遺産相続での財産の分配方法 もらえる割合と揉めない分け方を弁護士が解説

更新日:2025.08.27

遺産相続での財産の分配方法 もらえる割合と揉めない分け方を弁護士が解説

大切なご家族とのお別れの後、すぐに遺産相続の手続きが始まります。特に、財産をどう分配するのか、何から手をつけていいか分からず、不安に感じる方も少なくありません。遺言があった場合の対応や法律で定められた遺産の分け方、相続人同士が円満に話し合うコツまでを解説します。監修はいちじょう法律事務所(広島市)の伊藤清弁護士です。

遺産を分ける分配方法と割合の基本

「遺産相続の分配」と聞いて、まず皆さんが知りたいのは「どう分けるのか」そして「誰がどれくらいもらえるのか」ということでしょう。

最初にその基本を押さえましょう。なお、遺産相続で遺産を分配することは、法律上正式な手続きとしては「遺産分割」と言います。

遺産の分け方は主に4つの選択肢

遺産の分け方(遺産分割)には、主に以下の4つの方法があります。どの方法が最適かは、財産の種類や相続人の状況によって変わります。

  1. 現物分割: 不動産は妻に、預貯金は長男に、というように遺産をそのままの形で分ける方法。
  2. 換価分割: 不動産などを売却して現金化し、そのお金を相続人で分ける方法。
  3. 代償分割: 相続人の1人が不動産などを相続する代わりに、他の相続人にお金を支払う方法。
  4. 共有分割: 一つの不動産を複数の相続人の共有名義にする方法。

換価分割、現物分割、共有分割、代償分割

もらえる割合は、法律で目安が決められている

誰がどれくらい遺産をもらえるかの目安は、法律で「法定相続分」として定められています。

  • 誰がもらえるか(法定相続人): 亡くなった方の配偶者は常に相続人となります。配偶者以外は、①子(や孫)、②親(や祖父母)、③兄弟姉妹の順で優先順位が決まっています。
  • どれくらいもらえるか(法定相続分): 例えば、相続人が「配偶者と子2人」の場合、配偶者が1/2、子どもは残り1/2をさらに分け合い1/4ずつ、というのが法律上の目安です。

これらの分け方や割合を具体的に話し合うためには、その前提となる準備が非常に重要です。次に、円満な遺産分割に不可欠な準備のステップを具体的に見ていきましょう。

円満な遺産分割に進むための3つの準備

遺産の分け方を家族で話し合う前に、必ず済ませておくべき3つの重要なステップがあります。この準備を丁寧に行うことで、その後の手続きが格段にスムーズになり、相続人同士の思わぬトラブルを未然に防ぐことができます。

ステップ1:遺言書の有無を確認する

遺産をどう分けるかにおいて、最も優先されるのは亡くなった方の意思です。そのため、何よりも先に「遺言書」が残されていないかを確認することから始めましょう。遺産分割は、遺言書の内容に沿って進めるのが大原則となります。

主な遺言書の種類と探し方

 自筆証書遺言: 全て自筆で書かれた遺言書です。保管場所によって探し方や手続きが異なります。

  • 自宅・貸金庫などで保管の場合:故人の書斎や金庫などを探します。見つけた遺言書は、家庭裁判所で「検認」の手続きが必要なため、勝手に開封しないようにしましょう。
  • 法務局で保管の場合(自筆証書遺言書保管制度):法務局で保管されている遺言書は、検認手続きが不要です。相続人は、全国の法務局で「遺言書保管事実証明書」を請求して遺言書の有無を調べることができます。

 公正証書遺言: 公証役場で作成された、最も確実で信頼性の高い遺言書です。原本が公証役場に保管されているため、全国どこの公証役場からでも有無を照会できます。この遺言書も検認手続きは不要です。

