの老舗の葬儀社や、冠婚葬祭互助会、家族葬専門とする葬儀社もあります。
こうした複数の葬儀社から相見積もりをとり、費用だけでなく、葬儀社そのものを、自分の目と肌で見極めることが大切です。
最近ではインターネットで葬儀の受付をしてくれるサービスも広く普及していますが、結局あなたの元にやってくるのは地元の葬儀社です。
もしも余裕があれば、インターネットは情報収集程度に活用し、自身の足で葬儀社や会館に出向く方が、よりよい家族葬の実現につながります。
家族葬が行える斎場・葬儀場について
家族葬は葬儀の規模を示すものなので、どの斎場、葬儀場でも実施可能です。
ただし、参列者数にあった広さというものがあります。詳しくは地域の葬儀社に相談してみましょう。
家族葬のマナー
家族葬だからといって、特別なマナーはありません。通常の葬儀と同じようなマナーを心がけましょう。
家族葬での遺族側マナー
遺族は正喪服か準喪服を着用します。
ただし、家族だけのこじんまりとした葬儀であることが多いため、正喪服(和装やモーニング)を着用するケースは極めて稀です。
家族葬への参列側マナー
参列者側のマナーも通常の葬儀の時と変わりません。準喪服を着用し、葬儀にふさわしい身だしなみやマナーに気をつけましょう。
参列者は香典を持参することになりますが、こちらも家族葬だからといって特別な相場の違いはありません。
通常の葬儀の相場と同等の金額を包めば良いでしょう。
ただし、家族葬では参列者は基本的には家族や親戚に限られます。
世間的な相場を参考にしながらも、喪主や故人との関係性と照らし合わせながら金額を決めることになるでしょう。
まとめ
今後高齢化がますます進み、介護や医療の金銭的負担が大きくなっていく中で、さまざまな面で遺族の負担が軽減できる家族葬は葬儀スタイルのスタンダードとなっていくでしょう。
しかし、お葬式は亡き人と遺された人との最後の時間であるため、参列者を制限する家族葬では気をつけなければならない点も多々あります。
なによりも故人様にとって、そして自分たちにとって、さらには故人や自分たちとつながりのある人たちが納得できる形でお送りしたいものですね。
玉川将人
1981年山口県生まれ。家族のたて続けの死をきっかけに、生涯を「弔い」に捧げる。葬儀社、仏壇店、墓石店に勤務して15年。会社員勤務の傍らでライターとして、死生、寺院、供養、終末医療などについて多数執筆。1級葬祭ディレクター、2級お墓ディレクター、2級グリーフケアカウンセラー。