身内に不幸が起きてからの1週間。遺族がしなければならないことは実に多岐にわたります。
ここでは、身内に不幸が起きてから1週間に、葬儀、法要、役所への手続きをどのように進めていけばよいかを解説します。
この記事が、「よき葬儀」「よき供養」の一助になれば、幸いです。
身内が亡くなってからの1週間はあっという間
大切な身内だからこそ、納得いく形で葬儀をして送り出したいとは誰もが思うもの。
しかし、何が何だかわからない間に終わってしまっているということもしばしばです。筆者は葬儀社時代には5年間で約500件の葬儀の担当をしてきました。
また、その後は仏壇墓石店に勤務することで、たくさんの供養の現場に寄り添ってきました。
その経験から断言できることは、「全体の流れを把握しておく方が、納得の葬儀や供養ができる」ということです。
遺された家族が、故人亡き明日からの日常を力強く生きていくためにも、これからどのように葬儀が進んでいくのか、どのように供養をすればよいのか、どんな手続きや手配をしなければならないかを把握しておくことは、とても大切なことです。
しかし、そういった手続きや手配は葬儀社といった専門家に力を借りながら進めることになるので1つひとつ詳細に覚える必要はありません。
しかし、おおまかな流れを知っておくことで、心の負担は軽減されるはずです。
ここからは、危篤や臨終段階から死後の役所手続きまでの流れを説明していきます。
危篤、臨終、遺体安置までの流れ
危篤、臨終を告げられた時
医師から危篤を告げられたら速やかに病院に駆けつけます。
もしも最後を看取って欲しい人がいれば速やかに連絡しましょう。そのためにも、事前に連絡者リストがあれば安心です。
医師から臨終を告げられると、遺体搬送の手配をしなければなりません。あらかじめ葬儀社を決めておくとスムーズです。荷物などをまとめて、病院への支払い方法を確認します。
また、医師から死亡診断書を受け取ります。遺体搬送や死亡届に用いる書類なので、代表者が大切に携行しましょう。
遺体安置
遺体の搬送先は主に自宅か葬儀社などが保有する安置施設のいずれかです。どこに搬送してほしいかを葬儀社に伝えます。
- 遺体のエンゼルケア:遺体を搬送する前に、看護師によるエンゼルケアが行われます。「末期の水」(まつごのみず)は故人の唇を水で湿らせる大切なお別れの儀式です。その後、看護師が故人の体をきれいに清め(清拭: せいしき)、綿詰めをし、爪や髪の毛を整える身つくろいなどをして、仏衣を着せます(これらは安置後に葬儀社が行うこともあります)。
- 自宅安置の場合: 故人を自宅に安置する場合は、最低でも畳2枚分の広さが必要です。遺体を寝かせる布団を用意して、その手前に「枕飾り」(まくらかざり)と呼ばれる祭壇を設置するからです。遺体にはドライアイスが当てられます。
- 安置施設を利用する場合: 自宅への安置を希望しないのであれば、安置施設を利用します。ただし、遺族のお参りは可能ですが、面会時間や方法など、施設によって条件が異なるため、事前に確認しておきましょう。
葬儀の打ち合わせ
葬儀社の手配・葬儀日程と場所の決定
葬儀社を手配して葬儀日程を決めます。
多くの場合は遺体搬送した葬儀社がそのまま葬儀の施行も請け負いますが、遺体搬送を済ませたあとに改めて葬儀社を選定しても構いません。
葬儀社との打ち合わせの際、まず決めることは葬儀日程と場所です。これが決まらないことには、葬儀の連絡も、細かい内容も決められないからです。
葬儀日程は、家族の希望に加えて、会館や火葬場の空き、寺院の都合などを調整しながら決めていきます。
訃報、近親者への連絡
葬儀日程と場所が決まったら、近親者や関係者に訃報を流します。故人が亡くなったことと合わせて、日程や場所を伝えます。
家族葬を希望する場合は、あえて訃報を流さずに事後報告にすることもあります。
宗派の確認と寺院の手配
自分たちがどの宗派なのか、菩提寺がどこのお寺なのかを葬儀社に伝えます。
菩提寺がある場合は日程と場所を伝えて葬儀の依頼をします。お寺との付き合いがないのであれば、葬儀社に紹介してもらえます。
見積もり・契約・葬儀費用の準備
葬儀社が用意するセットプランの中から自分たちにあったものを選び、見積もりしてもらいます。
セットプラン以外にも用意しなければならない項目があるので、それらも含めた総費用を計算してもらいましょう。内容に合意をすれば正式に契約を交わします。
