死後事務委任とは 依頼できる内容や依頼先、検討するべき人 必要な費用を専門家が解説

更新日:2025.02.06

死後事務委任とは 依頼できる内容や依頼先、検討するべき人 必要な費用を専門家が解説

人が亡くなった後の遺体の引き取りや搬送から、葬儀や埋葬、遺品整理、医療費などの支払いなどを第三者に依頼する契約を「死後事務委任契約」といいます。

死後事務委任契約で委任できる内容や契約をするべき人、誰に頼むべきかについて、死後事務委任に詳しい吉村行政書士事務所代表の吉村信一行政書士に聞きました。

死後事務委任契約とは 死後の手続きを依頼する契約

死後事務委任契約とは、自分が亡くなった後、病院などからの遺体の引き取り、葬儀、埋葬、遺品整理など、死後のあらゆる手続きをあらかじめ依頼する契約のことをいいます。この記事では、死後事務委任契約を頼む人を「依頼者」または「委任者」、引き受ける人を「代理人」または「受任者」と言います。

吉村行政書士によると、身寄りがなく、死後の手続きをする人がいないまま亡くなると、行政のルールにしたがって火葬など、遺体の処理に関する手続きはされますが、遺品の整理などはしてくれません。

吉村行政書士は「賃貸住宅に住んでいたら、家主や不動産会社に多大な負担をかけることになります。死後事務委任契約を結んでおくことで、周りの方へ迷惑をかけないよう備えておくことができます」と言います。

死後事務委任契約でできること

死後事務委任契約は、多くの場合、親族以外の第三者に頼みます。死後事務委任契約について、主な内容を紹介します。

遺体の引き取り、搬送の手配

病院や施設などで亡くなった場合に、遺体を引き取り、自宅や葬儀場などへ搬送する手配をします。病院の医師から死亡診断書の受け取りもします。

容体が急変した際に、病院から代理人へ連絡してもらえるよう、死後事務委任契約を締結していることを伝えておきます。病院や施設では、入院・入所する際に身元引受人を求めることが多く、亡くなった際にまずは身元引受人に連絡が入ります。このため、代理人には入院・入所の際の身元引受人としても依頼するケースが多いようです。

死亡診断書の受け取り

病院で遺体を引き取る際、病院から死亡診断書を受け取ります。死亡診断書の用紙は死亡届と対(ワンセット)になっています。

死亡届には「届出人」を記入する欄がありますが、届出人として記入できる人は法律で指定があり、死後事務委任契約を結んでいるだけでは、代理人に届出人になってもらうことができません。このため、代理人に届出人になってもらう場合は、任意後見契約も併せて契約しておく必要があります。

任意後見制度について詳しくは、別の記事で解説しています。
「任意後見制度とは?【老後の備えに】|任意後見制度の仕組みを解説」

葬儀などに関する手続き

代理人は、亡くなった契約者本人の葬儀や火葬の手配をします。葬儀には「喪主」としての役割を担います。依頼者の希望にかなう葬儀の実施や手続きも含みます。

行政手続きに関する対応

死亡届を提出するほか、マイナンバーカードやパスポート、障害者手帳ほか各種受給者証の返納、未払の住民税や固定資産税の納付などの行政機関に関する手続きを代理人が行います。

契約やお金に関する手続き

依頼者が借りていた賃貸住宅などの賃貸契約の解約や、公共料金の支払い、クレジットカードの解約など、日常生活に関わる契約の整理を行います。

また、死後事務委任契約と併せて遺言書を作成し、代理人を遺言執行者に指定しておくことで、銀行預金の解約・払戻しや所有している不動産の売却や名義変更、残った遺産の処理(相続人への分配や自治体・慈善団体等への寄附など)を任せることもできます。

友人や知人への連絡

親族や友人、勤務先など関係機関へ委託者が亡くなったことの通知のほか、通夜や葬儀への参列案内などの連絡をします。

遺品の整理

家財道具や個人の持ち物の整理、不用品の処分、遺品の配分などを行います。デジタル遺品(SNSアカウント、メールアカウントなど)の整理も含まれます。

死後事務委任契約で依頼できないこと

死後事務委任は、葬儀や遺品整理、役所への届出など、死亡後の事務的な手続きを円滑に行うための手段ですが、相続に関わることは依頼できません。このため、先に紹介したように遺言書も作成しておき、相続手続きについても対策をしておくことが一般的です。

死後事務委任契約でできること

死後事務委任契約を考えておきたい人

死後事務委任契約を検討しておきたい人とはどんな人なのでしょうか。

吉村信一行政書士吉村行政書士は「依頼者の中には、たとえ相続人がいても疎遠であることを理由に死後事務委任契約をしたいという方が少なくありません。『もしもの時、頼れる人がいますか?』と聞かれた時、すぐに誰かを思い浮かばない場合には、死後事務委任を検討してみるといいでしょう」といいます。

