相続手続きは期限が定められているものが多く、やるべきことを時系列で把握しておくことが大切です。この記事では「遺産相続の期限」について、いつまでに何をすべきか、全体の流れと手続きごとの期限を一覧で解説します。やるべきことを時系列のチェックリストで整理し、手続き全体を解説します。
目次
1.相続で重要な期限と期限の数え方
遺産相続の手続きは多岐にわたりますが、まずは全体の流れと、特に守るべき重要な3つの期限を把握することが大切です。最初に知っておくべき基本のポイントを解説し、手続きをスムーズに進めるための第一歩を示します。
1-1.遺産相続は全体の流れと特に重要な期限の把握を
相続することになって何から手をつければ良いか分からない、という不安を解消するために、まずは相続手続きの全体像を掴みましょう。
特に重要となる「3ヶ月」「4ヶ月」「10ヶ月」という期限を知ることで、計画的に手続きを進めることができ、不利益を避けることに繋がります。全体像を把握すれば、今やるべきことが明確になります。
1-2.手続きの期限は「相続を知った日」の翌日から数え始める
相続手続きの期限を計算する上で、起算日(数え始める日)を知ることは非常に重要です。
法律上、多くの期限は原則として「自己のために相続の開始があったことを知った日(通常は、被相続人が亡くなったことを知った日)」の翌日からカウントが始まります。
例えば、家族が2月10日に亡くなり、その日に亡くなったことを知った場合には、2月11日が1日目になります。この基本ルールを覚えておきましょう。
2.遺産相続で注意すべき「3ヶ月」「4ヶ月」「10ヶ月」
数ある相続手続きの中でも、期限を過ぎると大きな不利益が生じる可能性のある、特に重要な3つの手続きを紹介します。
ご自身の状況に当てはまるかを確認し、最優先で対応が必要なことを把握しましょう。
2-1.【3ヶ月以内】相続放棄の期限 財産より借金が多い場合に検討
故人に借金などのマイナスの財産が多い場合、相続しないことを選択できます。そのための手続きが「相続放棄」です。
また、プラスの財産の範囲内でのみ借金を返済する「限定承認」という方法もあります。
これらの手続きは、自分が相続人であると知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で行う必要があります。
財産調査に時間がかかりそうなら、この期限を特に意識して行動しましょう。期限を過ぎると、原則として相続放棄ができなくなる恐れがあります。
【ポイント】連帯保証や消費者金融などにも注意を
特に兄弟姉妹の相続やその代襲相続などで故人と疎遠だった場合や、故人が事業を営んでいた場合には、金融機関からの借入金のチェックは当然のこと、連帯保証人となっていないか、消費者金融、カード会社、個人的な借入金などにも注意しましょう。
2-2.【4ヶ月以内】準確定申告|故人の所得税を申告・納税する期限
故人が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得について、所得税の申告と納税が必要な場合があります。これを「準確定申告」といいます。

例えば、故人が個人事業主だったり、不動産賃貸による収入が年間20万円を超えていたりした場合に必要となります。
この手続きの期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内です。相続人全員で協力して、故人の最後の納税を済ませる必要があります。
2-3.【10ヶ月以内】相続税を申告・納税する期限
遺産の総額が一定の金額(基礎控除額)を超える場合に必要となるのが、相続税の申告・納税です。
相続税がかかるかどうかは、遺産の総額と法定相続人の数によって決まります。
基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
この計算式で算出した金額を遺産総額が上回る場合、原則として相続税の申告が必要です。
期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内。遺産分割協議や財産の評価など、時間がかかる作業が多いため、早めに準備を始めることが重要です。
【ポイント】「遺産の総額」を計算するのは難しい
相続税計算上の「遺産の総額」の算定については、すべての財産について相続税法や通達で定められた方法により評価することとなります。
これにはかなりの専門性が必要で、特に土地や非上場株式の評価は複雑になることも多く、対応する税理士によって評価額に開きがあることも……。
地積規模の大きな宅地の評価や小規模宅地等の特例など、補正や特例適用の有無によって大きく税額が変わるものもあるため注意が必要です。
