「おひとりさま・おふたりさま」でも相続対策は大切です。相続人がいない場合には、遺贈寄付を検討することも選択肢になります。菊間千乃弁護士インタビューの後編は、遺贈寄付への考え方や弁護士とのかかわり方、選び方についても聞きました。
菊間弁護士のインタビュー前編はこちら
菊間千乃弁護士が語る相続 財産も自分が生きた証、次世代につなぐ終活・相続対策を ~前編~
パートナーのためにも保有財産の記録を残す
――「おひとりさま、おふたりさまの相続」ということで、先生も本の中でおふたりさまと書かれていましたが、パートナーと2人で暮らしている方がしておくべきことはどんなことでしょうか。
どんなご夫婦かにもよりますが、特に専業主婦の方の場合だと、夫が亡くなったら生活費の問題がありますし、夫が家計を全部管理していたら、どんな財産があるのかもわかりません。
夫が主に収入を支えている方の場合、「夫が急に亡くなってしまい、これから自分の生活をどうしたらいいのか」と相談に来る方もいます。遺言書でなくても、どこに、どんな財産があるのかを記録しておいてくれれば、遺産をすぐ調べられるのにと思いますね。
相続手続きは、期限が決められているものが多くあります。死亡届などの手続きから葬儀を済ませるまで1、2週間があっという間に過ぎます。弁護士を探して、いくつかの事務所へ無料相談に行って、実際に依頼する弁護士が動き出すまでに2カ月近く経ってしまいます。
相続放棄は亡くなったことを知ってから3カ月、相続税申告は10カ月が期限です。どんな財産がどこにあるのか書き残しておくだけでも、何かあった時に速やかに動けると思います。
次の世代へ想いと共にバトンを渡す遺贈寄付が広がってほしい
―― おひとりさまやおふたりさまの中には、子どもなど、血縁関係が近い相続人がいないケースもあります。そんな方には遺言書で慈善団体などに寄付する旨を残しておき、死後に財産を寄付する遺贈寄付も選択肢かと思います。遺贈寄付についての相談は多いですか。
相談はまだそれほど多くない印象です。おひとりさまやおふたりさまで、子どもがいない方の場合、何もしないまま亡くなると、遺産は国庫に入って使途がわかりません。
ならば、自分がお世話になった自治体や趣旨に共感できる団体などに自分のお金を渡す遺贈寄付を考えてみてはどうかなと思います。
例えば、地元の自治体に対し、「子どもの通学路の交通量が多くて危ないからガードレールを作るために使ってほしい」とか、「自分がよく行った公園にベンチを置いてほしい」というように、自分の希望や想いを残すことができます
遺贈は、遺言書に「この団体に寄付する」と書いても、生前に金額を決めなければいけないわけではありません。自分の財産ですから自分が死ぬまで使って、余った財産の中から、寄付をするということです。
自分の想いを寄付という形で次の世代に託し、自分が亡くなった後、空から「世の中をいい方向に変えていくことに使ってくれているな」と思えたら、気持ちがいいのではないでしょうか。天国にお金は持っていけないのだから、遺贈という考えがもっと日本に広がるといいなと思っています。
――寄付をするのも、富裕層がすることだと思う人もいるようです。
私が相続セミナーを担当する際は、最後に必ず遺贈寄付についてのお話しをします。ただ、みなさん遺贈寄付をすると、「自分が生きている間に使うお金が減ってしまうのではないか」とか、「遺言書を書く段階でいくら寄付すると決めなければいけないのか」と思うようです。
そうではなく、自分のお金は死ぬ間際までしっかり使って、使いきれずに残った分を寄付するというのが遺贈寄付です。
私は「全国万引犯罪防止機構」や、日本発の国際人権NGOである「ヒューマンライツ・ナウ」といいったNPO法人の活動に参加していますが、NPO法人はどこも資金的に余裕がなく、1万円でも2万円でも、寄付を頂けると非常にありがたいです。
遺贈寄付にご興味を持たれた方は、受け付けている団体を探してみたり、遺言書にどう書いたらいいか、遺贈寄付の方法についても、弁護士に相談してみると良いと思います。
弁護士選びのポイント 法律相談の際、熱心に耳を傾けてくれる人か
――一般の方にとって、弁護士事務所に相談に行くのは、心理的にもハードルが高いように思います。私たちが弁護士を依頼する時にどのように選んだらいいと思いますか。
そうですね。たとえば、無料相談を利用したとしても、その場で契約する必要はなく、「持ち帰って考えます」と言って頂いても構いません。今、多くの弁護士は初回相談を受けた際、いわゆる見積書のようなものを出します。ほかの事務所でも話を聞いて、各事務所の見積もりを比較して、それから決めるということでも良いのではないでしょうか。私が所属している事務所も、初回相談で色々なお話をしても、結局「ほかの事務所にします」と言われることもあります。
