相続でよくある悩みを人生相談として取り上げます。今回は、お子さんがいない長男に財産を相続させた後、次男に相続させる方法はあるのかという疑問に司法書士が答えます。
父の遺品の中に消費者金融からの郵便物を発見。相続しなければいけませんか
相談者:森佳代さん(仮名・42歳)
先日、父が亡くなりました。
遺品整理をしていたところ、消費者金融からの郵便物が見つかり、調べたところ借金が数百万円残っていることが分かりました。
私は一人娘なので、この借金を相続しなければならないのでしょうか?まだ幼い子どももおり、今後の生活を考えると不安で仕方ありません。
相談に回答してくれた専門家
桶谷法律事務所
代表 桶谷 修 弁護士
お父様が亡くなられ、心中お察しいたします。借金の相続についてご不安なのですね。結論から申し上げますと、相続放棄という選択をすれば、借金を相続せずに済みます。
目次
1.すべての財産を受け継がない相続放棄
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産を一切相続しないという法的な手続きです。
相続財産には、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金や未払い金などのマイナスの財産も含まれます。
相続放棄をすることで、これらの財産を一切受け継がないことになります。
2. 相続放棄の条件と期限 いつまでに何をすべきか
相続放棄は、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に行う必要があります。
この期間を「熟慮期間」といい、相続人はこの期間内に相続するか放棄するかを判断しなければなりません。
ただし、熟慮期間を過ぎてしまった場合でも、事情によっては、家庭裁判所に申し立てることで、期間を延長できる場合があります。熟慮期間が過ぎてしまったからといってあきらめずに、専門家に相談するといいでしょう。
3. 相続放棄の手続き 具体的な流れと必要書類
相続放棄の手続きは、以下の手順で行います。
- 必要書類の収集:被相続人の死亡診断書、戸籍謄本、住民票除票、相続放棄申述書など
- 家庭裁判所への申立て:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出
- 家庭裁判所での審理:家庭裁判所から相続放棄の意思確認などの照会書が送付される場合があります
- 相続放棄申述受理通知書の受領:家庭裁判所から相続放棄が受理された旨の通知が送付されます
必要書類の収集にある「相続放棄申述書」は、裁判所ホームページからダウンロードすることができます。
4. 相続放棄のメリットとデメリット 選択する前に知っておきたいこと
相続放棄のメリット
- 借金を相続せずにすむ:これが最大のメリットです。借金だけでなく、未払いの税金や医療費なども支払う必要がなくなります。
- 債権者からの取り立てから解放される:相続放棄をすると、債権者からの支払い請求に応じる必要がなくなります。精神的な負担も軽減されます。
- 不要な不動産を相続せずに済む:管理が難しい空き家などを相続せずに済みます。
- 相続争いに巻き込まれずに済む:ほかの相続人と遺産分割協議などをする必要がなくなります。
森様は一人娘とのことでしたので、該当しませんが、面倒な相続争いに巻き込まれたくないという理由で相続放棄をすることも可能です。
相続放棄のデメリット
- プラスの財産も相続できない:預貯金や実家の不動産など、プラスの財産も一切相続できなくなります。
- 次の順位の相続人に相続権が移る:相続放棄をすると、その人は元々相続人ではなかったことになり、次の順位の相続人に相続権が移ります。
例えば、森さんが相続放棄をした場合、亡くなったお父様のご両親が次の順位になります。ご両親がいない場合には、お父様のきょうだいに相続権が移ります。
5. 相続放棄の注意点 確実に手続きするために
確実に相続放棄をするために、以下の点は見落としがちですので気を付けてください。
- 故人の年金や預貯金には手をつけない:相続放棄を検討している場合、被相続人の預貯金や年金などには手を付けないようにしましょう。一部でも使用してしまうと、相続放棄ができなくなる可能性があります。
- 相続財産を処分しない:不動産や自動車など、他の相続財産を処分してしまうと、相続を承認したとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。
- 熟慮期間を過ぎないようにする:相続放棄は原則として相続開始を知ったときから3ヶ月以内に行う必要があります。期限を過ぎてしまうと、相続放棄が認められない場合があります。
- 相続放棄によって相続権が移る人に連絡をする:相続権が次の順位の人に移った場合、債権者がその方に連絡する恐れがありますので、相続放棄をした旨を伝えた方がよいでしょう。
- 死亡保険金は受け取れる:契約者と被保険者が同一の場合、受け取る死亡保険金は受取人の固有の財産です。死亡保険金の受取人になっている場合、相続放棄をしても、死亡保険金は受け取ることができます。
6. 相続放棄以外の選択肢 状況に応じた判断を
相続財産の中にプラスの財産もマイナスの財産もある場合、相続放棄以外にも以下の選択肢があります。
- 限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する方法です。
- 単純承認:プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する方法です。一般的に、相続といえばこの単純承認を指します。
ただし、限定承認の手続きは非常に煩雑なうえ、相続人全員で手続きする必要があるため、広く実施されているものではありません。
7. 弁護士に相談すべき理由 債権者への対応も代理することができます
相続放棄は、ご自身の状況に合わせて慎重に判断する必要があります。
3ヶ月という期限もありますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、相続財産の調査、相続放棄の手続き、債権者への対応などをサポートしてくれます。
今回のケースでは、お父様の借金額や財産状況などを詳しく調査した上で、相続放棄をすることが最善の選択肢となる可能性が高いでしょう。
弁護士に相談することで、以下のサポートを受けることができます。
- 相続財産の徹底調査:弁護士は、金融機関や不動産会社などに照会をかけ、被相続人の預貯金、不動産、借金などの情報を収集します。
- 信用情報の開示請求:相続人は、信用情報機関(CIC、JICC、KSCなど)に照会することで、被相続人の借入状況やクレジットカードの利用状況などを確認できます。これらの情報を元に、弁護士が適切なアドバイスを行います。
- 煩雑な手続きを代行:相続放棄の手続きは煩雑ですが、弁護士が代行します。
債権者との交渉を代行:相続放棄後の債権者からの問い合わせや請求に対して、弁護士が対応します。
まずは弁護士にご相談いただき、今後の対応についてアドバイスをもらうことをおすすめします。
8. まとめ 一人で悩まずに弁護士と共に解決を
相続の問題は、慣れないことが多く不安や疑問を感じるのは当然です。
特に、借金の相続は大きな負担になります。相続放棄をするかどうか迷われている場合は、早めに弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。
弁護士は、あなたの状況に応じて対応策を考え、代理として相続放棄の手続きをすることや債権者に対応することもできますので、ご相談ください。
当事務所では、初回法律相談(30分)を無料でしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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(コラムは、相続でよくある質問をヒントにフィクションとして構成しています)
※ご注意※
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する具体的な法的アドバイスを提供するものではありません。具体的な法的アドバイスが必要な場合は、弁護士にご相談ください。
この記事の監修者:桶谷 治(おけたに おさむ)
代表 桶谷 治弁護士
1963年札幌市生まれ。1989年に弁護士登録(札幌弁護士会)、1991年に桶谷法律事務所を創立。所属弁護士(2025年現在で6名)全員の経験と知識を共有することにより、相続人調査、遺産分割の交渉・調停・審判、遺言書の作成・執行など、あらゆる相続問題において最善の解決策を提案できる事務所を目指す。
ご相談の際には、不安を抱えているご相談者のお気持ちに配慮した対応を心がけている。趣味はサッカー(コンサドーレ)観戦と散歩。
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