3.【時系列】葬儀後から始める遺産相続手続きの流れ
葬儀後から始まる相続手続きについて、やるべきことを時系列に沿ってまとめました。
各ステップで何をするべきかが一目でわかり、手続きの進捗管理に役立ちます。

3-1.ステップ1:相続の方向性を決める期間(〜3ヶ月)
相続手続きの初期段階では、今後の方向性を決めるための重要な調査を行います。
誰が相続人となり、どのような財産があるのかを正確に把握し、相続放棄などを検討するまでの流れを解説します。
3-1-1.遺言書の有無を確認する
遺産分割は、故人の遺志を記した遺言書の有無によって進め方が大きく変わります。まずは遺言書が残されていないか探しましょう。
探し方の例
● 自宅の金庫、仏壇、机の引き出し
● 貸金庫
● 公証役場(公正証書遺言の場合)
● 法務局(自筆証書遺言保管制度を利用している場合)
注意点 自筆の遺言書を見つけた場合、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要です。勝手に開封しないようにしましょう。
3-1-2.相続人を確定させる(戸籍謄本などの収集)
誰が法的な相続人となるのかを確定させることは、相続手続きの基本です。
そのために、故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)などを集める必要があります。
● 収集するもの
・故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
・相続人全員の現在の戸籍謄本
● 収集先
・これまでは故人の本籍地ごとに市区町村役場へ請求する必要がありましたが、戸籍の広域交付制度により、最寄りの市区町村役場の窓口でまとめて請求できるようになりました。
● ポイント
・戸籍を遡ることで、現在の家族も知らない相続人(例:前妻の子など)が判明することがあります。この相続人確定作業は、相続手続きにおいて非常に重要です。
戸籍の広域交付制度については、以下の記事を参考にしてください。
戸籍の広域交付とは 相続手続きでの使い方、請求方法と注意点を5つのステップで解説
【ポイント】想定外の相続人が判明したら……
想定外の相続人が判明した場合、その相続人にも状況を連絡して遺産分割協議に参加していただく必要があります。
税理士のみで対応することは困難なことが多く、司法書士や行政書士、紛争になりそうであれば弁護士といった、相続周辺の専門家と緊密に連携して対応しております。
不測の事態に備えて、当初からそういった連携体制が整ったチームへ相談することが円満な相続の秘訣といえます。
3-1-3.相続財産を調査する(預貯金・不動産・借金など)
どのような遺産があるかを全て洗い出す財産調査を行います。
預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、ローンなどのマイナスの財産も正確に把握することが重要です。
調査対象の例
● プラスの財産: 預貯金、不動産(土地・建物)、有価証券(株・投資信託)、生命保険金、自動車など
● マイナスの財産: 借金、ローン、未払いの税金や医療費、保証債務など
調査方法: 郵便物、通帳、権利証、金融機関への残高証明書請求、信用情報機関への開示請求など。

3-1-4.相続放棄または限定承認を家庭裁判所に申述する
財産調査の結果、借金が多いなど相続したくない事情がある場合は、3ヶ月以内に家庭裁判所へ「相続放棄」または「限定承認」の申述を検討します。この判断は、相続人確定と財産調査が完了していることが前提となります。
相続放棄はすべての財産を相続しないことです。一方、限定承認はプラスの財産を限度にマイナスの財産も引き継ぐ制度です。また、一般的に「相続する」と決めた場合は、すべての財産を相続する「単純承認」をしたことになります。

3-2.ステップ2:遺産分割と税申告の期間(〜10ヶ月)
相続人と財産が確定した後、遺産を具体的にどう分けるかを決め、税金の申告を行う期間です。相続手続きの中でも中心となる、遺産分割協議から相続税申告までの流れを解説します。
3-2-1.故人の所得税を申告・納税する(準確定申告)
故人に事業所得や不動産所得があった場合など、4ヶ月以内に準確定申告が必要です。
相続人が共同で、故人の最後の確定申告を行います。申告が必要かどうかは、故人の生前の収入状況によりますので、源泉徴収票や確定申告書の控えなどを確認しましょう。
3-2-2.遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する
相続人全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行います。ここで揉めてしまうと、後の手続きが一切進まなくなります。