葬儀費用の平均相場は195万円と言われていますが(日本消費者協会『第11回葬儀に関するアンケート調査報告書』)、家族葬が主流の昨今、実際には100万円~150万円くらいではないかと言われています。
こうしたまとまったお金をすぐに用意するのはとても大変なことです。
そのためにも、冠婚葬祭互助会などの積立制度や、葬儀専用の保険などがあり、これらを活用するのも1つの方法でしょう。
死亡届・火葬許可証の手続き
病院から手渡された死亡診断書は役所に死亡届として提出し、火葬許可証が発行されます。こうした行政手続きは多くの場合で葬儀社が代行してくれます。
通夜式と葬儀式の打ち合わせ
通夜式と葬儀式をどのように進めていくか、詳細を詰めます。主に次のような事柄を決めていきます。
- 喪主の決定: 葬儀後に故人の供養を主体的に執りおこなう人が喪主を務めます。通常は配偶者か子のいずれかです。
- 遺影写真: 遺影写真は祭壇中央に飾り、葬儀後もずっと家の中に残るものなので、故人らしい明るい表情のものを選ぶことをおすすめします。プリントされたもの、画像データのどちらを提出しても構いませんが、引き伸ばしやトリミングなどの加工を行うため、ピントの合ったものが望ましいでしょう。
- 料理や返礼品の内容や個数等の決定: 参列者へのおもてなしとして、料理や返礼品を用意します。料理は、通夜の時は、寿司や煮物などの大皿料理、葬儀の時は1人ひとりに会席を並べるのが慣例です。返礼品は会葬の御礼として粗品(ハンカチやお茶)に礼状を添えて配ります。最近では香典返しを葬儀当日に配る方法も選ばれています。
- 役割分担の決定(受付、駐車場係など): 受付や駐車場などで参列者を迎えるための人員を決めます。親族だけで足りない場合は、友人や知人や近所の人たちなどにお手伝いを依頼します。
- あいさつ: 喪主が挨拶をする場面がいくつかあります。タイミングを確認し、文面を考えます。
- 供花や供物について: 祭壇脇に飾る供花や供物の対応をとり決めしておきます。最近は花祭壇が多いため、調和を崩さないよう花の種類や価格を統一するケースもしばしば見られます。
通夜・葬儀当日の流れ
通夜は、葬儀前日の夕刻に行われる儀式。そして葬儀は故人を送り出す正式な儀式で、その後に出棺と火葬を控えます。
納棺
納棺とは、故人を棺の中に納める儀式です。近親者が揃って通夜当日に行うケースが多いのですが、前日に行うことや、納棺そのものを葬儀社に一任することもあります。
納棺では、湯灌(ゆかん: 遺体を清めること)をして、旅支度とよばれる白装束を着せてから棺の中に遺体を納めます。
通夜式
通夜式では、僧侶の読経と参列者の焼香を中心に故人を弔います。
夕刻に行われることから、日中の仕事を終えた人たちが参列しやすく、一般会葬者のお別れの場としての役割があります。
そのため、もともと家族葬を選択して外部からの参列を望まない人たちの中では、通夜式を省略する「1日葬」を選ぶ人もいます。
通夜ぶるまい
通夜式を終えたあとは通夜ぶるまいの席で飲食しながら故人を偲びます。通夜ぶるまいのもてなしは地域や家族の意向によって異なります。
親族だけとする関西地方や、親族だけでなく一般参列者ももてなす関東地方、小規模の葬儀では通夜ぶるまいそのものをしないケースもあります。
宿泊
通夜とは「夜を通す」と書くほどで、本来は夜通し遺体に寄り添うことを意味しました。
通夜式を会館で実施する場合、遺族は会館に宿泊したり帰宅したりするケースもあれば、宿泊を認めない会館もあります。
葬儀・告別式
葬儀、寺院の宗教儀礼を中心に行われる「葬儀式」と、参列者が故人と最後のお別れをする「告別式」に分けられます。
前者は寺院の読経と参列者の焼香を行い、後者では棺の中にお花を入れて故人を送り出します。
寺院からすると、葬儀式は通夜式よりも重要度が増します。
宗教儀礼として欠かせない「引導」(いんどう: 死者に死の事実を伝え、あの世へと送り出す)と「授戒」(じゅかい: 仏弟子としての戒を授ける)を執り行うからです。
また、通夜とは異なり、弔辞や弔電の拝読、さらには参列者に向けて喪主が挨拶をします。
出棺・火葬
葬儀を終えると火葬場へ向けて出棺です。親族は、霊柩車、マイクロバス、自家用車などに分乗して火葬場まで立ち会い、参列者は出棺を見送って帰宅します。
火葬場では最後のお別れをし、火葬炉の前で焼香をします。
拾骨まではおよそ1時間の待ち時間があり、地域によって、火葬場で待機、火葬場で昼食をとる、一旦帰宅するなど、さまざまな方法がとられます。
