長期休暇に実家に帰省するタイミングは、将来の相続について家族で話し合うよい機会です。特にお盆には、墓参りなどでお墓や仏壇、親の相続などの話題もしやすい時期です。相続について親子で話し合っておくべき内容や注意点を司法書士事務所神戸リーガルパートナーズの井上佐知子司法書士が解説します。
目次
相続の家族会議の目的 「家族が末永く続くため」
相続について親が元気なうちに話し合っておこうと、実家に帰って家族団らんの中、いきなり「父さんが亡くなったら、財産はどうする?」などと聞けば、親は「俺にそんなに早く死んでほしいのか!」などと言われ、コミュニケーションが取りづらくなってしまいます。
親子で相続について話し合うために、親に切り出す前に話し合う目的や、決めたいことは何かをはっきりさせておくようにしましょう。兄弟姉妹がいる場合には、あらかじめ子どもたちだけで話し合っておくのもいいかもしれません。
相続についての家族会議というと「親が亡くなった後、遺産を誰がもらうのか」ということに焦点をあてがちですが、目的は「親が亡くなった後に相続トラブルを防ぐため」であり、同時に「両親が亡くなった後も家族が仲良く集まる関係で居続けること、家族が末永く続くため」であることをしっかりと伝えることが重要です。
家族会議の準備 相続人が集まり、相続人以外は呼ばない
家族会議を開くための準備をしましょう。まずは、日程と集まる人を明確にするとともに、会議の目的もはっきりさせましょう。家族で話し合っておくことをテーマごとにまとめています。一度の話し合いですべて決める必要はありません。大事なのは、相続や将来への備えについて何度も話し合えるうちに、親子で時間を作ることです。焦らずに進めましょう。
日程を決める 関係者が全員集まれる日に開く
家族会議を開く日は、関係者となる両親と子どもが全員集まれる日を優先して開きましょう。来られない人がいる場合、後になって「自分は聞いていない」とトラブルの元になるので、子どもが全員集まれる日を優先します。
海外に住んでいる人など、どうしてもその場に集まれない人がいる場合には、ZOOMなどウェブ会議システムも活用しましょう。
また、子どもの配偶者など、相続人ではない人が参加すると、会議がまとまらない恐れがあります。親と相続人となる人だけで話し合うようにしましょう。
場所を決める 資料が取り出しやすい実家がベスト
家族会議を開くからといってかしこまる必要はありません。むしろ必要な資料などがすぐに取り出せる実家で開くのが便利です。家の登記簿や親が取引している金融機関など、会議の中で話題になった時にすぐに確認することができます。
互いに思い出話を交えながら話し合える点でも実家がベストでしょう。
記録に残す 家族全員が見られる状態にする
家族で話し合ったことを記録して残しておきましょう。「全員で聞けば大丈夫」と思うかもしれませんが、記録が残らないと互いが都合よく解釈してしまい、かえってトラブルにつながる恐れがあります。決まったことを書き留めて、全員が見られるように保存しましょう。
家族会議テーマ1「親の財産」 どんな財産が、どこにあるのかを把握
親が元気なうちに相続に備えて家族会議を開くのは、もしもの時に親の財産が、どこに、何があるのかを子どもたちが把握できるようにしておくためです。特に相続財産については、いざ相続する時になって慌てないように、一覧などにしておきましょう。
相続財産になるのは、主に以下のような財産です。
それぞれの財産を把握するうえでの注意すべき点があります。
不動産
- 土地と建物の所有者は同じか
- 登記簿上も親が所有になっているか
自宅以外に所有している不動産があるか
不動産については、2024年4月から相続した不動産の名義を変更する相続登記が義務になりました。実家不動産など、親が所有している不動産が、登記情報も親の所有になっているかどうか、確認しておきましょう。
もしも不動産の名義が親ではなく、既に亡くなっている祖父母(所有者の親)などになっている場合には、親世代で話し合って相続登記を済ませておく必要があります。
金融資産
- 取引している金融機関、支店名、口座番号
- 加入している生命保険会社、証券、受取人
金融資産はどの金融機関に口座があるのか、取引先がわかるようにしておきましょう。特に注意したいのが、ネット銀行・ネット証券です。通帳などがなく、本人のパソコンやスマートフォンにしか情報がないことが多く、相続することになってからアクセスできない恐れがあります。ネット経由で取引している金融機関についても、記録しておきましょう。
借り入れ
相続財産になるものは、預貯金や不動産などプラスの財産ばかりではありません。住宅ローンなどの借り入れのほか、保証債務などがないかどうか確認しましょう。
- 取引している金融機関、支店名、口座番号
その他の財産 海外に資産あれば注意を
自動車や骨董品、貴金属類など、そのほかの財産についてもまとめておきます。また、貸金庫などの契約がある場合にも、どこにあるのかを確認しておきましょう。
