大切な家族を亡くし、残された遺産の分割を進めようとした際、相続人のうちの一人と連絡が取れない場合にはどうしたらよいのでしょうか。連絡が取れないまま遺産分割協議を進めても良いのか、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。今回は、連絡が取れない相続人がいる場合の遺産分割協議についてその解決策を司法書士が解説します。
連絡が取れない相続人がいる場合、不在のまま遺産分割協議をしてもいい?
相談者:佐藤肇さん(仮名・55歳)
先日、闘病していた父(85歳)が亡くなりました。相続人は私と姉(58歳)、そして弟(52歳)の3人です。父の遺産は、自宅の土地と建物、預貯金が少々あります。
遺産分割の話し合いを進めたいのですが、弟とは長年音信不通で、どこに住んでいるのか、連絡先も全く分かりません。父が病気になった際に連絡をとろうとしました。結局、連絡が取れないまま父が亡くなり、葬儀にも呼べませんでした。
このまま弟が不在の状態で遺産分割協議を進めてしまっても問題はないのでしょうか? 弟抜きで遺産分割協議をすることはできないのでしょうか?
もし、弟の連絡先が分からない場合、どのような手続きを取れば遺産分割協議ができるのか、具体的な方法を知りたいです。私も姉も弟との関係は良好ではなかったため、この機に縁を切りたいという気持ちもありますが、法的にどのように対応すれば良いのか困っています。
相談に回答してくれた専門家
司法書士山田亘彦事務所
代表 山田亘彦 司法書士

不在の相続人がいれば「不在者財産管理人」の選任が必要
長年音信不通の相続人がいる状況での遺産分割協議は、大変ご心労のこととお察しいたします。
連絡が取れない相続人がいる場合には、その相続人抜きのまま遺産分割協議をすることができません。
しかし、法的な手続きを踏むことで遺産分割協議を進めることは可能です。その主な解決策として、「不在者財産管理人」の選任や、場合によっては「失踪宣告」という手続きがあります。
これらの手続きをとることにより、音信不通の相続人の権利を保護しつつ、遺産分割協議を成立させることができます。
不在者財産管理人を選任する手続き
不在者財産管理人選任の申し立て
連絡が取れない相続人(不在者)がいる場合、まず検討すべきなのが「不在者財産管理人」の選任です。
不在者財産管理人とは、家庭裁判所が選任する財産管理人です。通常、不在者との関係や利害関係の有無などを考慮して、適格性が判断され財産管理人に選任されます。
弁護士、司法書士などの専門職が選ばれることもあります。
不在者財産管理人を選任する申し立て手続き
家庭裁判所へ不在者財産管理人選任の申し立てを行います。申し立てには、不在者の戸籍謄本や住民票、財産に関する資料などが必要です。
不在者財産管理人の役割: 選任された不在者財産管理人の権限は、財産の保存行為や目的となる物や権利の性質を変えない範囲の利用行為など権限が限られるため、遺産分割協議をする場合には、裁判所の許可を受けることで、遺産分割協議に参加し、他の相続人と協議をすることができます。遺産分割協議が成立した場合、遺産分割を完了させることができます。
- メリット: 不在者の権利を法的に保護しつつ、遺産分割協議を円滑に進めることができます。他の相続人が不在者の権利を侵害するリスクを軽減できます。
- デメリット: 不在者財産管理人の選任には、申し立てから選任までには一定の期間(数ヶ月程度)かかります。また、費用(申立費用、管理人の報酬など)もかかります。不在者が帰ってくるか、死亡が確認されるか又は失踪宣告がなされるまでは、財産管理人としての職務が継続します。
不在者財産管理人の注意点
- 不在者財産管理人選任の費用と期間
不在者財産管理人の選任には、家庭裁判所への申し立て費用や、選任された財産管理人の報酬が発生します。財産管理人の報酬は、管理する財産の額や管理期間によって異なりますが、数十万円から数百万円になることもあります。また、選任までには数ヶ月程度の期間を要するため、遺産分割手続きを急ぐ場合には注意が必要です。 - 遺産分割協議への不在者財産管理人の関与
不在者財産管理人は、不在者の法定相続分を確保するなど不在者の利益を考慮して、遺産分割協議をすすめることになります。
そのため、他の相続人の希望通りの遺産分割案が必ずしも認められるとは限りません。場合によっては、他の相続人との間で意見の対立が生じる可能性もあることを考慮しておく必要があります。