全員が納得できるまで話し合い、合意した内容は法的な書面である「遺産分割協議書」として残します。
遺産分割協議書は不動産の名義変更や預貯金の解約など、後の手続きで必ず必要になる重要な書類です。
作成のポイント
● 相続人全員が署名し、実印を押印する。
● 印鑑証明書を添付する。
● 誰がどの財産をどれだけ取得するのか、具体的に明記する。
3-2-3.相続税を申告・納税する
遺産の総額が基礎控除額を超える場合、10ヶ月以内に税務署へ相続税の申告と納税が必要です。
相続税の計算は非常に複雑で、財産の評価方法によって納税額が大きく変わることもあります。申告書の作成から納税まで、計画的に進める必要があります。
3-3.ステップ3:各種名義変更などの手続き(1年~3年以内)
遺産分割や税申告が終わった後にも、不動産や預貯金などの名義を相続人に変更する手続きが必要です。
それぞれの手続きで期限が異なるため、忘れずに対応しましょう。
3-3-1.【1年以内】遺留分侵害額請求|最低限の遺産を請求する権利
遺言などによって自分の取り分が法律で保障された最低限の割合(遺留分)より少なかった場合に、その不足分を金銭で請求できる権利です。
この権利は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しないと時効で消滅します。
3-3-2.【2年以内】葬祭費・埋葬料の請求|健康保険などから給付金
故人が加入していた健康保険や共済組合から、葬儀費用の一部として給付金を受け取れる場合があります。
故人が国民健康保険に加入していた場合は「葬祭費」、会社の健康保険に加入していた場合は「埋葬料(費)」と呼ばれます。申請期限は葬儀を行った日の翌日から2年です。
3-3-3.【3年以内】相続登記|不動産の名義変更(2024年4月義務化)
不動産を相続した場合、法務局で名義変更の手続き(相続登記)が必要です。
2024年4月1日からこの手続きが義務化され、相続により不動産の取得を知った日から3年以内に行う必要があります。正当な理由なく怠るとペナルティの対象となるため注意が必要です。
3-3-4. 【期限なし※ただしお早めに】預貯金や株式などの名義変更・解約
故人名義の預貯金の解約や株式の名義変更には、法律上の明確な期限はありません。
しかし、放置すると金融機関での手続きが煩雑になったり、相続人が亡くなってさらに相続が発生したりと、問題が複雑化する恐れがあります。遺産分割協議が終わったら、速やかに手続きを進めましょう。
4.期限を過ぎるとどうなる? 手続きごとのペナルティと対処法
もし定められた期限内に手続きが完了しなかった場合、どのような不利益(ペナルティ)があるのかを具体的に解説します。
万が一期限を過ぎてしまった場合の対処法も紹介し、過度な不安を和らげます。
4-1.相続放棄(3ヶ月)の期限を過ぎると相続放棄ができない恐れも
相続放棄の3ヶ月の期限(熟慮期間)を過ぎると、原則として故人の財産も借金も全て相続することを承認した(単純承認)と見なされます。
借り入れがあった場合、原則として返済義務を免れることはできません。この3ヶ月という期間は、相続人にとって非常に重要な意味を持ちます。
4-2.相続税申告(10ヶ月)の期限を過ぎると延滞税などが発生する
相続税の申告期限である10ヶ月を過ぎてしまうと、本来納めるべき税金に加えてペナルティとしての税金が課されます。
● 無申告加算税: 期限内に申告しなかったことに対するペナルティ
● 延滞税: 納付が遅れた日数に応じて課される利息のような税金。申告が遅れれば遅れるほど、納税額は増えてしまいます。また、悪質だと判断されるとさらに重い重加算税が課されることもあります。
4-3.相続登記(3年)の期限を過ぎると10万円以下の過料の可能性
相続登記が義務化されたことに伴い、正当な理由なく3年の期限内に行わない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
所有者不明の土地問題を解消するために導入された制度であり、不動産を相続した場合は必ず行わなければならない手続きとなりました。
4-4.もし期限を過ぎてしまったら?すぐに専門家へ相談を
うっかり期限を過ぎてしまったり、あるいは間に合いそうになかったりした場合でも、諦める必要はありません。
例えば相続放棄の場合、「財産があることを知らなかった」など、やむを得ない事情があれば期限後でも認められるケースがあります。一人で抱え込まず、まずは相続に詳しい専門家に状況を説明し、対応策がないか相談することが重要です。
5.【遺産相続 期限】についてのよくある相談ケース
期限に関する悩みは、多くの方が抱える共通の課題です。