海外に資産がある場合、相続対策をしているかどうか確認しましょう。何も対策をしていないと、相続時の手続きに高額の費用がかかることがあります。スムーズに手続きが進むように現地で対策をするか、生前に換金して日本に送金するかを家族で検討するといいでしょう。
また、親の同意があればスマートフォンのパスコードも記録しておきましょう。万が一の時、親の知人に連絡する必要があるときなどに役立ちますし、スマホで撮影した写真にアクセスしたい場合にも役立ちます。
スマホのロックを解除することは、携帯電話会社に依頼しても非常に難しいことです。親の個人情報を聞きづらい場合には、必ず記載しておいてもらいましょう。
家族会議テーマ2「実家の相続」 相続しない場合も検討
両親が共に亡くなった後、実家の土地、建物を誰が相続するのかが決まっていない場合には、実家の処分についても検討する必要があります。
両親はもちろん、家族にとって思い入れのある実家ですから、簡単に売却すると決められるものではありませんが、両親に意向を聞いておくことはできます。
実家の相続で検討する選択肢
実家の相続で検討したい主な選択肢は以下の通りです。
- 両親が老人ホームなどに入所する際、売却して入所費用にあてる
- 両親と同居する子どもが相続する
- 両親が亡くなったら、子どもが相続する
- 両親が亡くなったら、売却する
- 両親が亡くなったら、賃貸住宅として貸し出す
- 両親が亡くなったら、建物を解体して更地にして売却する
など
相続人のうち1人が相続する場合には、その分、ほかの相続人となる人との不公平感を解消するための対策が必要です。引き継ぐ人を受取人にした生命保険に加入して、その保険金を使ってほかの相続人に実家を相続するための代償金として活用することも考えておきましょう。
賃貸住宅として貸し出したり、売却したりする場合、誰が主導して進めるのかも決めておきましょう。
親の生前に処分する場合の注意点
両親が老人ホームなどに入るタイミングで実家を売却して入所費用に充てる場合、注意したいのは両親が認知症になってからでは実家を売却することができないことです。
認知症になるリスクを考える場合には、子どもが両親と任意後見の契約を締結するか、家族信託契約を結び、認知症になった後でも子どもが両親のために実家を管理したり、処分したりできるようにしておく必要があります。
思い入れのある家の処分 親の意向に耳を傾ける
実家の不動産は、両親にとっては家族を築いた足跡ともいえるものです。単に財産的な価値だけでははかれない価値があるものです。
子どもたちの中で誰も相続する意思がなかったとしても「財産価値が低い」「誰も欲しくない」などというネガティブな視点ではなく、売却を検討する場合でも「将来、新しい家族にこの家に住んでもらう」など、前向きな言葉で選択肢を提示するようにしましょう。
また、両親が実家をどうしてほしいと考えているのか、という視点も大事に話し合いましょう。
家族会議テーマ3 遺言書 財産規模に関わらず検討
遺言書を書いてもらうことも、将来、相続トラブルを防止するうえで非常に重要です。親子で話し合うことができれば、書いてもらうよう提案してみましょう。
遺言書に書いてもらうことは、以下のようなことです。
- 親の財産の種類:家族会議のテーマ1で紹介した、どんな財産がどこにあるのか
- 遺産分割のしかた:誰に、どの財産を相続させたいのか
- 遺産分割についての意思:遺産分割のしかたについて指定した理由
など
親が亡くなった後になって「親はどう考えていたんだろう」と思っても、その時には聞けないことです。親の遺言書があることで、子どもたちも「父さん(母さん)が遺言書でそう書いているなら、それに従おう」となるものです。
財産の規模にかかわらず、遺言書については書いてもらうよう依頼してみましょう。
家族会議テーマ4 遺産分け 法定相続分を参考に
親の財産が把握できたら、財産をどのように分けてほしいか聞いておくことができれば聞いてみましょう。
相続人ごとの相続割合について
遺産を子ども同士で分ける場合、法定相続分では互いに等分に分けることが原則ですが、遺言書や話し合いで法定相続割合通りに分ける必要はありません。
相続する順位と法定相続分は下の図の通りです。
親が遺産をどう分けたいと考えているのかを聞いてみましょう。また、子ども同士の意見を出し合うのもよいでしょう。
遺産を分ける方法について
遺産を分ける方法には大きく分けて4つの方法があります。
現物分割:遺産をそのままの形で相続人に分ける方法。土地や建物、株式などそれぞれの財産を相続人がそのまま引き継ぎます。
例)長女Aさんが実家不動産、長男Bさんが預貯金、次女Cさんが現金を相続する。
換価分割:遺産を売却して現金にして相続人で分配します。遺産を現物で分けることが難しい場合などに選択します。
例)相続財産の実家の土地と建物を売却し、その結果得られた3,000万円を相続人3人で分ける。
代償分割:特定の相続人が遺産を現物で相続し、その代わり他の相続人に現金など代償を支払う方法です。
例)長女Aさんが実家の土地・建物を相続し、その代わりに長男Bさんと次女Cさんにそれぞれ1,000万円ずつ支払う。