ただ、費用面ばかりでなく、打ち合わせやメールでのやり取りを通じて、相性が合うな、一生懸命取り組んでくれそうだなと、ご自身が思える事務所に依頼するのがいいと思います。
一一人間同士ですし、家族のことや財産の悩みを話すわけですから、伴走してもらう専門家との相性も大事ですね。
大事だと思います。契約で失敗しないためには、冷静に落ち着いて、自分で考える時間を持つということです。どんな契約も、その場で説明されてその場で契約をすると、どうしても相手のペースになりますから、あとから、大丈夫だったかしら?等と心配が出てきてしまうものです。
弁護士との契約も同じで、全然格好つける必要はありません。「いったん持ち帰ります」と言われて、それでおかしいとか失礼だなんて思う弁護士はいないと思います。
私は弁護士もサービス業だと思っているので、皆さんはサービスを利用する側として、「こちらの要求に十分応えてくれないのであれば、別の弁護士に変えよう」くらいの心持ちでいいと思います。
一一逆に菊間弁護士が相続の相談を受ける立場として、相続の案件を引き受ける時に心がけていることはありますか。
やはり費用ですね。依頼者の方にメリットがなければ、結果的にご満足いただけない結果になってしまいますので。
遺産額によっては弁護士報酬を支払うことでクライアントの取り分が非常に減ってしまうとか、地方の方だと弁護士の移動などで相当な費用がかかるので、そんな場合は地元の弁護士にお願いしたほうが良いのではないかと提案します。
一一相続は感情的な不安も伴う問題です。私たちにとって、弁護士に法律相談する時も、感情的な不安を切り離して話すことは難しい時があります。
感情面も含めて相談者が抱える複雑な問題を全てお話し頂いたほうが、弁護士としては仕事がやりやすいと思います。複雑に絡み合った問題を1つ1つ解きほぐしていき、何からまずやらなければいけないか、その後どうしていくか、という解決までの道筋をご提案すると、相談者の方は「すごくクリアになりました」と言って、とてもいい表情で帰られます。そういう方は大抵ご依頼してくださいます。
逆に、ご自分の疑問をランダムでご質問してくるような方ですと、回答に困ることがありますね。前後の文脈や流れを聞かないと、的確な回答はできません。法律相談って一問一答ではないと思うんです。それならAIに任せればよいのですから。
初回の法律相談は、かなりの時間を使って、じっくりお話を伺いますし、そういう流れで今に至っているのであれば、その方策はこうですね、こういうやり方もあるのではないですか、等と、その方に対して、適切なアドバイスができるのではないかと思います。この段階で、信頼関係を築けそうだと互いに思えないと、その後もなかなか難しいかもしれませんね。
皆さんも、専門家に相談に行ったら、まずは自分が相続問題の何に不安を感じているのか、何がわからないのかを積極的に話してください。熱心に耳を傾けてくれる専門家が、きっと相性もいい人なのだと思います。
菊間千乃さんプロフィール
弁護士法人松尾綜合法律事務所 代表社員 弁護士 公認不正検査士
早稲田大学法学部卒業
1995年、フジテレビにアナウンサーとして入社。
2011年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。紛争解決、一般企業法務、コンプライアンスや危機管理等の業務を中心に幅広く手がけている。各種セミナーも毎年数多く担当しており、金融機関での相続セミナーなども精力的に行う。事務所内の相続チーム所属。
『おひとりさま・おふたりさまの相続・終活相談』(新日本法規/税込み2,200円)
「おひとりさま」や「おふたりさま」の相続や終活にまつわる疑問に、菊間弁護士ら相続問題のエキスパートである弁護士と税理士がわかりやすく解説しています。法律や税金の難しい問題も、モデルケースやイラストを使って説明されています。
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この記事の執筆者:つぐなび編集部
この記事は、株式会社船井総合研究所が運営する「つぐなび」編集部が執筆をしています。
2020年04月のオープン以降、専門家監修のコラムを提供しています。また、相続のどのような内容にも対応することができるように
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