相続でよくある悩みを人生相談として取り上げます。今回のお悩みは、再婚相手の連れ子は相続人になるのか、という不安について、司法書士法人ハヤブサ法務事務所の代表、山内大輔司法書士がお答えします。
相談者: 川崎一郎さん(仮名・56歳)
3年前に再婚し、今は妻(40代)と妻の連れ子である翔太(仮名・10歳)と3人で暮らしています。
翔太は明るく素直な子で、私を実の父親のように慕ってくれています。
再婚を機に自分の相続について真剣に考えるようになりました。
私は、翔太のことも我が子同然に思っているので、彼にも財産を残してあげたいと考えています。私には前妻との間に子どもが2人います。すでに成人して家を出ています。
もし、私が翔太にも相続させたいと希望した場合、子どもたちに反対されるのではないかと心配です。再婚相手の連れ子に財産を相続させることはできるのでしょうか?
また、ほかの子どもたちに反対された場合はどうすれば良いのでしょうか?
相談に回答してくれた専門家
司法書士法人ハヤブサ法務事務所
代表 山内大輔司法書士
目次
再婚しただけでは、連れ子は相続人にはならない
連れ子である翔太くんを我が子のように思っていらっしゃる川崎様のお気持ち、大変素晴らしいですね。
さて、ご質問の「連れ子への相続」についてご説明します。
まず押さえておきたいのは、再婚相手に連れ子がいた場合、法律上、再婚しただけでは相手の連れ子は再婚相手の法定相続人にはなりません。
ご注意いただきたいのは、川崎さんが再婚相手との間に子どもが生まれた場合です。
再婚後に生まれた子どもは川崎さんの実子なので、当然、法定相続人になります。
つまり、翔太くんに対して何もしなければ、妻の連れ子である翔太くんと、そのあとに生まれた子どもはきょうだいでありながら、川崎さんの相続する権利の有無で大きな差が出てしまうのです。
連れ子に財産を相続させる3つの方法
川崎様のように再婚した相手の連れ子を相続人にする場合には、主に以下の3つの方法があります。
1. 遺言書を作成する
遺言書を作成して、翔太くんに財産を相続させる旨を明記する方法です。遺言書は、ご自身の財産をどのように処分するかを自由に決めることができます。
法定相続人以外の人、今回の翔太くんのように血縁関係のない方にも、財産を相続させることができます。厳密には、翔太くんと川崎さんが養子縁組をしていない状態で財産を相続させる場合、相続ではなく遺贈として扱われます。
遺言書には、主に自分で書く「自筆証書遺言」と、公証人役場へ行き遺言の内容を公正証書にする「公正証書遺言」があります。
どちらの遺言でも翔太くんに財産を相続させる内容を残すことはできますが、実子ともめる可能性がある恐れがあるのであれば、公正証書にしておくことをお勧めします。
遺言書作成する際のポイント
- 翔太くんへの相続割合を明確に: 翔太くんに相続させる財産の割合を具体的に書きましょう。
例えば、「預貯金の半分を、翔太に相続させる」のように明記します。 - 相続させる財産を特定: 「自宅」「車」「預貯金口座番号」など、相続させる財産を具体的に特定することで、実際に相続が発生した後のトラブルを防ぎます。
- 付言事項: 翔太くんへの想いや、ご自身の家族へのメッセージなどを添えることで、遺言書に法的拘束力以上の重みを与えることができます。
- 遺言執行者: 遺言の内容を実現する遺言執行者を指定しましょう。相続人を指定することも可能ですし、信頼できる友人や相続の専門家などに依頼することもできます。
2. 養子縁組をする
翔太くんと養子縁組をすることで、法律上も親子関係となり、実子と同じ相続権を与えることができます。ただし、養子縁組をする場合には翔太くんの実親の同意が必要となります。
養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類の制度があります。
- 普通養子縁組:実の親との親子関係を維持したまま、養親と親子関係を結ぶ制度です。子は実親と養親の両方の相続権を持つことができます。