共有分割:相続人が遺産を共有する方法です。相続人全員が共同で所有し、使用や処分について協議しながら進めます。
例)相続人3人が一つの土地を共有名義で相続する。
親の生前に家族会議の場できっちり決めるのは難しいことですが、話し合えるようであれば親の希望を聞いたり、相続人となる子どもたちそれぞれの意見を出し合ったりしておくのもいいでしょう。
特に、相続人のうち1人が実家の不動産を引き継ぎ、ほかの相続人に代償金を支払う場合などには、代償金が必要になります。十分な代償金がない場合などには、実家を引き継ぐ相続人を受取人として生命保険をかけ、死亡保険金を代償金にあてるなど、親が生前のうちに相続対策を検討しておくといいでしょう。
家族会議テーマ5葬儀や供養 本人の希望あれば
葬儀についても、本人の希望を聞いておくことができれば話を聞いてみましょう。
葬儀の形式
葬儀の形式について親の希望を確認しましょう。親が希望する葬儀の形式には、以下のような選択肢があります。
宗教儀式: 仏教、神道、キリスト教など、宗教に基づく儀式
無宗教葬: 宗教にとらわれない形式での葬儀
家族葬: 親しい家族や友人だけで行う小規模な葬儀
直葬: 通夜や告別式を行わず、火葬のみを行う形式
希望する葬儀の場所
親が希望する葬儀場の場所や種類についても話し合いましょう。
自宅葬: 自宅で葬儀をする
葬儀場: 専門の葬儀場で行う葬儀
特に、親が特定の葬儀社の互助会などで積立をする生前契約をしている場合には、葬儀社名やその内容、すでに支払っている費用がいくらか確認しておきましょう。
予算と費用の準備
葬儀の費用も重要です。
予算: 葬儀にかける予算をどれくらいに設定するか。
費用の準備: 葬儀費用のために、生命保険や貯蓄などの準備があるかどうか。
親族や友人への通知方法
葬儀の際に連絡を取るべき親族や友人について聞きましょう。リストを作成しておくと便利です。もしもの時の連絡方法(電話、メール、SNSなど)も確認して記入しておきます。
遺影を検討する
いざという時になって慌てないよう、親が希望する遺影や、葬儀などで使う遺品について話し合いましょう。「遺影」などと言わずに家族会議の話し合いで集まったのを機に、家族写真や遺影として使える写真を撮っておくのもよいでしょう。
仏壇やお墓について
相続した後、誰が仏壇やお墓を承継するかについても確認しましょう。仏壇やお墓は、祭祀財産と呼ばれ相続財産ではありません。祭祀財産は、これらを引き継ぐ主宰者が承継します。
お墓: 既にお墓がある場合はそのお墓の維持について、新たに購入する場合はその場所や購入方法
実家の処分を検討する場合には、同時に検討する必要があるのが、お墓についてです。相続した後、実家を処分してしまうと墓参りだけに実家のあった場所に帰るのは難しいものです。相続と同時に墓の移転や墓じまいについても親子で話し合いましょう。
家族会議の注意点 全員の意見を聞く場に、専門家を交えてもよい
家族会議は、親が亡くなった後も家族が仲良くし続けるために開くものです。互いが平等に意見を入れたり、親の考えを聞いたりする場にしましょう。相続の専門家に入ってもらい、相続について相談しながら話し合いを進めるのも一つの方法です。
特に以下の点に注意しておきましょう。
- 話し合いは親子で:相続人ではない子どもの配偶者は呼ばない
- 記録をとる:その場で話し合ったことは、必ず文書にまとめておく。話し合うだけでは互いに都合よく解釈してしまい、相続する際「言った・言わない」と争いの原因になる恐れがあります。
- 親の意思を尊重する:相続の話題はデリケートなものです。親の意思も尊重し、配慮をもって聞きましょう。
- 専門家にも相談:相続の専門家には弁護士、税理士、司法書士、行政書士らがいます。話し合いの場に参加してもらってもよいでしょう。中立な立場で意見を求めることもできます。
家族会議は親の人生を充実させ、家族が円満でいるため
家族会議は、親が元気なうちに家族全員が納得できる形で相続について話し合う絶好の機会です。
親の財産や葬儀の希望、遺言書の作成などを通じて、将来のトラブルを防ぎ、家族が仲良く過ごすための準備になります。また、家族会議を開いて親の希望を聞くことで、親のその後の人生が充実するものになるはずです。
家族全員が円満に過ごすための大切な時間となることを願っています。
この記事の監修者:井上 佐知子(いのうえ・さちこ)
司法書士事務所 神戸リーガルパートナーズ
司法書士・ファイナンシャルプランナー
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相続については、特に国をまたぐ国際相続についても国内外から数多くの案件をお引き受けします。
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この記事の執筆者:つぐなび編集部
この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
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