生死が不明の場合には失踪宣告の申し立て
もし不在者が7年以上行方不明であり、生死不明の状態が続いているのであれば、「失踪宣告」を申し立てることも考えられます。
失踪宣告が認められると、その不在者は法律上「死亡」したものとみなされる制度です。
失踪宣告を申し立てる手続き
家庭裁判所へ失踪宣告の申し立てを行います。申し立てには、不在者の生死不明期間や、その状況を示す資料が必要となります。
失踪宣告後の相続: 失踪宣告が認められた場合、不在者は死亡したものとして扱われるため、その不在者についての相続が発生し、不在者の相続人全員で遺産分割協議を進めることになります。
- メリット: 死亡していたことになるため、不在者の財産を処分することや別の人との再婚もすることができ、不安定な立場を解消することが出来ます。
- デメリット: 申し立てから失踪宣告が認められるまでに、非常に長い期間(数ヶ月から1年以上かかることもあります)を要します。また、失踪宣告がされた後に、その不在者が生存していた場合には、法定なトラブルに発展するおそれがあります。
失踪宣告の注意点
失踪宣告は、不在者を法律上死亡とみなすため、その影響は非常に大きい制度です。
もし失踪宣告後に不在者が生存していることが判明した場合、原則として失踪宣告を取り消すことができ、その間に成立した法律関係(例えば、遺産分割協議で分配された財産を処分してしまった場合など)が複雑になる可能性があります。また、その不在者には、失踪宣告によって失った権利を回復する権利が発生することがあります。
連絡が取れない相続人がいる場合は、まずは不在者財産管理人の検討を
「不在者財産管理人制度」と「失踪宣告」の大きな違いは、「失踪宣告」は、死亡したとみなされるので、その者について「相続」が開始することになります。
弊所では、連絡の取れない不明者について、遺産分割を進めるという目的の場合には、不在者財産管理人選任の制度を選択しています。失踪宣告制度は、その者が死亡したとされる制度ですので、慎重な利用が必要と考えています。
まとめ 相続に詳しい専門家に依頼を
相続問題は、民法や不動産登記法など様々な法律が複雑に絡み合い、専門的な知識が不可欠です。
特に、連絡が取れない相続人がいるケースは、法的な手続きがより一層複雑になります。ご自身で対応しようとすると、必要な書類の準備や家庭裁判所での手続き、他の相続人との交渉など、多大な時間と労力がかかるだけでなく、法的な誤りを犯してしまう可能性もあり、リスクも伴います。
司法書士は、不在者財産管理人選任の申し立て手続きや、失踪宣告に関するアドバイス、そして遺産分割協議書の作成支援など、相続手続き全般にわたるサポートを提供できます。
特に不動産の相続登記は司法書士の専門分野であり、遺産分割協議後の所有権移転登記をスムーズに進めることができます。また、相続税に関する問題が発生する可能性がある場合は、税理士との連携も可能です。
ご自身の状況に合わせた最適な解決策を見つけるためには、専門家への相談が最も確実な方法です。多くの司法書士事務所では初回相談を無料で行っているところもありますので、まずは一度、専門家に相談し、具体的な状況を踏まえたアドバイスを受けることを強くお勧めします。専門家のサポートを得ることで、複雑な相続手続きの負担を軽減し、精神的なご負担も軽くすることができるでしょう。
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(コラムは、相続でよくある質問をヒントにフィクションとして構成しています)
※ご注意※
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する具体的な法的アドバイスを提供するものではありません。具体的な法的アドバイスが必要な場合は、弁護士にご相談ください。
この記事の監修者:山田 亘彦
代表 山田 亘彦 司法書士

司法書士山田亘彦事務所は、船橋で平成9年の創業以来25年以上、不動産登記、会社登記、相続、成年後見、民事信託、債務整理などの手続きを通じて親しみやすい司法書士事務所として地元で愛されてきました。
難しいと言われる法律用語をかみ砕いてわかりやすく説明します。船橋駅から徒歩約15分、船橋市役所本庁舎近くにあり、船橋市役所バス停からは徒歩約2分と便利な立地です。
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