相続でよくある悩みを人生相談として取り上げます。今回は、お子さんがいない長男に財産を相続させた後、次男に相続させる方法はあるのかという疑問に司法書士が答えます。
子どものいない長男への相続に不安。代々受け継いだ土地が長男の妻の家のものになるのは避けたい…
相談者:鈴木和夫さん(仮名・60歳)
私は、賃貸アパート1棟と自宅不動産を所有しています。子どもは長男(40代)と次男(30代)の2人です。
長年、長男夫婦と同居しており、不動産のほとんどを長男に相続させたいと考えています。しかし、長男夫婦には子どもがいません。長男が相続した後、長男が亡くなったら、長男の妻が不動産を相続することになると、最終的には長男の妻の家のものになってしまうのでしょうか……。
代々先祖から受け継いだ土地のため、できれば長男が相続した後は、子どもがいる次男に不動産を相続させたいのですが、私が遺言で「不動産は長男が相続した後は次男に相続させる」と書けば実現できるのでしょうか。
相談に回答してくれた専門家
司法書士法人つなぐ 松原事務所
代表 福田 超司法書士
ご相談いただきありがとうございます。
長男様に不動産を相続させたいものの、長男様の妻には相続させたくない、長男様の後は次男様に相続させたいというご希望ですね。
結論から申し上げますと、家族信託を活用することで、お客様のご希望に沿った相続を実現することが可能です。
目次
1.遺言では実現できない2次相続の財産承継には家族信託の活用を
遺言では、長男様の次の相続人を指定することはできません。
まず、遺言についてですが、遺言では長男様に不動産を相続させることはできますが、長男様の次の相続人を指定することはできません。
なぜなら、遺言は一次的な相続についてだけ効力があり、それ以降の相続について指定することはできないからです。
したがって、遺言で「長男の次は次男に相続させる」と定めても、法的な効力はありません。
長男様が亡くなった場合、お子様がいないため、長男様の配偶者と、次男の方が相続人となるため、長男の妻が不動産を相続する可能性もあります。
そこで、家族信託の活用をご提案します。
2.家族信託とは 生前から家族に財産の管理・処分を任せる契約
家族信託とは、財産の所有者(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を託し、あらかじめ定めた目的に従って財産を管理・運用する仕組みです。
家族信託は財産を託す人(委託者)、財産を管理・運用する人(受託者)、そしてその財産から利益を得る人(受益者)の三者で構成されます。
今回のケースでは、ご相談者の鈴木様が委託者、長男様が受託者、最初の受益者は委託者である鈴木様とします。
そして、信託契約には鈴木様が亡くなった後の受益者は長男様、長男様が亡くなった後には次男様とすることで、鈴木様のご希望に沿った財産の承継が可能になります。
家族信託契約を結ぶメリット
家族信託を活用することで、以下のメリットが期待できます。
- 二次相続以降の承継先を指定できる:家族信託では、信託契約の中で、二次相続以降の承継先を自由に指定することができます。今回のケースでは、長男様の次は次男の方に不動産を承継させることが可能です。
- 財産の管理・処分を柔軟に行える:家族信託では、受託者(今回のケースでは長男)が、信託契約で定められた範囲内で、柔軟に財産の管理・処分を行うことができます。例えば、賃貸アパートの管理・運営や、修繕・建て替えなども、長男様の判断で行うことができます。
- 認知症対策にもなる:将来、不動産の所有者である鈴木様が認知症などで判断能力を失ってしまった場合でも、家族信託契約を結んでおけば、長男様が引き続き財産の管理・処分を行うことができます。
家族信託契約を結ぶ際の注意点
一方で、家族信託には注意点もあります。
- 信託契約の内容を慎重に検討する:信託契約は、財産の承継や管理・処分に関する重要な取り決めです。専門家と相談しながら、慎重に内容を検討する必要があります。
- 信託財産の管理・運営には、一定の責任が伴う:受託者(今回のケースでは長男様)は、信託契約で定められた義務を履行する必要があります。財産の管理・運営には、一定の責任が伴うことを理解しておく必要があります。
3.家族信託契約を結ぶ手続きの流れ
家族信託の手続きは、以下の流れで進めるのが一般的です。
- 専門家への相談:家族信託に詳しい弁護士や司法書士などの専門家に相談し、家族信託の設計や契約内容についてアドバイスを受けます。
- 信託契約書の作成:専門家と相談しながら、信託契約書を作成します。信託契約書には、信託の目的、信託財産に含まれる財産の範囲、受託者の権限、受益者の権利などを明確に記載します。
- 信託契約の締結:委託者(鈴木様)、受託者(長男様)、受益者(鈴木様)とする信託契約を締結します。
- 信託財産の名義変更:不動産などの信託財産を受託者名義に変更します。
- 信託財産の管理・運営:受託者(長男様)が、信託契約で定められた内容に従って、信託財産の管理・運営を行います。
4.まとめ 家族信託の相談は経験が豊富な専門家に相談を
大切な財産を次の世代に確実に引き継ぎたいというお気持ちは家族信託で解決できる場合があります。
家族信託は、柔軟な財産承継を可能にする有効な手段です。
遺言では叶えられない、二次相続以降の指定や、財産管理の細やかな設定も実現できます。
家族信託は相続登記などと違い、司法書士や弁護士であれば必ず取り扱っているわけではありません。また、実績が豊富な専門家が限られていることから、事前に相談をしたうえで十分な経験がある専門家に依頼するといいでしょう。
* * * * *
(コラムは、相続でよくある質問をヒントにフィクションとして構成しています)
※ご注意※
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する具体的な法的アドバイスを提供するものではありません。具体的な法的アドバイスが必要な場合は、専門家にご相談ください。
この記事の監修者:福田 超(ふくだ・まさる)
代表 福田 超 司法書士
司法書士法人つなぐ 松原事務所(旧宮本・福田司法総合事務所)は、大阪府松原市役所のすぐそばにあります。
開業してから50年以上の歴史があり、相続の相談件数は累計10,000件以上、年間300件以上受任している実績のある事務所です。
ホスピタリティあふれる対応でお客様に寄り添った最善の解決方法を提案することを心掛けています。
福田司法書士が所属する司法書士法人つなぐ 松原事務所のページはこちら