ペットに遺産を相続させたい 残されたペットの世話を託す「ペット信託」と「負担付き遺贈」の違い

更新日:2025.05.01

ペットに遺産を相続させたい 残されたペットの世話を託す「ペット信託」と「負担付き遺贈」の違い

相続にまつわる悩みに専門家が答えます。今回は夫が亡くなった後、ペットを飼い始めた女性の相談です。ペットより先に自分にもしものことがあったら、残されたペットの世話はどうするべきかと不安になった方の相談です。

私にもしものことがあったら、愛犬ショコラはどうなるのでしょうか…

相談者:田辺和子さん(仮名・68歳)

10年前、夫に先立たれてから飼い始めた愛犬のショコラ(トイプードル・6歳)と二人暮らしです。

ショコラは私にとっては家族も同然で、生活の支えになっています。でも、自分の年齢や健康のことを考えると、もしもの時にショコラが心配です。
ペットに遺産を相続させたいと思っています。その遺産を使ってショコラを誰かに世話をしてもらうことはできるのでしょうか? 
私たち夫婦には子どもはいません。姪っ子がいますが、遠方に住んでおり、それほど近い関係でもなく、ショコラを託しても世話をしてくれるかどうか分かりません。

相談に回答してくれた専門家

司法書士・行政書士 郡谷事務所
代表 郡谷優子司法書士

法律上ペットは「物」 相続人にはならない

法律上、ペットは「物」として扱われます。そのため、私たち人間のように相続する対象にはなりません。つまり、ショコラに財産を相続させることはできないのです。また、物として扱われるからといって、ペットを誰かに相続させる対象でもありません。

アメリカでは多くの州でペットへの一定の財産の相続が認められています。諸外国では、日本よりも早くから“Animal Rights(ペットの権利)”という考え方が定着していますが、日本ではまだまだ遅れています。

しかし、ペットが相続できると言っても、ペットが自分でエサを買ったり自分だけで生活できるわけではありません。この場合も、日本と同じように、信託や遺言を併用し、その後の飼育の事を定めておくことが多いようです。

ペットの世話を託す「ペット信託」と「負担付き遺贈」の検討を

ご安心ください。ペットのためにできることはあります。大きく分けて、「ペット信託」「負担付き遺贈」という2つの方法があります。

両者の違いはペット信託は「生前に準備するもの生きているうちから利用できるもの」で、負担付き遺贈は「亡くなった後、遺言で託す」点が大きく異なります。

ご自身の年齢を気にしてペットを飼えないと考えている方も多く見受けられます。また、ペットショップによっては、〇歳以上の方はお子さんと一緒に買いに来なければ売りませんというお店もあります。

でも、これから説明するような制度がありますので安心して迎え入れる気持ちになって頂けるかもしれません。

ペット信託とは

ペット信託とは、信頼できる人にペットの世話や飼育に必要な財産を託す方法です。

信託銀行や信託会社などに依頼する方法もありますが、Aさんの場合は、姪っ子さんを信頼できる方として、ショコラの世話を託し、飼育費用としてある程度の財産を残すという方法が考えられます。

負担付き遺贈とは

負担付き遺贈とは、遺言で誰かに財産を譲る際に、同時にペットの世話を条件としてつける方法です。

例えば、「姪っ子に自宅と預貯金を相続させる代わりに、ショコラの世話を最後までしてくれるなら」という条件付きで遺言を作成することができます。

負担付き遺贈をするには、遺言書を作成する必要があります。遺言書には、「ショコラの世話をすること」という条件と、姪っ子さんに渡す財産を明確に記載します。

さらに、ショコラの世話の内容(食事、散歩、病院への連れていく頻度など)を具体的に書いておくことも大切です。

◇ペットを託す方法のメリットとデメリット
依頼する方法 メリット デメリット
ペット信託 ペットの生涯の世話と費用の確保ができる
飼い主の病気やケガなど、生前の緊急事態にも備えられる
信託費用がかかる
信頼できる受託者を見つける必要がある
負担付き遺贈 遺言書に具体的な世話の内容を記載できる 受遺者が世話を放棄する可能性がある
飼育費用が不足する可能性がある
動物愛護団体等への依頼 ペットの世話の負担がない ペットが新しい環境に慣れる必要がある
希望団体に引き取ってもらえない恐れがある
友人・知人への依頼 信頼できる人に直接頼める 飼育費用などの負担を強いる可能性がある

遺贈に欠かせない遺言書

財産を遺贈するには、遺言書を用意する必要があります。遺言書には主に、自筆証書遺言、公正証書遺言があります。ご自身で書く自筆証書遺言は費用がかかりませんが、形式に不備があると無効になってしまう可能性があります。

公正証書遺言は公証役場で作成するため費用はかかりますが、法律の専門家が作成に関与するため、安心で確実です。Aさんのようにペットの世話など、複雑な条件を付ける場合は、公正証書遺言で作成することをお勧めします。

公正証書遺言を作成するには、公証役場へ行き、遺言の内容を伝え、証人2人以上の立会いのもとで公証人に遺言書を作成してもらいます。作成された遺言書は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。

