相続人生相談は、相続でよくある悩みを取り上げます。今回は3人の子どもに遺言書を書きたいものの、どう書いてよいのかわからないという悩みに司法書士が答えます。遺言書のひな型を使って、書き方のポイントもご紹介します。
3人の子どもに遺言をしたいが、どんな内容にするべきか悩む
相談者:山田進さん(仮名・69歳)
先生、はじめまして。私は60代後半の男性です。妻に先立たれ、今は1人で暮らしています。子どもは3人おり、長男は会社員、長女は結婚して専業主婦、次男は実家に戻ってフリーターをしています。私の家は、都内にある築30年ほどの3階建ての一軒家で、路線価で評価すると約5,000万円になります。預貯金は約3,000万円、株式は約1,000万円ほど保有しています。
最近、夜中に目が覚めてしまうことが多くなりました。妻のいない寂しさ、そして、子どもたちの将来に対する漠然とした不安が、私の心を締め付けます。特に、私がこの世を去った後、子どもたちが相続で揉めるのではないかと考えると、胸が苦しくなります。
長男夫婦は共働きで、妻が亡くなってから同居しています。毎日遅くまで働き、疲れた顔をしているのを見ると、少しでも楽をさせてあげたいという気持ちになります。長男は「自分が家を相続するのは当然」と考えているようで、親として当然の気持ちだと思います。
しかし、長女は結婚して家を出ていますが、夫の収入は多くなく、生活は決して楽ではないようです。長女は「長男が家を相続するなら、預貯金と株式は自分と次男で分けるべきだ」と主張しており、それももっともな意見です。
次男はフリーターで、将来のことが心配です。彼は口数は少ないですが、相続で少しでも多くの財産を得たいと考えているようです。
私は、これまで子供たちには平等に接してきたつもりです。しかし、同居していることもあり、さらに年齢を重ねると世話になることも増えることを考えると、どうしても長男に肩入れしてしまう気持ちもあります。それが、子どもたちの間の溝を深めているのではないかと不安になります。先日、友人から「相続できょうだいが絶縁状態になった」という話を聞きました。まさか自分の家族が…と信じたい気持ちはありますが、友人の話を聞いて、改めて遺言書の必要性を感じています。
先生、争族にならないためには、どのような遺言書を書けば良いのでしょうか? 子どもたちのことを考えると、いてもたってもいられません。どうか、私に知恵をお貸しください。
相談に回答してくれた専門家
ブライト総合司法書士事務所
代表 町田哲志 司法書士
ご相談いただきありがとうございます。大切なご家族のために、遺言書を残したいというお気持ち、そしてお子さんたちが争うことなく、幸せに暮らしていけるようにという切なる願い、ひしひしと伝わってきます。
相続は、家族の関係を壊してしまう可能性もあるデリケートな問題です。
しかし、遺言書は、あなたの想いを伝え、子供たちがそれぞれの人生を歩んでいくための大切な道しるべとなります。
目次
手軽に書ける自筆証書、公証人に作成してもらう公正証書
まず、遺言書には、大きく分けて3つの種類があります。それぞれご紹介します。
1.自筆証書遺言
ご自身で全文、日付、氏名を自書し、押印して作成します。
自ら書くことが必要ですので、代筆によって作成したものやパソコンで作成したものは無効です。
ただし、遺言につける財産目録は代筆やパソコンで作ったものでも構いません。(財産目録の各ページに遺言者の署名と押印が必要です。)
費用がかからない、いつでも手軽に作成できるというメリットがあります。
デメリットとしては、遺言の内容が不明確で登記申請など遺言の執行がスムーズに行かなかったり、形式の決まりが多くその不備で遺言が無効になったりする可能性があること、紛失・改ざんの恐れがあります。
また、相続人が相続する際には、家庭裁判所で検認手続きが必要になります。
近年、自筆証書遺言の保管制度として、法務局で遺言書を保管することができるようになりました。法務局で保管することにより、遺言書の紛失や改ざんのリスクを軽減することができます。また、相続する段階で家庭裁判所で検認する必要がありません。
2. 公正証書遺言
公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。
公証人と証人2人の前で、公証人に遺言の内容を口頭でお話していただきます。
公証人が作成に関与するため、形式の不備や内容の不明確さを防ぐことができ、法律的に正しく整理された内容の遺言書を作成してもらえるため、相続人同士の争いを未然に防ぐ効果が期待できます。
また、公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。
さらに、遺言者の自書が不要ですので、高齢や病気などで手書きが難しい方でも遺言書が作成できます。
ただし、費用がかかり、事前の書類の準備や公証人とのやりとりなど作成に手間と時間がかかる点はデメリットと言えるでしょう。
3. 秘密証書遺言
遺言書の内容を秘密にしたまま、公証役場に保管してもらう遺言書です。
自筆で作成した遺言書を封筒に入れて封印し、公証人と証人2人の前で、その封筒を提出します。
費用は公正証書遺言より安く済みますが、自筆証書遺言と同様に遺言の内容が不明確で執行がスムーズに行かなかったり、形式の不備で無効になる可能性があります。
この遺言書は、遺言内容を秘密にできるという自筆証書遺言のメリットと、公証役場で保管してもらえるという公正証書遺言のメリットを併せ持っています。
しかし、証人が2人必要で、検認も必要となる点は留意しなければなりません。
今回のケースでは、公正証書遺言の作成をお勧めします。
公証人が作成に関与するため、形式の不備や内容の不明確さを防ぐことができ、法的に無効となるリスクを抑え、相続人同士の争いを未然に防ぐ効果が期待できます。
また、公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。