実際に寄せられる相談の中から、特に多い3つのケースを取り上げ、それぞれの状況でどのような対応が考えられるのか、解決へのヒントを示します。
5-1.相続財産調査に時間がかかり、3ヶ月の期限に間に合いそうにない
状況: 故人が生前、財産について詳しく話しておらず、どこにどれだけの財産や借金があるのか全体像が掴めない。調査を進めているうちに、相続放棄を判断すべき3ヶ月の期限が迫ってきた。
解決のヒント: 財産調査に時間がかかり、相続放棄するかどうか3ケ月以内に判断がつかない場合、家庭裁判所に「熟慮期間の伸長」を申し立てることができます。
認められれば、相続放棄を検討する期間を延長できます。財産調査に時間がかかることが明らかな場合は、早めにこの手続きを検討しましょう。申し立てには、なぜ期間の延長が必要なのかを具体的に説明する必要があります。
5-2.相続人間で意見がまとまらず、10ヶ月以内に遺産分割協議が終わりそうにない
状況: 相続人である兄弟間で、遺産の分け方について意見が対立。感情的なしこりもあり、話し合いが全く進まない。このままでは、相続税の申告期限である10ヶ月に間に合いそうにない。
解決のヒント: 10ヶ月の期限までに遺産分割がまとまらない場合でも、相続税の申告と納税は期限内に行う必要があります。
この場合、一旦、法定相続分で分割したものと仮定して「未分割申告」を行います。後日、分割する内容が確定した際に、改めて修正申告や更正の請求を行います。
ただし、未分割申告では「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった税負担を軽減する特例が使えないため、一時的に納税額が高くなる点に注意が必要です。
【ポイント】未分割で相続税申告をする場合の注意点
未分割申告では「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出が同時に必要です。
これをしておかないと分割がまとまったときに「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」を適用できません。また、調停や審判、裁判となっていくと3年以内に終わらないこともあるため、3年を経過するときに延長の承認申請を忘れないように注意しましょう。
また、納税計画がとても重要となります。未分割の場合、通常は金融資産が凍結されているので、納税資金の捻出に苦労することがあります。相続税の納付期限は、相続税の申告期限と同じく10ヶ月以内となっていますので特に注意を要します。共同相続人間で協議がまとまれば、とりあえず納税資金分だけを先に分割して納付するという手法もとられます。
5-3.仕事が忙しく、自分で手続きを進める時間と自信がない
状況: 日中は仕事があり、平日に役所や金融機関へ行く時間が取れない。そもそも、どのような書類を集めて、どこに提出すれば良いのか分からず、手続きを進める自信がない。
解決のヒント: 相続手続きは非常に煩雑で、多くの時間と労力を要します。ご自身の状況で手続きを進めるのが難しいと感じる場合は、専門家に手続きを依頼するのも有効な選択肢です。
専門家に依頼すれば、戸籍の収集から遺産分割協議書の作成、各種名義変更まで、必要な手続きの大部分を代行してもらえます。費用はかかりますが、時間的・精神的な負担を大幅に軽減でき、ミスなく正確に手続きを完了できるという大きなメリットがあります。
6.【まとめ】遺産相続の期限は計画的な進行がカギ 不安な時は専門家へ相談を
遺産相続を円滑に進めるためには、期限を意識した計画的な進行が不可欠です。
この記事で解説した全体の流れと期限を参考に、まずはご自身の状況で「いつまでに」「何をすべきか」を整理してみてください。
少しでも手続きに不安や疑問を感じたり、ご自身で進めるのが難しいと感じたりした場合は、一人で悩まず専門家へ相談することをおすすめします。
戸籍の収集や遺産分割協議書の準備などであれば、行政書士か司法書士に依頼するといいでしょう。
特に、遺産の総額が基礎控除額を超えそうで相続税の申告が必要になる可能性がある場合、財産の評価や特例の適用など、専門的な判断が求められます。
相続案件に精通した税理士に相談することで、適切な財産評価や税額の計算、有効な特例の活用など、節税に繋がるアドバイスを受けながら、申告・納税手続きまでを正確に進めることができます。
この記事の監修者:瀬嶋 宏典
代表 瀬嶋 宏典 税理士
元国税調査官(相続税担当)、税理士、行政書士、不動産鑑定士
税理士法人ひとざいは、相続税に長年精通した経験豊富な税理士を擁し、遺産相続業務に特に力を注いでいる税理士法人です。
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