内縁のパートナーに財産を残したい 具体的な対策と注意点を弁護士が解説

更新日:2025.07.30

内縁のパートナーに財産を残したい 具体的な対策と注意点を弁護士が解説

自分にもしものことがあった時に、事実婚をしているパートナーに財産を残してあげたい。しかし、法律上の婚姻関係にない「事実婚」の場合、相続はどうなるのか不安を感じる方もいるでしょう。

今回は、そのようなお悩みを持つ方の解決策について、弁護士が解説します。

事実婚の妻に財産を多く残したいが、前妻との間の子どもに反対されるか不安

相談者:田中肇さん(仮名・55歳)

長年連れ添った妻を亡くし、現在は内縁の妻である美咲(仮名・54歳)と暮らしています。美咲は私の心の支えであり、残りの人生を共に過ごしたいと思っています。ただ、互いに離婚歴があることから、いわゆる「結婚」にこだわらずに事実婚のパートナーとして暮らしています。

私には前妻との間に子どもが2人います。私にもしものことがあった場合、今の生活を共にしてくれている美咲に財産を残したいと考えています。しかし、内縁関係では相続権がないと聞き、不安を感じています。

内縁の妻に財産を相続させることは可能でしょうか? また、前妻との子どもたちに反対された場合はどうすれば良いのでしょうか?

相談に回答してくれた専門家
弁護士法人菅原・佐々木法律事務所
代表 菅原 健 弁護士

菅原・佐々木法律事務所_菅原健6

内縁のパートナーは法定相続人ではないため生前に対策を

田中様、大切なパートナーである美咲様に、もしもの時もしっかりと財産を残したいというお気持ち、大変よく分かります。ご安心ください。

内縁のパートナーに財産を残すには、法的な効力を持つ遺言書と生命保険の活用が主な選択肢となります。

内縁関係では法定相続人にはなれませんが、これらの方法を適切に利用することで、田中様の意思を確実に反映し、美咲様へ財産を遺すことが可能です。

また、相続発生後のトラブルを避けるためにも、事前の対策と関係者への配慮が非常に重要になります。

遺言書を作って パートナーに遺す意思を示す

遺言書を作成して遺贈する

遺言書を作成し、美咲様に財産を「遺贈」する旨を明記する方法です。

遺贈とは、遺言によって財産を特定の人に与えることで、法定相続人以外の人にも財産を渡すことができます。

遺言書には、自分で書く「自筆証書遺言」と、公証役場で作成する「公正証書遺言」があります。

メリット: 田中様のご意思を最も明確に反映できる方法です。前妻のお子様がいても、遺言書の内容に従って遺産分割することができます。
デメリット: 法定相続人である前妻のお子様には「遺留分」という最低限の権利(遺留分権)が保証されており、遺言書の内容によっては遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。

また、事実婚のパートナーは相続人ではないため、遺贈する場合には相続税が2割加算される点にも注意が必要です。

パートナーを受取人にした生命保険に加入する

生命保険を活用する

生命保険に加入して受取人を美咲様にする方法です。

原則、生命保険金は契約時に指定した受取人固有の財産となり、遺産分割の対象にはなりません。

そのため、相続が発生した際、前妻のお子様から反対されることなく、美咲様が保険金を受け取ることができます。

ただし、他の相続人との関係で保険金の受領が余りに不公平となる場合は、特別受益に準じて持戻しの対象となることもあります(最判H16.10.29)。 

メリット: 遺産分割協議が不要なため、相続開始後すぐに美咲様が財産を受け取れる可能性が高く、トラブルを避けやすい方法です。
デメリット: 内縁の妻は相続人ではないため、生命保険金の非課税枠の適用がありません。そのため、受け取った保険金に対して相続税以外の税金が発生する可能性があります。税額は契約内容や金額によって異なるため、事前に確認が必要です。

「特別受益」とは、被相続人の生前に、特定の相続人に対して高額な学費や住宅資金などとして受けていた特別な利益のことをいいます。

相続する段階で、相続人同士の公平を図るため、この特別受益分を相続財産として加算して相続分を計算することがあります。過去に贈与などを受けた財産を相続財産に加えることを相続財産への「持ち戻し」といいます。