初七日法要・精進落とし
火葬を終えた遺骨を持ち帰って初七日法要を執り行います。本来は死後7日目に行いますが、親族が集まっている葬儀当日に執りおこなうのが慣例です。
遺骨を前にして行うため、宗派によっては「還骨法要」とも呼びます。
また、時間の省略のため、葬儀式の中で初七日法要の読経を読み上げることもあります。
初七日法要のあとは「精進落とし」と呼ばれる会食の席を設け、故人を偲びます。
帰宅
自宅に帰ると遺骨を飾る「後飾り祭壇」を設置します。以降四十九日法要までこの祭壇で故人に手を合わせます。
葬儀後・法要の手配
葬儀社への支払い
飲食代や返礼品などの数量変動項目の数が確定したら請求書が届けられるので、指定の方法で支払いましょう。
現金払い、口座振り込みのほか、最近ではクレジットカード払いやキャッシュレス決済に対応する葬儀社もあります。
四十九日法要の手配
四十九日法要は、故人が祖先となり、家族の忌があけるとても大切な法要です。
寺院と相談しながら、日程や場所を決めます。場所は、自宅、寺院の本堂、葬儀会館などから選びます。
法要当日の供花、供物、塔婆、料理、引き物なども必要に応じて手配します。
香典返しの手配
通夜と葬儀でいただいた香典に対して香典返しの品物を贈ります。
お茶や菓子やタオルなどの品物にお礼状を添えます。厚志への御礼だけでなく、四十九日法要を無事に済ませたことの報告も合わせて行います。
仏壇や位牌の用意
故人は四十九日法要で祖霊となると考えられているため、それまでに仏壇や位牌を用意します。
お墓の手配(文字彫刻・承継の手続き)
四十九日法要に合わせて納骨を行うのであれば、故人の戒名などを墓石に彫刻しなければなりませんので、石材店を手配しましょう。
また、墓地の名義人が亡くなった場合は承継手続きもしなければなりません。墓地の管理事務所に相談しましょう。
役所の手続き
葬儀後の役所の手続きは実に多岐にわたります。
1週間以内にしなければならないものはありませんが、最短で14日以内の手続きが求められるものもあります。
まずはどの窓口に何をしなければならないかを、ざっくり把握しておきましょう。主なものを以下に列挙します。
死後1カ月以内にしなければならない手続き
- 世帯主の変更届(死亡後14日以内)
- 年金受給停止の手続き(厚生年金は死亡後10日以内、国民年金は14日以内)
- 介護保険資格喪失届(死亡後14日以内)
- 雇用保険受給資格者証の返還(死亡後1カ月以内)※故人が死亡時に雇用保険を受給していた場合のみ
相続や納税に関する手続き
- 遺言証の検認(なるべき早く)※公正証書遺言の場合は不要
- 相続の放棄(死亡後3カ月以内)
- 相続税の申告・納税(死亡した日の翌日から10カ月以内)
- 所得税の準確定申告・納税(死亡後4カ月以内)※源泉徴収をしている会社員などは不要
補助金や給付金などの請求手続き
- 国民年金の死亡一時金請求(死亡後2年以内)
- 国民健康保険加入者の葬祭費請求(葬儀をした日から2年以内)
- 厚生年金加入者の埋葬料請求(死亡後2年以内)
- 共済年金加入者の埋葬料請求(死亡後2年以内)
- 労災保険の埋葬料請求(葬儀をした日から2年以内)※業務上の死亡の場合のみ
- 高額医療費の払い戻し請求(対象の医療費の支払いから2年以内)
- 生命保険金請求(死亡後2年以内)
遺族年金などを受給手続き
- 国民年金の遺族基礎年金請求(死亡後5年以内)
- 国民年金の寡婦年金請求(死亡日から2年以内)
- 厚生年金の遺族厚生年金請求(死亡後5年以内)
- 労災保険の遺族補償給付請求(死亡後5年以内)
いかがでしたでしょうか。ここでお伝えしたのは、身内に不幸が起きてから1週間以内にすべきことのおおまかな流れです。
まずは自分たちが何をどのようにしなければならないのかを把握しておくことで、業者の言いなりにならず、主体的に故人を送り出すことができるのです。
時間に余裕のある人は、葬儀社を複数見て回りながら、事前相談してみることをおすすめします。よい業者に出あえるかもしれませんし、何よりも葬儀の勉強になります。
知っておくことが、いざという時の安心感につながります。
玉川将人
1981年山口県生まれ。家族のたて続けの死をきっかけに、生涯を「弔い」に捧げる。葬儀社、仏壇店、墓石店に勤務して15年。会社員勤務の傍らでライターとして、死生、寺院、供養、終末医療などについて多数執筆。1級葬祭ディレクター、2級お墓ディレクター、2級グリーフケアカウンセラー。