相続人がいないおひとりさま

独身で配偶者や子どもがおらず、亡くなった後の手続きを担ってくれる信頼できる人が身近にいない「おひとりさま」は、死後事務委任を検討しましょう。

死後事務委任契約を結んでおけば、遺品整理や葬儀手続き、行政手続きを確実にしてもらうことができます。また、自分の意思を伝えておけば、希望通りの手続きをしてもらえます。

家族や相続人に依頼できない人、疎遠になっている人

子どもがおらず、高齢の夫婦だけで暮らしている場合、死後の手続きの負担を高齢の配偶者に追わせたくない場合にも、死後事務委任を検討しましょう。配偶者の負担を軽減することができます。

また、子どもら家族がいても疎遠になっていたり、絶縁状態になっていたりする人も、死後事務委任を使うことで円滑に手続きを進めることができます。普段、連絡を取り合っていない親族に負担をかけないためにも、死後事務委任契約を締結しておくことが重要です。

内縁関係や同性のパートナーがいる人

相続の手続きをするうえで配偶者は、法律婚をしていることが前提です。内縁関係や同性カップルの場合、パートナーが死後の手続きをしても認められない場合があります。

死後事務委任契約を結ぶまでの流れ

死後事務委任契約を結ぶまでの流れを紹介します。自分がどんな手続きをして欲しいのかを検討しながら進めましょう。

依頼内容を決める

自分が死後、どんな事務を任せたいのか検討します。たとえば、葬儀の手配や財産の管理など、具体的な内容を整理します。
死後事務委任契約の大まかな内容は以下の通りです。

  • 行政への死亡の手続き
  • 火葬の手配、葬儀、埋葬
  • 遺品の整理
  • 公共料金やカードなどの精算と解約手続き
  • 遺産相続の手続き

死後事務委任契約を結ぶ代理人を決める

死後事務を任せる代理人を決めます。家族や友人など、信頼できる人がいない場合には、弁護士や司法書士、行政書士ら相続の専門家のほか、社会福祉協議会やNPO法人などでも死後事務委任を引き受ける団体があります。

吉村信一行政書士のアドバイス
各専門家や団体によって対応できるサービスの内容や、料金体系が異なります。
複数の専門家・団体に資料請求をしたり、事前相談をしたりして比較検討することが大切です。

また、遺体の引取りなどの現地対応があるため、サービスエリア(対応可能な地域)の確認も重要です。

法律の専門家に相談する

死後事務委任契約を結ぶ際には、契約書を作成します。内容については、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に相談して、契約内容について適切かどうか、法的に問題がないかどうか確認してもらいましょう。

契約書を作成する

委任する内容を決めたら、契約書を作成します。依頼したい契約内容がしっかりと契約書に盛り込まれているか、確認しましょう。

吉村信一行政書士のアドバイス
契約する際に忘れてはならないのが、契約解除の条件に関する規定です。

「契約をしたけれど、やっぱり受任者の対応が合わないので、契約を解除したい」というケースも想定されます。違約金の有無など、契約解除にあたっての条件を確認しておくことが重要です。

特に、執行費用(必要経費)を預託金方式で管理する契約の場合、契約を解除した場合でも、預託金がきちんと返還されるのか、預託金の管理体制がどうなっているかなども確認することが重要です。

契約書を公正証書化する

作成した契約書を公証役場で公正証書にします。

法的には、必ず公正証書にすることが求められているわけではありませんが、吉村行政書士は「公正証書は、公証人が、本人の意思確認を行ったうえで作成する公文書ですから、死後に相続人との間でトラブルが起きることを防止する機能が期待できます。特に、葬儀の方法や遺骨の処理(埋葬や散骨など)のデリケートな内容についてはクレーム・トラブルが起こりやすい項目なので、公正証書で作成しておくことが望ましいです」といいます。

死後事務委任契約で代理人となる人に依頼する

死後事務委任契約を結ぶ代理人は誰でも構いません。無償で友人や親戚に依頼するケースもあれば、専門家や社会福祉協議会、NPO法人などに依頼するケースもあります。

  • 友人や親戚など
  • 弁護士や司法書士、行政書士ら相続の専門家
  • 社会福祉協議会
  • NPO法人

死後事務委任契約にかかる費用

死後事務委任にかかる費用は、委任する手続きの内容によって異なります。吉村行政書士が代表を務める吉村行政書士事務所の料金を例に紹介します。

  • 契約書作成:27万5,000円(遺言書作成費用を含む)
  • 葬儀・火葬の手続き:10万円+葬儀や火葬にかかる実費
  • 入院費の精算:2万円+実費
  • 住居内の遺品整理:5万円+不用品引き取りの実費
  • 公共料金の解約:1契約ごと2万円
  • 関係者への死亡通知:1件ごと1,000円

このほかにも、遺言執行費用として財産額に応じて費用がかかります。

吉村行政書士は「一般的な死後事務の手続きの場合、ご遺体の搬送から埋葬、遺品の整理や様々な死後の手続きをすると費用の総額はおおむね250~300万円かかります」といいます。