遺言書に書くべき内容
遺言書には、以下の内容を記載しましょう。
- 相続人の指定: 誰にどの財産を相続させるかを明確に指定します。
民法で定められた法定相続分とは異なる割合で相続させることも可能です。 - 遺産分割方法: 財産をどのように分割するかを具体的に記述します。
例えば、不動産を共有にするのか、特定の相続人に相続させるのか、売却して代金を分割するのかなどを決めます。 - 遺言執行者の指定: 遺言の内容を実現するための遺言執行者を指定します。
相続人の中から選ぶこともできますし、弁護士や司法書士などの専門家に依頼することもできます。 - 付言事項: 相続人へのメッセージや、財産の使い道についての希望などを自由に記述することができます。
以上を踏まえて遺言書のひな型をお示しします。ぜひ、注意点も含めて参考にしてください。
さらに遺言書の後半部分の付言事項や署名捺印までのひな型をお示しします。
今回ご相談のケースでは、長男、長女、次男それぞれの状況を考慮し、以下のような遺産分割方法を検討してみてはいかがでしょうか。
●長男: 自宅を相続させる。ただし、長女と次男に対して、それぞれ一定の金銭を支払うように条件を付けることで、公平性を保ちます。
●長女: 預貯金の一部を相続させる。生活の支えとなるように、まとまった金額を相続させることを検討します。
●次男: 株式と預貯金の一部を相続させる。将来の自立を促すために、資金を相続させることを考えます。
このように、それぞれの状況に合わせて相続財産を調整することで、子どもたち全員が納得できるような遺産分割を目指しましょう。
遺言書を作成するには遺留分や相続税に注意を
遺言書を作成する際には、以下の点に注意してください。
- 遺留分: 遺言の内容によっては、一部の相続人が遺留分を侵害される可能性があります。
遺留分とは、法律で定められた最低限の相続分で、兄弟姉妹がいる場合は、法定相続分の2分の1となります。これを侵害すると、その相続人から遺留分侵害額の請求をされる可能性があります。 - 証人の選定: 公正証書遺言や秘密証書遺言を作成する場合は、証人が必要となります。
証人には、利害関係のない、信頼できる成人2人を立てるようにしましょう。なお、この証人2人は公証役場で紹介していただくことも可能ですので、適当な方が周囲にいなくてもご心配は不要です。 - 遺言書の保管方法: 自筆証書遺言や秘密証書遺言は、紛失したり、改ざんされたりしないよう、適切な場所に保管する必要があります。
公正証書遺言であれば、公証役場で保管してもらえますので、安心です。 - 相続税:相続税が課税されることが予想されるケースでは、あらかじめ税務署に相談したり、税理士によるシミュレーションをお勧めしています。
その結果、遺言の内容を変更したり、相続税の納税資金についてもあらかじめ検討しておくことが可能となります。
遺言書の作成は、法律の専門知識が必要となる場合があり、複雑な手続きを伴うこともあります。そのため、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。
専門家は、相談者の状況に合わせて、適切なアドバイスやサポートを提供してくれます。
【まとめ】遺言は未来への手紙 – 遺言書に託す家族への想い
ご自身の死後、子どもたちが相続で揉めることなく、仲良く暮らしていくことを願う相談者様の気持ちがとてもよく理解できました。
遺言書はその願いを実現するための有効な手段です。
子どもたちそれぞれが、あなたの愛情を感じ、感謝の気持ちを持って、未来に向かって歩んでいけるように、心を込めて遺言書を作成してください。
遺言書の作成は決して簡単なことではありません。法律や手続きについて、専門的な知識が必要となります。
例えば、今回のケースでは、長男に家を相続させる際に、他の子どもたちへの配慮として代償金を支払うという条件を付ける方法がありますが、その金額設定や支払い方法によっては、後々トラブルになる可能性もあります。
また、遺留分を侵害してしまうと、思わぬ争いに発展してしまう可能性もあります。
こうした問題を避けるためにも、相続に詳しい専門家、例えば弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。法律や手続きの面から、最適なアドバイスをしてくれるでしょう。
相続は、単に財産を分けるだけの問題ではありません。家族の絆、愛情、感謝…様々な感情が複雑に絡み合っています。遺言書の作成を通して、改めてご家族と向き合い、コミュニケーションを深めることで、より良い家族関係を築いていけることを願っています。
ご家族にとって最善の遺言書を作成するためにも、相続に詳しい専門家に相談することをお勧めします。
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(コラムは、相続でよくある質問をヒントにフィクションとして構成しています)
※ご注意※
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する具体的な法的アドバイスを提供するものではありません。具体的な法的アドバイスが必要な場合は、弁護士にご相談ください。
この記事の監修者:町田 哲志
代表 町田 哲志 司法書士
ブライト総合司法書士事務所は平成15年(2003年)に開設しました。
難解な法律や複雑な手続に不安を感じる方々が安心してご相談いただけるよう、ていねいな対応を心がけています。一人ひとりの状況に親身になって適切なアドバイスを提供することをお約束いたします。相続に関するお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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