秘密証書遺言: 内容を秘密にしたまま、存在だけを公証役場で証明してもらう遺言書です。こちらも検認手続きが必要です。

まずは心当たりのある場所を探し、見つからなければ最寄りの公証役場に問い合わせてみることが重要です。

<ポイント>自筆証書遺言を見つけたら
封がされている自筆証書遺言が見つかった場合は、開封しないで家庭裁判所の検認手続を受けてください。

もし、あやまって開封した場合、刑罰ではありませんが、行政罰としての「過料」に処せられることがあります。

その状態で保存して(破ってしまった部分も含めて丁寧に保存しておく)、速やかに検認の申立ての手続を申し立ててください。

誤って開封してしまった状況・経緯などを正直に説明できるようにしておけば,裁判所での検認手続や他の相続人の理解も得やすいことが多いです。

ステップ2:誰が相続人になるのかを確定させる

次に、誰が遺産を受け取る権利を持っているのか、法律上の相続人(法定相続人)を全員確定させる必要があります。遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」は、相続人全員が参加して合意しなければ法的に無効となるため、このステップは非常に重要です。

相続人を確定させる手順
相続人を確定させるには、亡くなった方の「出生から死亡までの一連の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本も含む)」が必要です。 戸籍の取得方法は、主に以下の2つです。

 ① 最寄りの役所でまとめて取得する(広域交付制度)
2024年3月から、本籍地以外の市区町村役場の窓口でも、まとめて戸籍を請求できるようになりました。本籍地が遠い場合や複数ある場合に非常に便利です。

  • 請求できる人: 本人、配偶者、子や親などの直系血族(※本人が直接窓口に行く必要あり)
  • 必要なもの: マイナンバーカード、運転免許証など顔写真付きの公的な本人確認書類が必須です。
    ※注意点: 代理人や郵送による請求はできません。

    ② 本籍地ごとに請求(窓口または郵送)
    従来どおり、それぞれの本籍地の市区町村役場に窓口または郵送で請求する方法です。代理人による請求もこちらに該当します。

  • 必要なもの: 本人確認書類、手数料(郵送の場合は定額小為替など)が必要です。

    【ポイント】 ご自身で戸籍を集めるなら、まずは最寄りの役所でまとめて取得できる「① 広域交付制度が利用できるか確認するのがおすすめです。

    ステップ3:どれくらいの遺産があるのかを把握する

相続人全員が確定したら、次は亡くなった方が残した遺産(相続財産)の全体像を明らかにします。この時、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も全てリストアップすることが非常に重要です。

プラスの財産の具体例

  • 不動産(土地、建物)
  • 預貯金(普通預金、定期預金など)
  • 有価証券(株式、投資信託など)
  • 自動車、生命保険金、ゴルフ会員権、骨董品など

マイナスの財産の具体例

  • 借金、ローン(住宅ローン、カードローンなど)
  • 未払いの税金や医療費
  • 保証債務など

これらの財産を一覧にまとめた「財産目録」を作成しましょう。財産目録は、後の遺産分割協議で、誰が何を相続するのかを具体的に検討する際の必須資料となります。

<財産調査のヒント>
不動産:被相続人の不動産は「名寄帳」を取得することで、その所在や地番を調査することができます。

名寄帳は、不動産所在地の市区町村役場で入手することができます。

その他、被相続人宛てに届く固定資産税の納税通知書・課税明細書を手がかりとして被相続人の不動産情報を得ることができます。

預貯金:被相続人の預貯金については、金融機関に対して、相続人であることを示して、残高証明書や取引明細書を発行してもらうことで、被相続人の預貯金を把握することが可能です。

生命保険金:受取人が指定されている場合は、原則として遺産分割の対象とはなりません(最判40.2.2参照)。
もっとも、相続税の場合は、非課税限度額を超えた場合は、課税の対象となることがありますのでご注意ください。

誰がどれくらいもらえる? ケース別の法定相続分

準備が整ったら、法律で定められた取り分の目安「法定相続分」について詳しく見ていきましょう。これは相続人同士で話し合う際の公平な基準となります。

法定相続人とは、法律で定められた遺産を受け取る権利がある人のこと

法律で遺産を受け取る権利が認められている人を「法定相続人」と呼びます。誰が法定相続人になれるかは、亡くなった方との関係によって決まっており、優先順位が定められています。