負担付き遺贈の注意点

負担付き遺贈の場合、姪っ子さんがショコラの世話を引き受けてくれるかを確認しておくことが重要です。

また、ショコラの飼育費用がどのくらいかかるのかを事前に調べておき、遺言書に記載する財産とバランスが取れているか検討する必要があります。

ペット信託のメリット・デメリット

  • 仕組み:飼い主が信頼できる人(受託者)にペットの世話と飼育に必要な財産を託し、ペットと財産の管理・運用を任せる制度です。場合によっては、金銭管理のみを頼み、飼育自体は各種団体等のプロに任せることも出来ます。
  • メリット:生前に準備ができるので、飼い主が元気なうちにペットの将来を託すことで安心できます。信託する内容を自由に決められるので、ペットの世話の仕方や財産の使い道を細かく指定できます。

    信託監督人を置くことで、受託者がきちんとペットの世話をしているかどうかをチェックできます。

  • デメリット:信託費用がかかります。ペットと財産を託せるような信頼できる受託者を見つける必要があります。

負担付き遺贈のメリット・デメリット

  • 仕組み:遺言で誰かに財産を譲る際、「ペットの世話をすること」を条件として財産を相続してもらう制度です

  • メリット:遺言書に具体的な世話の内容を記載できます。
  • デメリット:遺言で指定された受遺者が、世話を拒否する可能性があります。ペットの飼育費用が不足する可能性があります。

ペット信託と負担付き遺贈のどちらを選ぶか

   どちらの方法が良いかは、飼い主の状況や希望によって異なります。

  • ペット信託: 生前にしっかりと準備しておきたい方、ペットの世話や財産の使い道を細かく指定したい方に向いています。
  • 負担付き遺贈: 費用を抑えたい方、確実にペットを預かってくれる信頼できる受遺者がいる方に向いています。

    ペットの将来を真剣に考えている方は、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、ご自身に合った方法を選択することが大切です。ペット信託も負担付き遺贈についての相談は、相続の専門家である弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。

    また、税金の面で問題が出てくる場合もありますので、経験豊富な専門家に頼むのが良いでしょう。

    何よりペットの幸福を最優先に考え、その中で現在の法制度や上記のような制度の枠に当てはめていくことが重要です。

まとめ ペットの行く末を考えることも終活の一つ

ペットは法律上「物」として扱われるため、相続の対象にはなりません。しかし、ペット信託や負担付き遺贈といった方法で、ペットの将来を託すことができます。

亡くなった後ではなく、飼い主が急な病気やケガでの入院・認知症になった場合のリスクまでカバーできるのは、ペット信託だけです。遺言はあくまでも亡くなった後の話になります。

また、財産の全てを託す必要は全くなく、必要と思われる分のみを託すことも出来ます。(それ以外の分は本来の相続人が受け取ることが出来ます。)

ペットも天寿を全うした後に託したお金が余っていたら、世話をしてくれた人や施設・ペット関連の慈善団体に贈与・寄付するといったことも決めておくことができます。

特に、負担付き遺贈は、遺言でペットの世話をすることを条件に財産を譲る方法です。遺言書には、世話の内容や財産を明確に記載することが重要です。

公正証書遺言で作成することで、より確実な遺言書を作成することができます。ただ、ペット信託と違い、ペットの飼育状況や金銭管理状況を監督する人がいないため、生前の約束を反故にされる可能性はあります。

ペットの将来が不安な方は、この記事を参考に、専門家へ相談するなどして、早めに対策を検討することをお勧めします。

それぞれペットの特性も寿命も違いますし、飼い主の事情も違います。中にはペット信託と遺言を併用した方が良い方もいらっしゃいます。思いを実現するためにどんな手続きが必要かを見極めるのは専門家の役割であると思っています。みなさんが病気になった時に、即座に手術が必要なのか飲み薬で治るのか判断できないのと同じです。

どの手続きを利用したいかではなく、どんなことが心配なのか、どんなことを頼みたいかといった「飼い主の想い思い」を伝えることがとても重要です。

ペットと飼い主の両方の思いをくみ取ったうえでアドバイスが出来る専門家はまだ多くありません。また、相談する専門家にペットへの愛情があるかで契約書の提案内容も変わってきます。ペットが家族であるということに理解のある専門家であることが大切です。じっくりと信頼の出来る専門家を選びましょう。

(コラムは、相続でよくある質問をヒントにフィクションとして構成しています)


この記事の監修者:郡谷 優子 (こおりたに ゆうこ)

司法書士・行政書士 郡谷事務所

代表 郡谷優子司法書士

郡谷優子司法書士

郡谷 優子 (こおりたに ゆうこ)
司法書士・行政書士・愛玩動物飼養管理士

横浜市鶴見区に事務所を構える司法書士・行政書士事務所で、ご相続・遺言・家族信託を中心とした、ご家族のお悩み解決に特化している事務所です。ご家族には勿論ペットも含まれます。一生に何度もあることではないご相続手続きや、亡き後についてのご不安など、お客様一人ひとりの状況に寄り添い、分かりやすく丁寧な説明を心掛けております。まずはお話をじっくり聞き、適切な法的アドバイスをすることで、相続や生前対策に力を入れて取り組ませて頂いております。

司法書士・行政書士が所属する郡谷事務所のページはこちら

 

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