死後事務委任契約のメリットと注意点

死後事務委任契約のメリット

自己責任で完結できる:死後に親族や周囲の人に迷惑をかけることなく、スムーズに手続きを進めることができます。

遺族の負担軽減できる:遺族に負担がかかりがちな葬儀や役所での手続きなどを委任することで、心理的・物理的な負担を軽減できます。

いざという時に頼れる存在がいる安心感:近くに親族がいない場合や、独身の方にとっては、信頼できる人に死後の事務を委任することで、適切な対応が取られる安心感が得られます。

自分の意思の尊重:生前に自分の希望を伝えておけば、それを実行してもらえるため、自分の意志が尊重されます。

死後事務委任契約の注意点

費用が高額:死後事務委任契約は自己資金で死後の備えをするもので、公的な補助のない「自助」の仕組みです。このため、葬儀代や遺品整理にかかる費用や代理人に対する報酬などを契約時に一時金で用意する必要があり、貯蓄や収入が少ない人にとって利用することが難しいサービスです。

信頼性の問題:委任する相手が信頼できる人でないと、トラブルが発生するリスクがあります。委任先の選定が重要です。

契約内容の適切な管理が必要:生前に契約内容をしっかり確認し、定期的に見直す必要があります。状況が変わったときにでも、対応できるのか。

吉村信一行政書士のアドバイス
受任者の対応エリアについては、病院など「亡くなった場所へ駆けつける」ことが前提です。受任者のサービス展開エリアと依頼者の居住地がマッチしている必要があります。

このため、エリア外に転居する場合には契約解除になる可能性があります。また、自宅から離れた旅行中など、国内の遠隔地や海外で亡くなった場合でも対応してもらえるのか、といった点も受任者によって異なるので注意が必要です。

死後事務委任契約を結ぶための注意点

死後事務委任契約は、まだそれほど利用する人が多くない契約であり、自分が亡くなった後になって始まる手続きをする契約です。死後、代理人と相続人らとの間でトラブルにならないようにする必要があります。死後事務委任契約を結ぶための注意点をまとめました。

委任したい内容を明確にする

死後事務委任契約に基づいて、代理人が事務をしてもらうところを自分は見ることができません。死後事務委任契約を結ぶ際には、どんな手続きを、どこまでしてもらうのかをはっきり決めることが重要です。

例えば、葬儀ではどんな葬儀をするのか、誰を呼ぶのか、遺品の整理は、誰かに譲るものがあるのか、不用品はどのように処分するのかなど、具体的に決めておく必要があります。

信頼できる代理人を選ぶ

死後の事務を任せる代理人は、信頼のおける人や団体に依頼することが重要です。親族や弁護士、専門の団体などを選ぶ場合でも、過去の実績や信頼性を確認することが重要です。

必要な費用と支払いが適正か見極める

契約に基づき事務を行う代理人に支払う報酬がいくらなのかを契約時に明確にしておくことが必要です。また、依頼する手続きの内容によって費用が異なるため、見積もりをとることも重要です。

事業者の多くが生前に預託金を支払う仕組みです。多額の資金を死後事務委任契約で支払ったために、老後の資金が不足するということにならないように注意しましょう。

遺言書との整合性

死後事務委任契約を締結する際、遺言書も作成することが一般的ですが、どちらも死後の手続について取り決めたものなので、相互の内容に齟齬が生じると、相続手続やその他の事務に支障が生じる可能性があります。弁護士や司法書士、行政書士ら相続の専門家に相談して契約内容と遺言書の内容が矛盾しないようにしておきましょう。

死後事務委任は安心して生活するための下支え

おひとりさまや、夫婦だけの世帯であるおふたりさまの増加に伴って、死後事務委任契約を考える人が増えています。たとえ相続人となる人がいても、「死後の手続きを頼みづらい」という理由から検討する人もいるようです。

ただし、死後事務委任契約はサービスを提供する事業者もそれほど多くない契約です。死後、自分がのぞんだ通りにスムーズに手続きを済ませるためにも、代理人となる受任者選びは慎重にする必要があります。

吉村行政書士は「積極的に終活をする人が増え、自分の人生の幕の引き方を考えて死後事務委任契約をする人が増えてきました。死後の備えをすることは、決してネガティブなことではなく、残りの人生を安心して、充実させることにもつながります」といいます。

死後事務委任契約を検討している場合には、弁護士や司法書士、行政書士ら相続の専門家にまずは相談してみることをお勧めします。

 

 

この記事の監修者:吉村 信一(よしむら・しんいち)
吉村行政書士事務所
行政書士・ファイナンシャルプランナー(AFP)

 

吉村信一行政書士

死後事務委任契約に詳しい専門家の一人。主な著書に『死後事務委任契約の実務(第3版)おひとりさま終活業務の手引き』(税務経理協会)、『おひとりさまの死後事務委任』(税務経理協会)があります。

吉村行政書士が代表を務める吉村行政書士事務所のページはこちら

 

 

 

 

 

この記事の執筆者:つぐなび編集部

この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
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