  • 配偶者: 常に相続人となります。

    血族相続人: 配偶者に加えて以下の順位で、相続人が決まります。上位の人がいる場合、下位の人は相続人になれません。

  • 第1順位: 子ども(子どもが先に亡くなっている場合は孫などの直系卑属)
  • 第2順位: 親や祖父母(直系尊属)
  • 第3順位: 兄弟姉妹(兄弟姉妹が先に亡くなっている場合はその子である甥・姪)

法定相続分とは、法律で定められた遺産の取り分のこと

「法定相続分」とは、法定相続人が遺産を取得する際の、法律上の目安となる割合です。ただし、これはあくまで目安であり、相続人全員が納得して合意すれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分けても問題ありません。

<ポイント>「特別受益」による調整

法定相続分で分割をすると、不公平になる場合があります。

例えば、相続人の1人が被相続人の生前に、住宅資金や開業資金などの贈与を受けていた場合などです。この場合の調整として「特別受益」という制度があります。いわば「遺産の前渡し」といえる場合に、その受益を計算上相続財産に持ち戻して(加算して)相続分を算定することとされています。

もっとも、「特別」受益ですから、生前にもらっていたものがすべて「特別受益」にあたるわけではありません。遺産分割調停等の場面ではありますが、特別受益の主張が認められたものは1割程度であると言われています。

【ケース別】誰が相続人になるかで変わる法定相続分

【ケース1】配偶者と子どもが相続人の場合(配偶者1/2、子ども全体で1/2)
 配偶者(母): 遺産の 1/2
 子ども(全体): 残りの 1/2 を人数で均等に分けます。(例:子ども2人なら各1/4)

【ケース2】配偶者と親(直系尊属)が相続人の場合(配偶者2/3、親全体で1/3)
配偶者: 遺産の 2/3
親(直系尊属): 残りの 1/3 を人数で均等に分けます。(例:両親健在なら各1/6)

【ケース3】配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合(配偶者3/4、兄弟姉妹全体で1/4)
配偶者: 遺産の 3/4
兄弟姉妹: 残りの 1/4 を人数で均等に分けます。

【ケース4】子どもだけが相続人の場合(子ども全体で全て)
子どもが遺産のすべてを人数で均等に分けます。(例:子ども2人なら各1/2)

相続の順位と法定相続分

揉めないための分け方のコツと4つの具体的な分割方法

ここでは、相続人全員が納得できる話し合いを進めるための4つのポイントと、冒頭でご紹介した4つの分割方法について詳しく解説します。

ポイント1:感情的にならず、まずは相続のルールと財産状況を共有する

話し合いを始める前に、財産目録や法定相続分のルールなど、客観的な情報を全員で共有することが冷静な議論の土台となります。

ポイント2:話し合いの前に、お互いの希望を冷静に聞き出す
いきなり「どう分けるか」ではなく、「実家に住み続けたい」「事業資金が必要だ」といった各相続人の希望や事情をまずはお互いに表明し、耳を傾けましょう。

ポイント3:特に揉めやすい不動産(実家など)の分け方は選択肢を知っておく
預貯金のように簡単に分けられない不動産は、最もトラブルになりやすい遺産です。冒頭で触れた4つの方法のメリット・デメリットを知り、最適な選択肢を検討しましょう。

不動産を対象として遺産分割をする場合で、換価分割、代償分割の方法をとるときには、課税の問題にも注意する必要があります(不動産を現物分割することも考えられますが、その後の利用が困難になることが多いためこの方法をとることはあまりありませんのでここでは割愛します)。

まず、いずれの方法によっても、相続税の計算は必要となります。
換価分割の場合:相続税のほかに譲渡取得税が課税される場合があります。しかも、いわゆる分離課税となりますので、給与所得などの所得とは分離して計算する必要があります(換価分割により得た所得と給与所得などとの損益通算はできません。)。

代償分割の場合:代償財産の交付を受けた方(不動産を取得した方)は、取得した不動産の財産の価額から交付した代償財産(代償金)の価額を控除した金額に相続税が課税されます。他方、代償金を受け取った方は、その代償金額に相続税が課税されます。もっとも、代償分割において代償金に加えて不動産を交付する場合には、譲渡所得税も課税されることがあります。