- 特別養子縁組:実の親との親子関係を解消して、養親との親子関係を結ぶ制度です。相続の面では、実の親の相続権はなくなり、養親の法定相続人になります。ただし、子の年齢が15歳未満であること及び家庭裁判所の審判が必要です。
養子縁組のポイント
- 翔太くんの実親の同意: 養子縁組には、翔太くんの実親の同意が必須です。
実親との関係性や、翔太くんの気持ちを尊重し、十分に話し合いましょう。 - 翔太くんの戸籍: 翔太くんの戸籍は、川崎さんの戸籍に入ることになります。
- 相続: 養子縁組が成立すると、翔太くんは川崎さんの法定相続人となり、実子と同じ相続権を持ちます。
- 扶養義務: 川崎さんには、翔太くんを扶養する義務が生じます。
3. 生命保険を活用する
生命保険の受取人を翔太くんにする方法です。生命保険金は、受取人固有の財産となり、遺産分割の対象にはなりません。そのため、相続する段階でご自身の家族に反対されることなく、翔太くんに確実に財産を残すことができます。
実子から反対された場合の対応
まず、前提として押さえておきたいのは、川崎さんの財産はご自身の意思で自由に処分することができるという点です。
遺言書を作成しておくことで、ご自身の意思を明確に遺すことができますし、相続発生後のトラブルを未然に防ぐこともできます。
実子である前妻との子どもたちから反対されたとしても、法的に有効な遺言書があれば、その内容に従って遺産分割が行われます。
また、養子縁組を結べば、翔太くんは法的にも相続人になります。実子との関係性にもよりますが、なるべく生前のうちに子どもたちにも川崎さんの思いを伝えることで、いざ相続する段階になっても、争いを防ぐことができます。
ぜひ、今のうちから子どもたちとコミュニケーションを取る時間も大切にしてください。
そのほかに注意するべきこと
相続する権利だけでなく、そのほかにも注意していただきたい点をまとめます。
- 相続税: 翔太くんに相続させる財産が多い場合は、相続税が発生する可能性があります。事前に税理士に相談するなどして、相続税対策を検討しておくことをお勧めします。
- 遺留分: 例えば「翔太くんに全財産を相続させる」といった遺言書を作成したとしても、実子から遺留分を請求される可能性があることは注意をしなくてはいけません。
遺言書を作成する際は、相続の専門家にご相談することをお勧めします。
監修者からのアドバイス
川崎様の場合、翔太くんはまだ10歳ですので、まずは再婚した配偶者の方とよく話し合ったうえで、翔太くんの思いも聞いて養子縁組をすることをご検討ください。
養子縁組をすることにより実子と同じ相続権を発生させることが出来るため、遺言書を作成しなくても翔太くんに財産を相続させることが可能になりますが、遺言書がない場合は川崎さんの死後、相続人全員で川崎さんの財産をどのように分配するかの話合いを行い遺産分割協議を成立させる必要があります。
一般的に前妻との間の実子と再婚相手との養子が交流をもっているケースは稀ですので、遺産分割がスムーズにいかない事が予想されます。そのため、養子縁組をしたとしても、養子縁組をしない場合でも、やはり遺言書を作成されることをお勧めします。
相続は、ご家族の状況やご自身の希望によって、最適な方法が異なります。専門家にご相談いただくことで、よりスムーズに手続きを進めることができますので、お気軽にご相談ください。
(コラムは、相続でよくある質問をもとにフィクションとして構成しています)
この記事の監修者:山内 大輔(やまうち・だいすけ)
司法書士ハヤブサ法務事務所 代表司法書士
司法書士ハヤブサ法務事務所は滋賀県にて地域密着・小規模事務所ならではのきめ細かい、またお客様それぞれに合わせたオーダーメイドのサービスの提供を心掛けた事務所です。
登記業務だけではなく包括的な財産承継の手助けをする遺産承継業務および生前の相続対策にも注力しております。人生で誰しもが直面する相続という難題に対し分かりやすく丁寧な対応を心掛けておりますので是非お気軽にご相談頂ければと思います。
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