遺言書や生命保険に加入する場合の注意点

遺留分侵害額請求をされるリスク

遺言書で美咲様に多くの財産を遺贈した場合、前妻のお子様が持つ「遺留分」を侵害する可能性があります。

遺留分とは、故人の兄弟姉妹以外の法定相続人に保証された最低限の相続分のことです。

もし遺留分が侵害された場合、お子様から遺留分侵害額請求をされると、美咲様は受け取った財産の一部をお子様に支払う義務が生じる可能性があります。

これを避けるためには、遺留分を考慮した遺言内容にするか、生前にきちんと話し合い理解を得ておくことが重要です。

相続税の加算

内縁の妻への遺贈や生命保険金は、相続人ではないため、相続税を計算する際、配偶者控除などの優遇措置が適用されません。

また、相続税がかかる場合には2割加算される特例が適用されるため、税負担が大きくなる可能性があります。遺贈する財産の額が大きい場合は、事前に税理士に相談し、適切な相続税対策を検討しておくことをお勧めします。

相続人との関係悪化と紛争のリスク

田中様の意思が十分に伝わらないまま相続が発生すると、前妻のお子様と美咲様の間で感情的な対立や争いに発展する可能性があります。

遺言書の内容についてお子様が不満を持ったり、美咲様が財産を受け取ること自体に反発したりすることが考えられます。このようなリスクを軽減するためには、生前のうちに、田中様が美咲様に財産を遺したいと考えていること、その理由などをお子様に伝え、理解を得る努力をすることが非常に重要です。

遺言書を作成する前に専門家に相談を

相続問題は、民法や相続税法、不動産登記法など様々な法律が複雑に絡み合い、専門的な知識が不可欠です。

特に、内縁関係における相続は、法定相続の枠外となるため、より慎重な対応が求められます。

弁護士は、遺言書の作成支援や遺留分に関するアドバイスができるほか、万が一、相続発生後に前妻のお子様との間でトラブルになった場合の交渉や調停、訴訟の代理などのサポートができます。

また、税理士は相続税の計算や節税対策、生命保険の税務上の取り扱いなど、税金に関する専門的なアドバイスが可能です。

ご自身の状況に合わせた最適な対策を見つけるためには、専門家への相談が最も確実な方法です。まずは一度、専門家に相談し、具体的な状況を踏まえたアドバイスを受けることをお勧めします。

 

* * * * *

(コラムは、相続でよくある質問をヒントにフィクションとして構成しています)

※ご注意※
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する具体的な法的アドバイスを提供するものではありません。具体的な法的アドバイスが必要な場合は、弁護士にご相談ください。


この記事の監修者:菅原 健

弁護士法人菅原・佐々木法律事務所

代表 菅原 健 弁護士

菅原・佐々木法律事務所_菅原健6

「相続は本当に様々なケースがあって、時間が経てば経つほど対応が難しくなります。遺産分割の協議が必要なときはもちろん、『これで本当に大丈夫なのかな』と漠然とした不安があるときも、できるだけ早めにご相談ください。初回相談は無料ですし、私たちがしっかりお話を聞いて、本当に望んでいることを実現できるように、一緒に考えていきます」

菅原弁護士が代表を務める弁護士法人菅原・佐々木法律事務所のページはこちら

 

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現在、全国的に高齢人口の急速な増加を続けており、総人口は減少していく一方で、高齢者人口は2040年まで増え続けると予測されています。それに伴い、相続財産をめぐるトラブルも増加、複雑化していることが喫緊の課題となっており、さらに、問題を未然に防ぐための遺言や民事信託などの生前対策のニーズも年々高まっています。 「つぐなび」では、相続でお困りの皆様が、相続の”プロ”である専門家と一緒に相続の課題解決をしていけるようサポートいたします。

・本記事は一般的な情報のみを掲載するものであり、法務助言・税務助言を目的とするものではなく、個別具体的な案件については弁護士、税理士、司法書士等の専門家にご相談し、助言を求めていただく必要がございます。
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