どの相続財産をどの方法で分割するかについては、課税関係も考慮する必要があります。

ポイント4:どうしても話がまとまらない場合は第三者の力を借りる
当事者同士で冷静な話し合いが難しい場合は、家庭裁判所の「遺産分割調停」を利用したり、弁護士など相続問題に詳しい専門家に間に入ってもらったりするのが賢明です。

【遺産相続の分配】についてのよくある相談ケース

ここでは、実際に多くの方が悩まれる具体的なケースを取り上げ、その解決に向けた考え方や法的なポイントを解説します。

ケース1:遠方に住む兄弟と、実家の土地・建物の分け方で意見が合わない
「自分は親と同居していた実家を守りたいが、遠方に住む兄は『家を売って現金で分けてほしい』と主張している」というケースです。

この場合、まずは「代償分割」を提案し、自分が実家を相続する代わりに兄に代償金を支払う方法が考えられます。それが難しければ「換価分割」も選択肢となります。

ケース2:親の介護を一身に担ってきたので、多く遺産をもらいたいと主張したい
法律には、被相続人の財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人が多く遺産を主張できる「寄与分」という制度があります。

ただし、単に身の回りの世話をしていただけでは認められにくく、介護で仕事を辞めた、自分の財産から多額の療養費を支払ったなど、客観的に「特別な貢献」と評価される事情と証拠が必要です。

ハードルが高い「寄与分」の認定
ケース2のように、介護をした方としてはその苦労を相続の時に考慮してもらいたいところです。この場合の調整を図る制度として「寄与分」という制度(民法904条の2)があります。

しかし、そもそも夫婦・親子・兄弟姉妹間においては、扶養義務が定められています(民法752条,民法877条)ので、ただ介護をしただけの場合では、原則として「寄与分」は認められません。寄与分の主張が認められた審判例は、申し立ての1割以下だという統計もあります。

ケース3:遺産分割協議が終わった後に、新たな遺産が見つかった
原則として、見つかった財産について再度、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。

ただし、最初の遺産分割協議書に「本書に記載のない遺産が後日発見された場合は、特定の相続人がこれを取得する」といった一文を入れておくことで、再度の協議を省略することも可能です。

【まとめ】遺産相続の分配は、正しい手順と準備で円満に進められる

遺産相続の分配(遺産分割)は、正しい知識を身につけ、一つ一つのステップを確実に踏むことで、家族間の無用な争いを避け、円満な解決を目指すことは十分に可能です。

まずは、この記事で見てきたように、①分け方と相続割合の基本を理解し、②そのための準備(遺言書の確認・相続人確定・財産把握)を丁寧に行い、③その上で詳細な検討に進む、という流れを意識することが大切です。

もし、当事者間での話し合いが難しい、手続きが複雑で手に負えないと感じた場合は、一人で抱え込まずに専門家の力を借りることを強くお勧めします。特に、相続人の間で意見の対立がある、またはその可能性がある場合には、弁護士に相談するのが最適です。

弁護士に依頼するメリットは以下のようなことが挙げられます。

  • 法的な代理人として、他の相続人との交渉をすべて任せられる。
  • 感情的な対立に巻き込まれず、精神的な負担を大幅に軽減できる。
  • 法的に有効で、後々のトラブルを防ぐ「遺産分割協議書」を正確に作成してくれる。

弁護士が第三者として冷静に間に入ることで、こじれた話し合いが円滑に進むケースは非常に多くあります。家族の未来のために、専門家のサポートをうまく活用することも、円満な相続を実現するための重要な選択肢の一つです。


この記事の監修者:伊藤 清

いちじょう法律事務所

代表 伊藤 清弁護士

これまで、家族間での争いがある相続案件(争続案件)を扱ってきました。こうした争続案件になってしまうと、話し合い(遺産分割協議)の段階で終わることはなく、裁判手続になってしまうこともあります。そうなると、当初の話し合いの段階から解決までに数年かかることもまれではありません。実際、7年かかった事案もありました。
お亡くなりになる前の段階で家族間でお話ができていれば、こんなことにはならなかっただろうと思うことが多々あります。争続案件を扱ってきたからこそ、どんなポイントを家族間でお話ししておけばよいかアドバイスできます。

伊藤弁護士が代表を務めるいちじょう法律事務所のページはこちら

 

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